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不法侵入者なのだ!

「あーあ。観光ガイドおすすめのレストラン・サルモーネでお食事したかったなあ!」

「チッ、お高く止まりやがって。なあにが予約客優先です、だよっての!」


 夜、首都の中央通りから男女がほろ酔い加減で道を歩いていた。

 昼間、浜辺でイチャイチャしていた年の差カップルだ。何度もいたいけなピアディにビーチボールを当てても謝らず、こっぴどくお仕置きされていた連中のうちの一組である。


 お目当ての鮭料理レストランには入れず、仕方なく観光ガイドおすすめの別の店で食事と酒を楽しんだ後、ホテルに戻ろうとしたところだった。


「あっ、パパぁ。ここ、聖剣の聖者様のお屋敷なんだってぇ」


 観光ガイド片手に、二十歳ぐらいのギャルが、パパと呼んだ年配の恋人男性の袖を掴んだ。


 気づくと中央通りから、首都の北西地区に入っている。この辺りは高級住宅街だ。以前は王国だったこの国の、元貴族や富裕な商人たちの邸宅が集まっている地域である。


「へえ。聖剣の聖者ルシウス邸か。まあまあだな」


 背の高い生垣で覆われた敷地の中は、他国ならそこそこ裕福な中堅貴族の家といったところか。


「パパぁ。記念に見学していこうよ」

「いやさすがにお貴族様のお屋敷は無理だろ。……いや待て」


 生垣の隙間から、屋敷の様子が少しだけ見えた。


「あれは……」




  * * *




 そのルシウス邸では、大人たちが揚げタコ焼きとビールで盛り上がっていた。

 途中からウイスキーやジンの炭酸割りに変えて、飲むわ飲むわ。


 この中でお酒を飲まないのはまだ子どものピアディと、お酒を好まない聖女様(ねえや)だけだ。

 途中から遅れて、仕事から帰ってきた鮭の人(さいあい)聖女様(ねえや)の彼氏なども合流して舌鼓を打っていた。


「ぷぅ!(おとうたんたち、お酒のみすぎなのだ。われ、先に神殿にかえるのだ)」


 よちよちと食堂から、お屋敷のお庭まで歩いていく。

 昼間ならユキノに海上神殿まで連れて行ってもらうところだが、暗い夜は別のやり方での帰還方法がある。


「ぷぅ!」


 一鳴きすると、ピアディの目の前に大人が一人ずつ入れそうな光のもやもやが現れた。

 空間と空間をつなぐ魔法だ。こうしてみると、ピアディは戦うための魔法が使えないだけで、お役立ち系魔法はわりと使いこなしている。


「ピュイッ(まってまって、ピアディ。護衛にもうひとり誰かついてきてもらわなきゃ)」

「ぷぅ(あとからゆっくり来ればいいのだー)」

「ピーア!(仕方ない。すぐ誰か連れてくるからね。先に神殿でお歌を歌ってて)」


 ぷぅと了解したと鳴いて、ピアディは空中に浮かぶ光るもやに向けてぴょんっと飛ぶと、そのまま中へと消えていった。


 後には、光るもやと、飲み物や軽食が入っていると思しき四角いバスケットを持った大人サイズの真っ白な綿毛竜(コットンドラゴン)のユキノが残された。


「ピゥ……(うーん。やっぱり聖女様かなあ。ルシウス君たちはお酒飲んじゃってたし……)」


 バスケットを光のもやの前に置いて、ユキノはお屋敷の中へと戻って行った。




  * * *




 その様子を、生垣の中に紛れて息を潜めながら、男女が見つめていた。


「パパぁ。こんなとこに忍び込んで大丈夫ぅ?」


 ギャルのほうは不安げにしているが、男のほうは自身満々だった。


「なあに、俺たちは他国からの観光客だ。あのピンクのカエルもどきを確保して、その足で国外に出てしまえば問題ないさ」

「そお?」


 こそこそっと二人は光のもやの元へ駆け寄った。

 近くに置かれているバスケットは見た目通り、夜食や飲み物が入っている。


 その傍らに、小さなカゴに入った卵があった。あのピンクのカエルモドキより少し大きめだ。

 殻はやや半透明の白色で、中の雛の姿がうっすらと透けて見えていた。


 卵だけなら何の種族かわからないが、雛は背中に翼があり、尻尾がある。鳥ではない。この特有の形は……


「なあに? それ」

「こいつぁ、竜の卵だ。ははっ、上手くいけばあのブサイクカエルより高く売れるぞ!」

「それサイコー! パパ、あたし真珠がほしーい!」


 屋敷の中から足音が聞こえてくる。あのカエルもどきを追いかけて綿毛竜(コットンドラゴン)が戻ったきたのだろう。


「行くぞ!」

「あっ、どこへ!?」


 卵の入ったカゴだけを持ってギャルの手を掴み、男は一緒に光のもやの中へ躊躇なく飛び込び、――姿を消した。



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本作の本編にあたる「聖女投稿」はアルファポリスで書籍化のため、なろう版は削除いたしました。アルファ版ページで連載が続いております。
アルファポリス版「聖女投稿」作品ページ(別窓)
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