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鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第三章 協会と教会

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第三十六話 真紅の騎士

 フラウニース首都近郊、ランス。


 獣が潜り込み、その全てが息絶えたその街で三人の人間が対峙していた。


「お前は一体何者だ……!」


 炭化した獣の死体から出た煤が空を舞う中、抜身の剣を携えた鎧の人物が叫ぶ鴉頭と赤頭巾を兜の下から睨めつける。


「……半獣というのは、最低限の礼儀も知らないのか?」


 苛立ちを隠さない声と、半獣という言葉に鴉頭は警戒をより強める。

 狩人が半獣である事は逃れようのない事実だが、それを面と向かって言う者は大抵狩人を敵視していることが多い。

 少なくとも、ここで手を取り合って挨拶をするつもりは無いらしい。


 くぐもってはいるが凛とした高い声音から女であろう鎧の人物に、飽くまで鴉頭は敵意を見せず、帽子を押さえながら恭しく頭を下げた。


「俺は狩人協会所属の狩人、鴉頭。こっちの赤いのはその見習いと言ったところだ。……改めて聞くぞ、お前は何だ?」


 最低限の礼儀――自己紹介を簡潔に済ませた鴉頭は再び同じ質問を口にする。

 鎧の人物は態度を崩さない鴉頭が気に食わないのか、不快感を露わにした声で剣を鴉頭に向けた。


「獣に名乗る名はない。……と、言いたいところだが敢えて名乗ってやろう。私は()()()()四騎士が一人、紅騎士!冥土の土産に覚えるがいい!」


(……やはり、騎士教会か)


 鴉頭は自らを紅騎士と名乗った女が口にした所属組織――騎士教会の言葉を聞いて自身の予感が当たっていたことを確認する。

 

