【4話】休日、何してたっけ
「最近、働きすぎですよ」
朝、ギルドに顔を出すと受付嬢に止められた。
「そうですか?」
「そうです」
「でも、まだまだ働けますよ?」
「それはそうかもですけど……」
受付嬢が少し困ったように笑う。
「普通の人はそんなペースで依頼を受けません」
「そうなんだ」
「そうなんだ……じゃないですよ!今日は休んでください!」
「えぇ……」
思わず声が漏れる。
すると受付嬢が呆れた顔をした。
「嫌そうな顔をしないでください」
「だって暇なんですよね」
「趣味とかないんですか?」
「……」
趣味。
そこで言葉に詰まる。
前世なら即答だった。
推し活。
ライブ。
イベント。
遠征。
特典会。
でも、この世界にはない。
「……ないですね」
「ないんですか?」
「ないです」
「そうですか……」
少し可哀想な人を見る目をされた。
失礼だな。
でも否定できない。
「じゃあ今日は休みます」
「はい。明日また来てください」
「分かりました」
ギルドを出る。
さて、どうしよう。
暇だ。
本当に暇だ。
まずは市場へ向かった。
服を見る。
食べ物を見る。
雑貨を見る。
でも、特に欲しいものはない。
「ふーん……」
買えなくはない。
むしろそこそこ余裕がある。
でも、欲しいと思わない。
前世なら違った。
新グッズ。
新衣装。
生写真。
アクリルスタンド。
いくらでも欲しいものがあった。
「……」
次は酒場に入ってみた。
せっかく異世界なんだ。
一度くらいは経験してみよう。
料理を頼む。
肉料理が出てきた。
うまい。
お酒も飲む。
うまい。
周りを見る。
みんな楽しそうだ。
冒険の話。
依頼の話。
恋人の話。
笑い声が飛び交っている。
でも。
「……なんだろうな」
楽しくないわけじゃない。
でも、満たされない。
空っぽだ。
前世なら、休日はこんなものじゃなかった。
ライブがあった。
イベントがあった。
オタク仲間との会話があった。
終わった後に感想を語り合った。
SNSを開いて余韻に浸った。
あの時間が好きだったんだな。
改めて実感する。
酒場を出る。
まだ昼過ぎだ。
「どうしようかな……」
やることがない。
気が付くと、街はずれまで歩いていた。
そこには小さな公園があった。
木製のベンチ。
噴水。
走り回る子供たち。
平和な景色だ。
なんとなくベンチに座る。
ぼーっと空を見上げる。
すると。
「~♪」
鼻歌が聞こえた。
綺麗な声だった。
思わず視線を向ける。
一人の少女が歩いている。
買い物袋を持ちながら、楽しそうに鼻歌を歌っている。
別に人に聞かせるためじゃない。
自分が楽しいから歌っている。
そんな感じだ。
そして。
少女がふと笑った。
その瞬間。
俺の思考が止まる。
「……え」
似ている。
朝霧ひかりに。
顔も。
雰囲気も。
笑った時の柔らかさも。
全部ではない。
もちろん違う。
髪型も違う。
服装も違う。
別人だ。
でも。
似ている。
ドクン。
心臓が大きく鳴る。
視界が揺れる。
「……っ」
もう会えないと思っていた。
二度と見られないと思っていた。
なのに。
目の前にいる。
もちろん違う人だ。
そんなことは分かっている。
それでも。
涙が溢れた。
ぽろっ。
ぽろっ。
止まらない。
少女がこちらを見る。
そして、慌てて駆け寄ってきた。
「えっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あっ……」
しまった。
俺、知らない人の前で泣いてる。
完全に怪しい人だ。
でも、言葉が出てこない。
嬉しい。
悲しい。
懐かしい。
いろんな感情がぐちゃぐちゃになっている。
「ご、ごめんなさい……」
「えっ?」
「ちょっと……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「……あっ」
やばい。
何言ってるんだ俺。
少女は困ったように首を傾げていた。
そして、俺の異世界人生は、大きく動き始めた。




