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推し活に人生を捧げた俺、異世界でアイドル文化を布教します  作者:


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【5話】休日を取るようになりました

「――あの」


その声で、俺は顔を上げた。


あの公園。


また出会えるかと淡い期待を抱き行くと、そこに、彼女がいた。


「昨日は大丈夫でしたか?」


「あっ……はい」


思わず間抜けな返事になる。


昨日のことを思い出して、少し気まずくなる。


完全に不審者だった。


「えっと……」


彼女は少しだけ迷ったように視線を泳がせてから、軽く頭を下げた。


「ちゃんと自己紹介、してなかったなって思って」


「え?」


「私、ヒカリって言います」


一瞬、時間が止まった。


ヒカリ。


その名前が、やけに自然に耳に残る。


「ヒカリさん……」


「はい」


「ユウトです」


「はい」


気まずい空気が流れる。


でも、どこか少し安心した気持ちもある。


「改めて、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


軽く頭を下げ合う。


それだけのことなのに、空気が少し変わった気がした。


それ以来、俺は定期的に休日を作るようになった。


相変わらず依頼は受けている。


薬草採集。


簡単な魔物討伐。


荷物運び。


毎日働こうと思えば働ける。


でも、休む日を決めるようになった。


理由は簡単だ。


「今日は休みか」


休日が楽しみになったからだ。


もちろん、待ち合わせなんてしていない。


約束もしていない。


ただ、昼過ぎくらいになると、ヒカリが街はずれの公園の近くを通ることが分かってきた。


実家で営んでいる商店の配達の途中らしい。


だから俺も、その時間になると公園へ向かうようになっていた。


「こんにちは」


「こんにちは、ユウトさん」


今日もいた。


少しだけ安心する。


「今日は何を運んでたんですか?」


「調味料と乾物ですね」


「重そうですね」


「慣れました」


「すごいなぁ」


「ユウトさんこそ、毎日働いてますよね」


「最近は少し減らしました」


「そうなんですね」


「休めって言われたので」


「誰にですか?」


「ギルドの受付嬢に」


「あははっ」


ヒカリが笑う。


その笑顔を見るだけで、なんだか嬉しい。


俺もつられて笑った。


不思議だ。


こんな感覚は久しぶりだった。


昔は当たり前のようにあった。


次のイベントまであと三日。


ライブまであと一週間。


そんな予定が生活の中心だった。


でも、この世界に来てからは何もなかった。


ただ働くだけの日々。


それが悪いわけじゃない。


でも、少し寂しかった。


今は違う。


「次の休み、何しようかな」


そんなことを考えるようになっていた。


そして、その答えは決まっている。


公園へ行く。


それだけだ。


なのに、少し楽しみだ。


「あれ?」


もしかして。


これって。


「推し活……?」


いや、違うか。


違うよな。


うん。


違う。


でも、似ている。


そんなことを考えていると、ヒカリが首を傾げた。


「どうしました?」


「いえ、何でもないです」


「変なの」


「あはは」


他愛もない会話。


でも、それが心地いい。


そんな日々が数週間続いた。


すると、ある日。


ギルドで受付嬢に呼び止められた。


「最近、変わりましたね」


「そうですか?」


「はい」


「どこがです?」


「ちゃんと休むようになりました」


「言われましたからね」


「あと、少し柔らかくなりました」


「柔らかく?」


「最初は、何というか……」


受付嬢が少し言いにくそうにする。


「仕事のためだけに生きてるって感じでした」


「うっ」


「今は楽しそうです」


そうなんだろうか。


でも、否定はできなかった。


確かに、毎日が少し楽しくなっている。


「何かいいことでもあったんですか?」


「どうでしょう」


「怪しいですね」


「秘密です」


「ふふっ」


受付嬢が笑う。


秘密。


そう言うと語弊がある気がする。


でも、本当に説明が難しい。


『もう会えない大事な人に似ていたから、定期的に会いに行っています』


なんて言ったら、完全に怪しい人だ。


……怪しい人だな。


気を付けよう。


そうして、また休日がやってきた。


俺は少し足早に公園へ向かう。


すると。


「こんにちは、ユウトさん」


先にヒカリが来ていた。


「あっ、こんにちは」


「今日は少し早いですね」


「そうですね」


自然と笑顔になる。


そして、ふと思った。


前世の俺に教えてあげたい。


異世界でも、楽しいことはあるぞって。

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