第1話:追放されたので、夢の土いじりを始めます
重厚な鋳鉄の城門が、地響きのような鈍い音を立てて背後で閉ざされた。
「おい、無能テイマー! 二度とカルガワ王国の敷居を跨ぐんじゃねえぞ!」
「戦闘用の魔獣一頭すら手懐けられん腑抜けが、第一軍事特区にいられるはずもなかろう!」
「外は致死性の魔素が渦巻く死の荒野だ。せいぜい今日か明日の命だろうがな、ハハハ!」
石造りの高い門壁の上から浴びせられる、兵士たちの甲高い嘲笑と罵声。
足元に乱暴に放り投げられたのは、薄汚れた粗末な麻袋がひとつだけだった。
中に入っているのは、刃先がぼろぼろに欠けた古いスコップと、カチカチに乾燥した黒パンが二つ。
それに、何の植物かも分からない、しわびた小さな種が数粒入った手のひらサイズの革袋。
それが、カルガワ王国・第一軍事特区にテイマーとして徴用され、三年間タダ同然で雑用を押し付けられ続けたティル――前世の名を鈴木一郎という男に与えられた、退職金のすべてだった。
重い足音が遠ざかり、城門の隙間から漏れていた篝火の明かりが完全に消える。
静寂が、どこまでも続く暗い荒野を包み込んだ。
だが、ティルはその場にゆっくりと膝をつくと、胸いっぱいに夜の空気を吸い込み、深く吐き出した。
「……やった。ついに、本当に辞められた……!」
ティルの口元から漏れ出たのは、絶望の悲鳴でも、王国への呪詛でもない。
胸の底から湧き上がる、抑えきれない歓喜の吐息だった。
ティルには、前世の記憶がある。
いわゆる現代日本のブラック企業で、企画と営業と後輩の教育を押し付けられ、毎月百時間を超える時間外労働の果てに、オフィスのデスクで意識を失って過労死した元社畜だ。
当時の彼の唯一の心の拠り所は、深夜の帰宅電車でスマートフォンを開き、ぼんやりと眺める「家庭菜園の土作り動画」や「犬猫のモフモフ動画」だった。
いつか激務を辞めて、静かな田舎で小さな庭付きの平屋を借り、犬か猫を一匹飼いながら、自分の手で瑞々しい野菜を育てて暮らしたい――。
そのささやかな夢は、冷たいオフィスの蛍光灯の下で泡となって消えた。
そして目覚めた異世界。
ティルとして生まれ変わった彼は、十三歳の儀式で『テイマー』という天職を授かった。
だが、この国の第一軍事特区を統べるバレン王子が求めたのは、城壁を打ち破る軍用ワイバーンや、敵兵を噛み殺す獰猛な魔獣を率いる「戦力」だけだった。
ティルが心を通わせられるのは、畑を掘り起こすモグラや、花粉を運ぶハチ、草をついばむ小鳥といった、非戦闘用の小さな生き物ばかり。
『戦えない魔物しか従えられぬテイマーなど、飯を食うだけの穀潰しだ! 役立たずのクズめ、荒野へ追放処分とする!』
昨夜、バレン王子から理不尽な怒号とともに言い渡された追放令。
普通なら泣き崩れるか、絶望して慈悲を乞う場面だろう。
だが、元社畜のティルにとって、それは天からの福音に他ならなかった。
(退職代行も使わずに、即日退職できるなんて最高じゃないか……! しかも、有給休暇の代わりにスコップと種までついてきたぞ)
怒号と足音に怯えることもなく、上司の機嫌を伺う胃の痛みもない。
誰にも監視されず、ノルマに追われることもない。
これ以上の自由が、人生のどこにあるというのだろう。
夜が明け、東の地平線から朝の光が差し始める頃。
ティルは麻袋を背負い直すと、意気揚々と荒野に向かって歩き出した。
王国の者たちは、この辺境を「死の荒野」と呼んで忌み嫌っている。
地表には淡い紫色の靄が淀み、大気中には高濃度の魔素が満ち満ちているからだ。
通常の人間であれば、この魔素に長時間晒されると呼吸が苦しくなり、やがて皮膚が爛れて命を落とすと言われている。
特区周辺の農地が軍拡魔法の乱用によって死滅し、深刻な食糧難に喘いでいるにもかかわらず、誰もこの荒野を開拓しようとしないのはそのためだった。
だが――。
「すぅ……はぁ……。ん? なんだか、ちっとも苦しくないな」
ティルは足を止め、胸いっぱいに荒野の空気を吸い込んだ。
喉が焼けるような感覚など微塵もない。
それどころか、鼻腔をくすぐったのは、太陽の光をたっぷりと浴びて発酵した落ち葉の山や、手入れの行き届いた完熟堆肥のような、深く芳醇な土の香りだった。
「むしろ、すごく良い匂いがするぞ……?」
ティルはその場にしゃがみ込むと、ごわついた手袋を外し、地表を覆う黒褐色の土を直接その手で一握りすくい上げた。
指先から伝わってくるのは、ひんやりとした心地よい湿り気と、微かな温もりだ。
