表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第四章 世界の中心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/48

第四十話 ユナイド・ステイリア連邦

「きゃああ!はやぁぁぁぁぁい!!!!」


 世界鉄道。その車内。

 既にホームから発進した車両の中で、赤頭巾はその驚異的なスピードにテンションをぶち上げていた。


 石炭を燃料とし、馬車を超える速度で走る世界鉄道は、本来馬を飛ばしても一週間は掛かる距離を一日で走破する事ができる。

 だだっ広い草原を千切るような風が、スピードジャンキーのケがある赤頭巾を大いに喜ばせていた。


「はぁ……」


 同じく吹きすさぶ風に靡く帽子を抑えながら、鴉頭は赤頭巾の横でため息を吐いた。


 世界鉄道。

 その車両は先頭を機関室とし、二両目から人間用の車両、そして乗車人数に応じて最後尾車両までを荷物や物資の運搬積載に当てている。

 赤頭巾が騒いでいるこの場所は車両間を繋ぐデッキで、壁が無い分景色をより近くから見られるだろうと鴉頭が赤頭巾に勧めたのだが、彼は既に後悔していた。


「赤頭巾、そろそろ戻るぞ。車掌の巡回が来る」

「あ、はーい!」


 懐中時計を確認するまでもなく時間を把握していた鴉頭は、ご機嫌な赤頭巾に車両へ戻るよう声を掛けた。

 因みに人間用の車両は一応個室になっており、各室を車掌が巡回する形で密入国の防止をしている。

 そのため規定時間内に車掌による切符の確認が出来なければ、車両の緊急停止もあり得るので鴉頭は巡回の時間を確認していたのである。


「でもここまで目立つのに、獣に襲われたりとかしないんですか?」


 指定された個室――と言っても簡素な木の壁に扉を付けただけのものだが、に戻った赤頭巾は暇を潰すように先程の景色を見て感じた疑問を鴉頭に問う。

 同じく個室に戻って椅子に腰を下ろした鴉頭は、窓の外の流れていく景色を見ながら答えた。


「幾ら獣といえどこの速度には敵わん。俺でも無理だろうな」

「あ、いえ、ユナイド……ステイリア、連邦?の方です。人間がいっぱい居るって言ってるようなところじゃないですか」

「ああ、そういう事か。それなら……外を見てれば分かる」


 車両には近づけなくとも、線路さえ辿れば人間の集まる地に獣が殺到するのではないか。という赤頭巾の当然の疑問を、鴉頭は今しがた眺めていた窓の外に親指を指す事で答える。

 鴉頭の指に釣られて赤頭巾が車窓を覗くと、先程までの草原が消えて()()()()()()()()


「これって……湖…………の真ん中に島が……!?」


 赤頭巾の目に映った青色――即ち湖。そのちょうど真ん中の辺りに断崖の島が浮かんでいた。


 この大湖畔に囲まれた島こそが、ユナイド・ステイリア連邦。

 世界連合政府の本拠地であり人類最後の安住の地と呼ばれるこの国は、国土面積の半分を湖と断崖で形成された天然の要塞である。

 更に入国するための経路を世界鉄道のみに限定しており、この地形と徹底した入国管理によって、今日に至るまで獣の侵入を防いできた人類の牙城でもある。


 草原から歪な円を書いて出来た大湖畔の真ん中の島へ伸びていく線路は、これから赤頭巾達の乗る世界鉄道が間違いなくそこへ至る事を教えていた。


「すごい……それに島の中にある建物、ここからでも見えますよ!」

「あー、確かバビロンとかいうダサい名前のところだな」

「どうして嫌味から入るんですか……」


 たとえ世界の中心と呼ばれるような国であれ、いつもの皮肉を忘れない鴉頭に赤頭巾は感心したような、呆れたような声を出す。

 こうして、鴉頭と赤頭巾を乗せた世界鉄道はユナイド・ステイリア連邦へ入国を果たすのだった。



「建物が……高い……」


 世界の中心に降り立った赤頭巾の第一声は間抜けなものだった。


 世界鉄道のホームを降りた鴉頭たちは何事もなくユナイド・ステイリア連邦の地に足を踏み入れていた。

 車両に乗り込んだ時点で、なんなら乗車中に車掌の確認までされている乗客にわざわざ身元の確認などはされない。

 このある種迅速な簡素化された入国も、ユナイド・ステイリア連邦らしいものであった。


 さて、そんなこんなでユナイド・ステイリア連邦に訪れた赤頭巾だが、彼女の度肝を抜いたのはホームを出てすぐ、通りの奥に臨む大きな建造物群だ。


 乗車中も島の外から見えていたその建造物の名前は、鴉頭がダサいと称するバビロン。

 世界連合政府の本拠点で、隣接する建物はそのどれもが各地に存在する支援拠点の本部でもある。


 ベイルムの巨大関門やアーバリの人の多さなど目を惹くものはないが、中央通りの綺麗さやバビロンのステンドグラスの丸屋根など、整備の行き届いた国というものが赤頭巾の目には新鮮に映っていた。