 ランスの事件を追う前、フラウニースに足を踏み入れた時から鴉頭は騎士教会の気配を感じ取っていた。

 国境付近、ザール村の不審火。

 露骨に狩人を避ける村の数々。

 そして、ランスに訪れるまで全く現れなかった獣ども。


 ゴロツキから騎士教会という存在を聞いた鴉頭は実働部隊にあたる存在、つまり狩人協会にとっての狩人のようなものが暗躍していると予想していた。

 最大の疑問はただの人間に獣を安定的に殺せる実力が担保されているのかであったが、その証明は既に目の前の騎士が示している。


 今も獣と相対した狩人よろしく鼻息を荒くしているが、鴉頭は逆に戦意を失っていた。


「悪いが俺はお前と争うつもりはない。俺の敵は獣だけだ」

「私を馬鹿にしているのか?貴様も獣だろうが!」


 鴉頭の消極的な姿勢に対して紅騎士はとうとう剣を構えて声を荒げる。

 だが紅騎士の罵倒を聞いてもなお、鴉頭の戦意が戻ってくることはなかった。


 獣も居ないのだし、このまま赤頭巾を抱えてアーバリまで逃げようかと鴉頭が思案を巡らせている時だった。


「それに……赤い頭巾を被った銀髪の少女。それも我が主が求めておられる。捨て置け」

「え、私?」

「なんだと?」


 突然の名指しに赤頭巾が間抜けな声を上げる。

 まさか赤頭巾が標的になるとは思っていなかった鴉頭も、紅騎士に初めて強く反応した。


「なぜお前たちの主とやらまでコイツを狙う?」

「主曰く、器の確保。だそうだ」

「……私ってそんなにお皿っぽいですか?」

「お前はもう黙ってろ。……お前らの言う器とはどういう意味だ?」


 敵対組織であるはずの騎士教会にも女王と全く同じ理由で狙われる赤頭巾の奇特さがより目立つが、その正体を少しでも掴もうと鴉頭は紅騎士に再度問う。

 しかし、彼女の堪忍袋は既に限界だった。


「……もう、うんざりだ。なぜ私が!獣の質問に答えてやらねばならない!?」


 鎧の重さゆえに鈍重であるが、怒りながらも回避を許さない距離まで紅騎士が鴉頭に接近する。

 不意を突かれた鴉頭だが、瞬時に赤頭巾を腕の中に抱き留めがら、右手を伸ばして干渉能力を発動していた。


「ちッ、……【反転】しろ!」


 急接近を果たした紅騎士だったが、鴉頭の【反転】によってあっけなく後方へ飛んでいく――ことはなかった。


「なっ……!」


 確かに能力を受けたはずの紅騎士は何の影響も受けずに、慌てて回避しようとする鴉頭の伸ばしていた右手の指を何本か切り落とす。

 いや寧ろ、咄嗟の回避で犠牲が指だけで済んだ事が幸運だった。


「か、鴉頭さん!」

「……たかが指の数本だ。一々狼狽えるな」

「無理ですよぉ!?」


 今にも泣き出しそうな赤頭巾を置いて、鴉頭は半分になった指の治癒に意識を集中させる。

 初見では驚嘆を見せた鴉頭だが紅騎士が干渉能力を防いだ原因なら既に感づいていた。


 黒い鈍色に輝く剣と赤い意匠が施された鎧。

 暗がりのせいで鴉頭も気づくのが遅れたが、それらと鴉頭の持つ【鋸鉈】の刃の色は完全に一致していた。

 つまり紅騎士の鎧はその大部分が特殊隕鉄で造られているという事だ。


「……いや、有り得ない。単なる新興宗教団体ではないと思っていたが……それだけは不可能だ」

「貴様の組織が矮小なのだろう?半獣を使っているぐらいなのだからな!」


 組織の問題ではない。という言葉を鴉頭は飲み込んだ。

 特殊隕鉄とはその名の通り、遥か遠い宙から飛来してきた金属鉱物である。

 その絶対数は決まっており当然、世界連合政府が厳重に流通を管理している。


 だから有り得ないのだ。

 狩人とはいえ、干渉能力を無効化する特殊隕鉄の鎧をなぜ誰も着用しないのか。

 しないのではない。できないのである。


「赤頭巾、下ろすぞ」

「え。はい。……まさか私を見捨て……!?」

「……はぁ。適当な場所で隠れていろ」

「す、すみません。そうですよね」


 抱えていた赤頭巾を下ろし、鴉頭も紅騎士に続いて臨戦態勢を取る。

 特殊隕鉄の出処に、赤頭巾を狙う理由。

 只人であれば敵対する意味もなかったが、もはやそうも言ってはいられなくなった。


「さて、俺としては降参を勧めるが?」

「……ほざけ!」


 鴉頭の挑発にあっさり乗った紅騎士が怒号を上げながら鴉頭に向かって突進する。

 先程もそうだったが紅騎士の速度は狩人に比ぶべくもない程度に鈍重であり、本人の申告通り身体はただの人間なのだろう。

 回避して疲労を誘発するのも手だが、鴉頭としては人出の少ない夜中の内に手を打ちたかった。

 

(一発で仕留める!)


 鴉頭が選択したのは膂力に任せきった、所謂ゴリ押し。

 【鋸鉈】を紅騎士の鎧ではなく剣に目標を定めて力任せに振り切る。


 だが、空気をも裂く鴉頭の強烈な袈裟切りは紅騎士の剣の上で軽やかに滑った。


「なっ」

「甘い!」


 鴉頭の力押しを誘った紅騎士は剣の腹で【鋸鉈】を受け流し、突進の勢いを殺さず剣を両手で持ち直すと、よろける形で無防備になった鴉頭の背中に剣を突き立てようと――。


「【反転】しろ!!」


 ――――ッガァン!!


