エピローグ~われはピアディ、無敵かわいいウパルパ
「ぷぃ~ぷぃ~♪(わーれはピアディー、かわゆいウパルパ~♪ ウパルパ~♪)」
一人、大海原を漂うピアディはお歌を歌ってご機嫌だった。
海中大冒険の後、ピアディのステータスには大きな変化があった。
『無敵(海限定)』の表記が増えたのだ。
しかも、精密な詳細鑑定を行なったところ、『弱体化(陸上限定)』があることも判明した。
ピアディが幸運値が高いにも関わらず、陸ではいまいちだった理由だそうだ。
ちなみに、仲の悪かったあの魔王おばばとも仲直りした。
綿毛竜の雛が孵ってしばらくして、ピアディは夜の海の底で見つけたもののことを思い出したのだ。
(あの貝たんの中にあった丸いの、魔石だったのだ!)
雛竜の卵と似たサイズの真珠のことだ。海の魔物化した真珠貝が作り出した、魔石化した真珠である。
道理でやたら大きな貝だとピアディは思った。
泳げるようになったピアディは、ひたすら近海に潜っては真珠の魔石を集めに集めた。
それを宝箱に詰め詰めして、おばばに献上したのである。
宝箱とはいっても、聖剣の聖者様が用意してくれた小箱だったけれども。
「ぷぅ(おばば……じゃなかった、ジューアおねえたま。これまでのごぶれい、おわびもうしあげるのだ。これはほんのきもち)」
「ま、まさかこれは……深海の涙か!」
それまでどれだけピアディが距離を詰めようとも仲良くしてくれる気配もなかった魔王おばばは、宝箱に詰まった真珠に目の色を変えた。
――深海の涙。
古代のお魚さん王国の近海でのみ獲れた、貴重な超レアレア魔石の名前である。
王国だった頃のカーナ王国では、王家の秘宝の冠にも使われていた真珠だ。
今となっては大金貨を山ほど積み上げても、一粒も買えないほどお高い貴重なものだった。
地上のレア魔石といえば、代表的なものはダイヤモンドの上位鉱物アダマンタイトがある。
この真珠は希少度でいえば、それに匹敵する。
とはいえ、宝飾品店に並ぶ物とは異なって、ピアディが集めてきた真珠は大きさも形も色もまばらで、丸い形をしていないものも多かった。
ピアディの爪ぐらいの、鼻息だけでどこかへ飛んでいきそうなほど小さなものもたくさん。
だが、それを指摘するほど魔王おばばは大人気ない人ではなかった。
「これほどの数を集めるには苦労しただろう。良いのか?」
「ぷぅ(ジューアおねえたまには、われの大切な雛竜たんの卵を助けていただいたのだ。どうぞお納めくださいなのだ)」
生意気ウパルパのピアディはこのとき、初めて他人に頭を下げた。
「ぷぅ(あのねあのね。それでね、……われと仲直りしてくれる?)」
もじもじしながらお伺いを立てると、フッと笑ったおばばにぷにっと両手で捕まれ、銀色の花の咲いた 湖面の水色の瞳で目を覗き込まれた。
「良かろう、歌聖ピアディよ。友……になるより、貴様は私の弟子になれ。二度と私をおばばなどと呼ばぬよう、きっちり作法を仕込んでくれるわ」
「ぷぅ!?」
その日からピアディは魔王おばばの弟子となった。
ステータスには『魔王ジューアの弟子』の表記が増えた。
実は『魔王ジューアの寵愛』も最初からあったのだが、そのことにピアディが気づくのはずっとずっと後のことである。
あんまりにもそのご指導が厳しかったので、おばば、もといジューアおねえたまの目を盗んで逃げてきたところだった。
海上神殿からぴょんっと外の海に飛び込めば、もうピアディの行動を妨げることのできる者は誰もいない。
「ぷふー(ぷふー。われ、海ならむてきだもん。 ジューアおねえたまになぞ見つかるもんかなのだー)」
ぷくく、と背泳ぎしながら短い前脚で口元を押さえて悪戯っ子の顔で笑った。
まさか、そのままうとうとと眠ってしまって、海流に乗って遠い遠い異国に流されてしまうなんて、思いもせずに。
ピアディの子守りの綿毛竜のユキノや、その子どもの〝うんめい〟の雛竜が見つけてくれるまで、海をひたすら 揺蕩い続けるピアディだった。
「ピアディと愉快な仲間たち」
夏休みの冒険編、おしまい。
番外編に続きます!




