火蓋を切る
昔書いたものを編集し直しました。
「今夜はずっと一緒にいようね、美紀」
「もう。もちろんっ」
「君は僕のサンタだよ。こんなに幸せを届けてくれてるんだ」
「ふふっ、たかしくんったら。それを言うならたかしくんもだよっ!」
キャッキャッ……
うふふ……
恋人同士、俗に言うリア充が表にあふれかえっている今日、聖夜。
歴史の授業でやっただろうか、キリストの誕生日だ。
しかし、彼らはそんなこと気にしていない。
ただ特別な日だからとこの日を利用し、いちゃついているのだ。
「まったく、騒がしいのう……」
このようにキリスト様もお怒りであろう。
「な、私たちの頭に声がキリスト様ああっ!!!」
「あああ、熱心に信仰した甲斐がありましたわ!」
「まさか、こんなことが……今まで生きてきてよかった」
「「「「ははーーーー」」」」
ごらんのように、信者たちの頭にも声が届くくらいである。
感極まって泣いている者までいる。
それほどまでにリア充の愚行は被害を出しているのである。
閑話休題
リア充どものお祭り騒ぎは、夜になるとさらにヒートアップする。
ショッピングセンター・公園・ホテルなど、至る所に彼らは出現する。
ここ、都市部にある緑のオアシス。普段はお年寄りが多く散歩している公園も、例外ではなかった。
公園中央。クリスマス仕様ということで、近所の人たちがイルミネーションした、大きな木の下。
二人の男女が微妙な間を開けて立っていた。
「あ、あのさ…」
照れ隠しに頬をかく男。
「な、なに……?」
女も照れているのか、せわしなく手を動かしている。
「ずっと前から好きでした」
「うん……」
すうーっと息を吸い込む。
意を決したのか、相手の顔をじっと見る。
「俺と付き合ってください」
「……はい。私もずっと好きでした」
そのあと互いに顔を見合って恥ずかしそうに目をそらした。
けれど、男の手はそっと差し出されていた。
新米彼女はその手をじっと見つめ、自らも恥ずかしそうに手を差し出した。
周りのカップルたちも、新しい仲間の誕生を温かい目で祝福する。
新米カップルの初々しい雰囲気は、周りのカップルを刺激した。
「私たちも初めはあんな感じだったよねー」と話の種になれば、付き合いたての頃感じていた新鮮な魅力を思い出したのか、よりいちゃつき出すカップルもいた。
彼らにとっては、とても幸せな時間なのだろう。
しかしそれを好ましく思わない者もいる。一人でクリスマスを過ごす者。仕事をいれて一人頑張っている者。サンタのコスプレをして、嫌々笑顔を振りまいている者など、俗に言う非リア充達だ。
そしてこの男もその内の一人だった。
「爆発しろおおおおお!!リア充どもオオオオオオオ!!!」
「え、なになに。……って、うわああああ!」
「なんだっ」
けたたましい音が鳴り響いた。
強い風が吹き荒れ、木々を揺らす。
イルミネーション、果ては電線まで千切れ、明るかった公園が一瞬で闇に包まれる。
その最中、しっかりと聞こえた上空からの声。
何事かと、リア充達は一斉に上を向いた。
そこには星の光ではない、一つの光があった。
ヘリコプターだ。
「なんでこんなところにヘリコプターが。
それに、さっきの声は……?」
答えは直ぐに帰ってきた。
見上げているリア充の視界に、ぽつんぽつんと黒光りするものがうつる。
そしてその点はどんどん大きくなっていき――――――爆発した。
木々に着火し、次々に燃え広がる炎。
さらに、熱風が吹き荒れ地上の人々の肌や肺を焼く。
衝撃で付近のビルのガラスが割れ、破片が降り注ぐ。
突然のことにリア充達はなすすべもなく蹂躙された。
「ヒャアッハァ!!オラオラオラオラアアアアアアア!!」
次々と落とされる爆弾。
その勢いにこの広場はおろか、近隣の住宅地までもが災禍に巻き込まれた。
屋根は吹き飛び、壁や塀の破片が宙を舞う。
熱波が通り過ぎた後には、カーテンや木材が火を上げた。
熱波、炎、煙、そして今なお降り注ぐ爆弾の衝撃が、この地域全体を地獄と化させた。
その惨状を作り出したヘリコプター。
高田伸也はそれに乗り、眼下を眺め悦に浸っていた。
「ふふ……ひゃはっあはははははははアァ!! いいざまだよリア充さんどもよお。
えぇ? さんざんこけにしてきた俺ら非リアに報復されてどんな気分だよォ!なあなあ?
……って、もう誰も話せねえか」
爆弾の雨により、広場にはもう生存者は残っておらず、肉や草木が焦げた臭いが漂っていた。
全員死んだのを確認したのか、ロープを下ろして伸也が降りてくる。
ロープがギシギシと音をあげた。少し伸也の上を見ると、途中が切れそうになっていた。それだけではなく、ロープに引かれるようにヘリコプターも傾いていた。
伸也の体重が原因だ。
落ちるより降りろ。伸也はおよそ建物の二階ほどの高さから飛び降りた。
ズンッという音を響かせて地面に降り立つ。伸也の着地は音に似合うだけの揺れも伴っていた。
伸也の体も揺れた。
足から腹、腹から胸、胸から腕、首、頭。といった具合に、脂肪が下から上に波打ち、衝撃を流していった。
頭から衝撃が抜けると、伸也は顔を上げた。
焼け野原になった公園。炭化したリア充達を視界に入れる。
「ひひっ……ひゃははっ!!
さぁァァァァイこォォうの景色じゃねえかァ!!」
そして、がさごそとポケットをあさった。
目当てのモノを見つけたようだ。
焦げた地面に置き、導火線に火をつける。
轟音がし、真っ赤な花火が夜空に打ち上がった。
時を同じくして、ここ西京一帯に爆発音が響いた。
否、西京だけではない。間西全域に同じようなことが起こっている。
「さァァてェ聖戦のはじまりだアアア!!」
腕を広げ、煙が立ちこめる夜空に叫んだ。
その後、どこからかポテチを取り出した伸也は、十枚ぐらいを一手につかみ口に放り込み、バリバリと音を立ててかみ砕いた。
口の周りを油で汚し、大口を開けて笑いながら伸也は街に繰り出した。