土の粒子は細かく、握りしめると適度に固まり、指先でつつくとパラリと軽やかに崩れる。
保水性と通気性のバランスが極めて優れた、理想的な団粒構造の感触だった。
「これ……本当に『汚染された死の大地』なのか? 大昔に読んだ園芸雑誌の最高級腐葉土より、よっぽど生きてる土の感触だぞ」
ティルの指先を通じて、土の中を流れる微細な魔素の脈動がじんわりと伝わってくる。
王都の魔導士たちは、この魔素を「毒」と決めつけていた。
だが、ティルの感覚ではまったく違った。
これは毒などではない。あまりにも密度が高すぎる、純粋な『大地の生命力そのもの』だ。
人間がそのまま飲み込めば刺激が強すぎるかもしれないが、土中の微生物や植物、そして大地に適応した魔物たちにとっては、これ以上ない極上の栄養源なのではないか。
(なるほどな……。戦うことしか頭にない軍人連中には、この土の声が聞こえなかったんだな)
自分の手のひらに残る泥の感触を愛おしそうに見つめながら、ティルはふっと穏やかに微笑んだ。
ここなら、やれる。
誰の邪魔も入らないこの場所で、前世で叶わなかった「自分だけの畑」を作ることができる。
歩くこと小一時間。
ティルは荒野の緩やかな丘の麓に、手頃な拠点を見つけた。
北風を遮ってくれそうな高さ数メートルの頑丈な岩壁があり、その脇には幹の太い枯れ木が一本、静かに佇んでいる。
さらにありがたいことに、岩壁の割れ目からは、澄んだ冷たい水がぽたぽたと滴り落ち、足元の岩肌に小さな天然の水たまりを作っていた。
指先を浸してみると、驚くほど冷たくて清らかだ。口に含んでみても、嫌な苦味は一切なく、体にすっと染み渡るまろやかな味がした。
「水場よし、風よけよし、日当たりよし。よし、ここを今日からの拠点にしよう」
雨風をしのぐだけの野営地ではあるが、満員電車に揺られて通った窮屈なアパートや、怒号が飛び交う軍事特区の宿舎に比べれば、ここはどんな場所よりも心が安らぐ。
ティルは背負っていた麻袋を岩陰に下ろすと、作業着の袖をまくり上げた。
まずは何よりも、生活の基盤となる土の手入れだ。
「よーし、まずは小石を拾って、土を耕すところからだな」
麻袋から取り出したのは、刃のこぼれた古いスコップ。
柄は使い古されて黒ずんでいるが、樫の木で作られた頑丈なものだ。
大木の根元から少し離れた、陽当たりの良い平坦な地面に狙いを定める。
縦三メートル、横三メートルほどのささやかな区画。ここが、ティルの記念すべき第一号の家庭菜園になる予定地だ。
「せーのっ、ザクッ!」
スコップの刃を地面に突き立て、右足で力強く踏み込む。
長い年月放置されて締め固まった表土は硬く、簡単には刃先を通さない。
腕の力だけで押し込もうとすれば、すぐに腰を痛めてしまう。
前世で休日に市民農園を手伝っていた時の感覚を思い出し、体重を真下に乗せながら、テコの原理でスコップの柄を手前に引く。
――ボコッ、ホロッ。
乾いた表土がめくれ上がり、その下から濃い黒土が姿を現した。
土が空気に触れた瞬間、ふわっと甘やかな湯気のような大地の香りが立ち上る。
「おお……やっぱり中は最高に柔らかい。深いところまで魔素がしっかり浸透してるんだな」
ザクッ、ザクッ、ホロッ。
刃先が石に当たるたびにかがみ込み、手のひら大の石ころをひとつずつ手作業で取り除いていく。
土をすくい上げ、手の中で軽く揉みほぐしながら、固まった土塊をほぐしていく。
地道で、泥臭くて、軍事特区の兵士たちなら「下民のやる汚い作業」と鼻で笑うような単純作業だ。
だが、ティルにとっては至福の時間だった。
ザクッ、ザクッ。
一定のリズムでスコップを動かすたびに、額から汗が滲み出る。
春先の荒野を吹き抜ける涼やかな風が、汗ばんだ首筋を優しく撫でていく。
蛍光灯の明かりの下でパソコン画面を睨みつけ、すり減っていた前世の魂が、土と触れ合うことでみるみるうちに潤っていくのが分かった。
「ふぅ……。やっぱり、土いじりはいいなあ」
額の汗を腕で拭い、腰に手を当てて、掘り返したばかりの小さな四角い土壌を見下ろす。
まだたったの一坪にも満たないけれど、これは正真正銘、ティル自身の力で切り拓いた大地だった。
――ガサッ、ズズズ……。
その時だった。
静まり返った荒野に、微かな土擦れの音が響いた。
「ん……? 風の音かな?」
ティルがスコップを止めて耳を澄ますと、音は今までに深く掘り起こしたばかりの土の底から聞こえていた。
しかも、何かが激しくもがいているような、焦った気配だ。
――モコッ、モコモコッ!