 剣の切っ先が自身へ到達する前に、鴉頭は振り下ろした腕を【反転】させることで無理矢理に持ち上げて、【鋸鉈】の鋸身で紅騎士の剣を金属音を伴いながら弾き飛ばす。


「ちッ、お前自身も対象か!」

「リサーチが足りてないな!」


 鴉頭を対象とした【反転】までは紅騎士の鎧でも無効化できない。

 紅騎士は思わず泣き言を喚き、鴉頭は彼女を煽りながら、お互いに次の行動へ移る。


 態勢としては二人ともそれぞれの獲物を持ち上げた状態。

 先に攻勢へ移ったのは当然、鴉頭だった。


 狩人の身体能力にものを言わせて上体を起こした鴉頭は、今度は紅騎士の兜、頭頂部を狙って【鋸鉈】を横なぎに振りぬく。

 下手をすれば紅騎士を殺す可能性もあるが、そこは賭けに出た。

 頭部に衝撃を受ければ戦闘の続行は難しくなるうえ、剣と違って受け流す術もない。

 最短で戦闘を終わらせられる可能性の方を鴉頭は重視した。


「……ッ!」

「――フッ」


 しかし鴉頭の刃が紅騎士に届くことはなかった。

 【鋸鉈】の刃は紅騎士の兜の鼻先に掠るだけで、鴉頭は大きく空振りをしたのである。


(避けられた……いや、また誘われたのか!俺は!!)


 鴉頭の予想は半分正しい。

 狩人との早撃ち勝負は不利だと悟った紅騎士は鴉頭の攻撃を待ちながら、【鋸鉈】の届くギリギリの距離を維持していた。

 鴉頭が使い慣れた【鋸鉈】の間合いを見誤る筈がない。紅騎士はそれを逆手にとって、攻撃の直前で回避したのである。


 まんまと術中にハマった鴉頭を鼻で嗤いながら、紅騎士は今度こそ【反転】の詠唱が不可能な隙を狙って鴉頭の身体を斬った。

 傷こそ浅かったが、ここで初めて鴉頭は流血するほどの攻撃を受ける。


「くっ……!」

「ハっ、素人が!」


 斬られた痛みで条件反射的に振られた鴉頭の【鋸鉈】を紅騎士は難なく受け流す。

 そして上半身を曝け出した鴉頭の頸を狙って剣を突き出した。


「ッ!」


 紅騎士の狙いに気付いた鴉頭は咄嗟に左手で剣を受け止める。

 剣は鴉頭の左手を貫通するが、紅騎士の全体重をかけても鴉頭の左手だけでその進行を止める事には成功する。

 だが、紅騎士の本命は鴉頭の肉体に触れる事だった。


「【聖火(アータル)】」


 その祝詞が告げられた瞬間、鴉頭の左手が発火する。


 ――否、左手()()が発火した。


「ほう、思い切りが良いな」

「……たかが、左手だ」


 鴉頭は炎が全身を覆う前に左手首から上を【鋸鉈】で切断したのである。

 加えて紅騎士からも既に距離を取り、すぐさま左手を復元していた。


「貴様、左手すら治癒するか」

「お前も随分お利口な戦い方をするんだな」


 驚異の回復力を戦慄する紅騎士に鴉頭もまた軽口を返す。しかしそれは本心でもあった。


 紅騎士の戦闘は非常に()()()。強いのでなく上手いのだ。

 膂力や動きの速さで言えばバケツ被りや、今まで狩ってきた干渉能力を持つ獣の方が万倍も上だが、戦闘の技術は彼らと遜色ないどころか上回っている。

 

 もしもこの戦いが厳密なルールの下で行なわれていたのなら、鴉頭は紅騎士に勝ち目が無かっただろう。


 ――だが、これは殺し合いだ。


「ただ少し、利口が過ぎるな」

「ハっ、貴様ら半獣が粗暴なだけだろう?」

「焦るなよ。褒めていない」


 そして鴉頭は紅騎士が戦闘技術以外、ズブの素人――新兵であると見抜いていた。

 殺す相手と吞気に会話を続けたり、本来の目標である赤頭巾を一向に狙わない甘さ。

 明らかに今まで自身の命を脅かす者が居なかったゆえの慢心。

 そのどれもが、彼女に勝てないはずの鴉頭の付け入る隙になる。


 何より彼女は、挑発に乗りやすい。


「ここまでやって、まだコソコソと活動しているお前らの主とやらが不憫なだけだ」

「――貴様ッ!!」


(やはり乗ってきたな)


 自らの信ずる主を見下せば怒りを表すだろうと思っていたが、感情に任せて飛び出してくるとは鴉頭の狙い通りに過ぎた。


「【反転】しろ」

「だからそれは無意っ――!?」

 

 変わらず能力に依存する鴉頭を否定しながら飛び出す紅騎士の言葉を遮るように、彼女の()()に衝撃が走る。


(アレは――煉瓦か!?奴の能力の指定範囲はどうなっている!?)


