いにしえの戦争で兄嫁さま覚醒なのだ
「ぷぅ~ぷぅっぷ~♪」
海上神殿のエントランスで、海との境目にある階段の上からピアディは祝福の歌を歌った。
ピアディの小さな半透明の身体から吹き出す虹色キラキラを帯びたレモンイエローの聖なる魔力が、ゆっくりゆっくり建物や海へと広がって行く。
魔力はそれからしばらく海や陸地を薄っすら光らせていたが、やがてすーっと落ち着いて消えていった。
ざーん……ざーん……
波と波がぶつかり合う音が、耳に心地よい。
昼間はあんなに暑かったのに、肌に当たる海風は涼しくて気持ちよかった。
広い海、それよりもっと大きな夜空をピアディは見上げた。
「ぷぅ(おそらに川があるのだ。カーナたんみたいな形なのだ)」
陸地から離れた海上神殿からは、夜空の星々がよりくっきり、明るく見える。
緩やかなカーブを繰り返す星々の連なりは天の川、龍の胴体に見えなくもない。
* * *
その昔、ピアディの兄王とカーナ姫の息子がゆりかごの中から生まれて、しばらく経った頃。
魚人族のお魚さん王国と、他種族の他国との間で何度も戦争が起こった。
騙し討ちを多用する評判の良くない獣人の一族と、迎合した人間の国家が敵だった。
お魚さん王国は温暖な地域にある海洋国家で豊かだったが、そこを狙われることが以前からしばしばあった。
そのときも劣勢続きで、苦境に喘ぐことが多かったようだ。
(魚人族、あんまり陸での戦いに強くないのだ。国王様はそれなりに戦えたみたいだけど……)
その頃、まだゆりかごの中で白玉状だったピアディは、当時持っていた触手を魔力のアンテナに変えて、海中神殿だけでなく外の世界を少しだけ覗き見ることができた。
まだ生まれておらず、世間知らずのピアディから見ても魚人族は劣勢で苦戦していた。
海中神殿の近くの海域にも昼夜を問わず、騎士や兵士たちの死体が流れてくるほど、激しい戦いが長く続いていた。
(でも戦争はあっけなくおわったのだ。カーナたんが覚醒したのだ)
戦争で長いこと膠着状態が続いていたとき、事態を打開しようと他国の軍部が暗殺者を送り込んできた。
王宮の中に忍び込んできた暗殺者に、夫婦と子ども揃って狙われたカーナ姫。
彼女は夫と息子を守って凶刃を受けて傷つきながらも、獣人の本能を爆発させた。
元は竜人国の王族で、竜人の父王と一角獣人族の母側妃から生まれたカーナ姫は、ピアディの兄と結婚するまでも、してからも一角獣の姿にしか変身できなかった。
とはいえ、進化した種族の一角獣人族は聖なる魔力持ちの多い種族だ。当時は戦争の多い時代だから、癒しの力が使える一角獣はお魚さん王国では大切にされていた。
誰も、カーナ姫が一角獣以外の獣になれるとは思いもしなかったのだけれども。
(おっきなドラゴンだったのだ! キラキラ金色のうろこ! おそらいっぱいの長い長いからだ!)
カーナ姫の出身である竜人族の王族には、竜だけでなく過去の祖先には龍もいたらしい。
二本の長い角と髭、背中にもふもふの毛を持った、蛇体の龍。
一角獣のときはせいぜい仔馬サイズでしかなかったカーナ姫は、空一面を覆うほど巨大な黄金龍と化した。
暗殺者どころか、国内に侵入していた敵国の将校や兵士たち軍隊をまとめてぺしっと長い尾っぽではたいて、お魚さん王国から遠い海にぽいっと捨てたのだ。
(あれには、カーナたんの故郷からの援軍もあっけにとられてたのだ~)
まさか、自分たちが冷遇していた『出来損ない』で『雑種』の姫が、伝説の龍に変身するポテンシャルを秘めていたとは。すっかり面子が潰れてしまったわけだ。
そして、巨躯を持つ黄金龍の守護を得たお魚さん王国の圧勝で、戦争は終結したわけである。