「おい、さっさと行くぞ」


 口を開けて立ち止まる赤頭巾に鴉頭が後ろから追い抜いて先へ向かう。

 赤頭巾は慌てて追いかけながら鴉頭に問いかけた。


「あの、ばびろんでランカーⅠさんに会うんですか?」

「ああ。と言っても中央のあの建物じゃないぞ。その横にある狩人協会本部だ」


 バビロンとはユナイド・ステイリア連邦中心街、その広場を囲むように建てられた建造物群の総称であり、遠景から見えた中央の丸屋根がある建物は中央塔と呼ばれ、鴉頭が目指している場所はその右に位置する建物――狩人協会の本部である。

 徐々に近付いていく各地で目にした支部とはまるで違う美麗な狩人協会に、赤頭巾は開きっぱなしの口を塞ぐ隙が見つけられなかった。

 

「ランカーⅠってことは狩人の中で一番強いってことですもんね……。だから本部に?」

「いや、アイツはそもそも世界連合政府設立に嚙んでたらしい」

「えっ」

「ランカーⅠは狩人()()の頂点。会長も兼ねてるからこんな島に留まっているんだろ」

「も、もしかして私はこれからとんでもなく偉い人に会うのでは……?」

「獣の女王に、バケツ被りのこと……それから(おまえ)のこともある。四の五の言ってられるか」


 まさか世界連合政府の設立にまで関わっているらしいランカーⅠの略歴を聞いて、赤頭巾は顔を青ざめて生唾を飲み込む。

 赤頭巾に反してふてぶてしい態度を崩さない鴉頭は威風堂々と協会の本部に入ると、内装の割に人の少ない受付へ一目散に歩み寄ってたった一言だけ。


「ということでランカーⅠに会わせろ」

「ど、どういう事でございましょうか……?」

 

 立地も相まって逆に滅多に狩人の訪れない協会本部で、開口一番何の説明も無しにランカーⅠへ会わせろと宣う鴉頭に受付嬢が困惑顔を浮かべて至極当然な疑問を口にする。

 協会本部に務める彼女もランカーⅨである鴉頭の事は勿論知ってはいるが、それでも過程というものは必要だろう。

 だが受付嬢の心境を知ってか知らずか、鴉頭は煩わしそうに吐き捨てた。


「居ないのか?」

「い、いえ。ですがアポイントメントは……」

「無い」

「さ、左様ですか」


 ランカーⅠの所在はおろか、予定まで知らないと言い切った鴉頭に受付嬢は口角を引き攣らせて苦笑いを浮かべる。

 もしかして私もいつもこんな顔してるのかな、などと赤頭巾が他人事のように同情している中、それでも態度を変えるつもりはない鴉頭が痺れを切らした。


「あいつには俺が緊急の用で来たと伝えろ。それで時間を作るか、俺を待たせるかはあいつが決めることだ」

「そ、そんな……いえ、少々お待ちください…………」


 鴉頭の言葉は横暴の限りを尽くしていたが、間違っても狩人に口答えなどできない受付嬢は冷や汗を浮かべながら奥へ引っ込んでいった。

 閑散とした建物内で二人きりになった赤頭巾は釘を刺すように鴉頭へ声を掛ける。


「ちょっと可哀想でしたよ?」

「役場の人間に任せるといつまで待たされるか分からん。これぐらいでいい」

「えぇ……」


 反省の色どころかむしろ誇らしげな鴉頭に赤頭巾がドン引きしている時だった。


 二人きりだったはずの協会本部内で、背後から男の声が響いた。



「――相変わらずだな、お前は」

「お前……」

 

 馴れ馴れしく声を掛けてきた男を見た瞬間、鴉頭もまた驚いたように声を漏らす。


 その男は真っ黒い外套に、赤頭巾の銀髪とは違う色の抜けたようなくすんだ白髪を肩の辺りまで伸ばしつつ、その顔は目の辺りだけ穴の開いた鉄製の仮面を被って隠していた。

 背中には背丈ほどありそうな巨大な剣を吊るしており、その特徴が示す所は目の前の男が狩人であることを克明に伝えている。


「……鉄仮面。なぜここに居る?」


 鴉頭が呟いた男の名は、鉄仮面。

 世界の中心で鴉頭はランカーⅠの前にランカーⅤと邂逅を果たすのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