 衝撃のまま空を見上げた紅騎士の視界に映ったものは、地面に敷き詰められているはずの煉瓦が空中に浮き上がっていく姿だった。

 

 鴉頭は紅騎士の進行速度に合わせて、地面の煉瓦に能力を発動しその重力を【反転】させたのである。


 煉瓦はそれ一つでも相当の重さを持ち、尚且つ無数に敷き詰められている。

 鴉頭にとってランスの煉瓦道とは範囲を無制限に使える飛び道具、バケツ被りの利用した【怪雨】の鳥のようなものだった。

 紅騎士が【反転】による攻撃が不可能であると油断している今、この有利な地形を利用する他なかった。


「っだが!この程度!」


 進行を阻害された紅騎士だったが、彼女に言わせてみれば止められただけ。


 そう叫んで視線を空から正面に移した彼女の視界には、暗闇の広がるランスの煉瓦道とその陰に蹲る赤頭巾だけだった。


鴉頭(やつ)は――?」


 鴉頭は紅騎士が自身の接近を過剰に厭っていた事に気づいていた。

 狩人ひいては獣との絶対的な身体能力の差を、紅騎士は天性の絶妙な距離感、間合いを取る事で埋めていたのである。


 ならば回避も、受け流しも不可能な距離まで近づけばいい。


 鴉頭は紅騎士の突進を止める為ではなく、彼女に接近する隙を作り出す為に【反転】を行使したのだ。


 紅騎士が煉瓦のアッパーで空を見上げている合間に急接近を果たした鴉頭は、その場で姿勢を低く落としながら右拳に万力を込めていた。

 そして紅騎士が鴉頭の接近にようやく気付いた頃には、既に拳は打ち出されていた。


「歯ァ食いしばれ」

「待っ」


 瞬間、紅騎士の腹に鴉頭の正拳突きが炸裂する。


「ぉごっ……!?」


 拳からバキバキと粉骨音を鳴らしながら、それでも構わず鴉頭は紅騎士を数メートル先まで吹き飛ばした。

 もしも鎧がなければ土手っ腹を貫通していたであろう威力の殴打に、紅騎士は受け身を取る事もできずに煉瓦の地面へ身体を投げ出す。


「ぇ、げぇ、ごほっ、……はぁ、っはぁ……」

「寝てる暇は無いぞ」


 鳩尾に喰らった衝撃でえずきながら這いつくばる紅騎士に向かって、鴉頭は【反転】の解除で落下してきた煉瓦を蹴り飛ばした。


「……ッ舐めるな!」


 眼前にまで飛来してきた煉瓦を紅騎士は力を振り絞って剣で弾き飛ばす。

 だが非力な人間である紅騎士にとって無理な迎撃は腕の痙攣と麻痺となって現れ、兜の下の表情を苦痛に歪めた。


 そして、その大きすぎる隙を鴉頭が放置する訳も無かった。


「舐めてるのはお前だろ」

「ぐっ……!」


 剣すら手から落とした紅騎士の顔面を鴉頭は容赦なく蹴り飛ばした。

 今度こそ受け身を取ってすぐさま立ち上がろうとする紅騎士の背中から、鴉頭が片足で踏みつけて地面と縫い付ける。


「半獣がっ、私の身体に足を置くな!!」

「喚くな。立場を考えろ。一度だけ言うぞ。赤頭巾をなぜ器と呼ぶ。獣の女王とお前らの主に何の関係がある。さっさと吐け!」

 

 鎧を振るわせるほど腕に力を込めて立ち上がろうとする紅騎士だったが、ただの人間である彼女が鴉頭に力で叶う筈もない。

 特殊隕鉄製の鎧も干渉能力の介在しないほど追い詰められた状況では、もはや何の意味もなさなかった。


 絶体絶命。いや、もう既に紅騎士の敗北が決まったような状態だが、彼女にはまだそれを打破する手段が残されていた。


「誰が、貴様などに話す……っ!【我が父祖たる主にこいねが」

「願わせねぇよ」


 ――ばぎっ。


 新たに謎の詠唱を始めた紅騎士の言葉を遮って、鴉頭が彼女の左腕の関節を鎧の上から容赦なく踏み潰した。


「ひっ、ああああああぁあぁぁぁ!!!」

「五月蠅い。たかが腕だろうが」


 もはや使い物にならくなった左腕の痛みに紅騎士が小娘のようにもがき苦しむ。

 だが彼女が叫ぶ度に鴉頭の胸に失望が募っていった。


「甘いんだよ。切り札を切るのも遅い。痛覚への耐性もない。素人はどっちだ?」

「ううぅっ……きさま、敵は獣だけだと……嘯いたのか!?」

「……あぁ、安心しろ。命までは取らん。腕の一本で済んで良かったな」


 まさかあの発言をあてにされているとは思わなかった鴉頭は、鼻で嗤いながら紅騎士に皮肉をこぼす。

 痛みを堪えていた紅騎士は鴉頭の皮肉に、今度は強がるように笑い始めた。

 

「クッ、ハッ、ハハッ……なんの意味も無い……というのに」

「あ?」


 態度を急変させて笑い出した紅騎士に鴉頭は怪訝な反応を示す。

 その鴉頭の態度すら嘲笑うように、紅騎士は地面に這いつくばりながら金切る声を上げた。


「私は何も知らん!獣を殺す事にいちいち理由が必要か!?私はただ報告通りランスに来ただけだ!!」

「……もういい」


 堰を切ったようにまくし立てる紅騎士に、興味を失った鴉頭は短く呟くと足を離して背を向ける。

 つまり、紅騎士はただの斥候。組織の内情など知りえない新兵だった訳だ。


 情報源としても利用できないのなら、鴉頭が紅騎士にかかずらう時間など無かった。


「赤頭巾。もう出て……」

「鴉頭さん!うしろ!!」


「【聖火(アータル)】」


 鴉頭が紅騎士を置いて赤頭巾に歩み寄っていたその時だった。


 這いつくばっていた紅騎士が立ち上がり、その場に鎧を捨てて簡単な鎖帷子を残して下着同然の姿になりながら祝詞を上げていた。

 想像よりも少女然とした紅騎士は、その瞬間、目を引く金髪と白い肌、自身の肉体の全てを火だるまに変えて鴉頭に突進する。


「キャハッ、ハハハハハァァァ!!!!!!!」


 暗闇を照らす聖なる火車となった紅騎士は断末魔のような笑い声を上げて、鴉頭に猛然と押し寄せる。

 彼女に残された全身全霊の捨て身。

 ギラギラと爛れた油によって輝く紅騎士の瞳と目が合った鴉頭は、素早く、淡々と、ただ一言。


「【反転】しろ」

「ァ……」


 特殊隕鉄の鎧という唯一の対抗策を自ら捨てた紅騎士の顛末など、想像するまでもなかった。

 紅騎士は【反転】によってあっけなく虚空へ吸い込まれ、大の字になってその身を焼かれていた。


「殉死なら一人でやってろ」


 短く吐き捨てた鴉頭の言葉などもはや届いていないのか、紅騎士は燃えたまま譫言のように祈り始める。


「主は我らに、力を……拝領、せん……主は……我ら、に……救いを……拝領せ、ん……しゅ、は……われ……らに、せか……い……を…………」


 やがて祈りの言葉は炎に消えて行き、獣がそうだったように紅騎士もまた手を合わせたまま、蹲ったように硬直して焼死した。

 怒涛のようで余りにもあっけない紅騎士の最期。

 赤頭巾の目には、辺りに散らばる剣と鎧がまるで墓石のように見えていた。



「か、鴉頭さん?何を……」


 鴉頭は闘いの後、そのまま去るのかと思いきや燃え残った――というより、燃えていなかった紅騎士の鎖帷子や下着の跡を漁っていた。

 紅騎士が使っていた【聖火】とやら、どうもただの発火能力という訳でもないらしい。

 器用に肉体だけ燃やしたようで、残骸は煤に塗れながらも一切焼け跡がついていなかった。


 そして、その中に眠っていたある物を見つけた鴉頭は立ち上がると、赤頭巾の質問に答えた。


「行くぞ」

「えっ、ど、どこにですか?」

「この事件を引き起こした奴のところだ」


「……ええ!?」


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