耕したばかりの柔らかな土が、不自然に丸く盛り上がる。
何かが地中から這い上がってきている。
「うわっ、なんだ!?」
ティルが慌てて一歩後ずさった瞬間、土煙とともに、地中からポンッ! とひとつの影が勢いよく飛び出してきた。
「ピギャァァァッ!? な、何すんだッス! 俺の巣穴の天井をいきなりスコップで引っ剥がしやがってッス!」
宙を舞った影は、怒りの声を上げながら空中で一回転し、耕したばかりの柔らかな土の上に背中から派手に着地した。
土煙が晴れると、そこに転がっていたのは――体長三十センチほどの、まん丸とした生き物だった。
「……モグラ……?」
全身を覆うのは、艶やかで濃密な焦げ茶色のモフモフとした毛並み。
頭にはちょこんと小さな耳がついていて、丸い鼻先がピクピクと痙攣するように動いている。
そして何より特徴的なのは、その前足だった。
太くがっしりとした両腕の先には、まるで金属製のシャベルをそのまま縮小したような、幅広で頑丈な爪が扇状に生え揃っていた。
どうやら、ティルが無我夢中で深く掘り返していた場所のすぐ真下に、このモグラが掘った浅い寝床があったらしい。
ティルの脳裏に、軍事特区の詰所で見た魔物図鑑の記憶が蘇る。
――地属性の下級魔獣、シャベル・モグラ。
畑の畝を崩し、作物の根を食い荒らす害獣として、人間たちから嫌われ、駆除対象にされている魔物だ。
だが、目の前に転がっているシャベル・モグラには、図鑑に描かれていたような凶暴さは微塵も感じられなかった。
「ピギィ……ッ! シャ、シャーッ……ッス!」
モグラは慌てて起き上がると、ティルに向かって前足のシャベルを懸命に振り回し、必死の形相で威嚇の声を上げた。
だが、その手足は小刻みにガタガタと震えている。
自慢の毛並みは泥と埃で汚れきり、背中の毛はボサボサに逆立っていた。
何より、お腹のあたりがぺちゃんこに凹んでいて、あばら骨の形が浮き出ている。
長いあいだ何も食べていないのか、それとも荒野の厳しい寒さに耐えかねて体力を消耗しきっているのか。
「シャーッ! あっち行けッス……! 俺を苛めるなッ……ピギッ!?」
威勢よく前足を振り上げた瞬間、限界を迎えていた小さな足がもつれた。
モグラは自慢のシャベルで空を切り、そのまま顔面からベシャリと土の上にダイブした。
そして、コテンと仰向けに転がると、短い手足をジタバタと宙で泳がせながら、起き上がれなくなってしまった。
「…………」
「ピギャァ……ッス……うぅ……」
起き上がろうと必死にもがけばもがくほど、丸っこい体が土の上でくるくると空回りする。
そのあまりに無防備で情けない姿を前にして、ティルの胸を貫いたのは、警戒心でも恐怖でもなかった。
(……な、なんだこの生き物は……!? 信じられないくらい可愛いぞ……!!)
前世で幾度となく動画サイトで見ては悶絶していた、あざとさの塊のような小動物の仕草。
それが今、目の前で、本物の立体としてジタバタしているのだ。
しかも、モフモフの毛並みと、丸っこいフォルム、短すぎる手足。
すべてが、社畜生活で干からびていたティルの庇護欲を容赦なく刺激してくる。
「だ、大丈夫かい? 無理に暴れちゃダメだよ」
ティルは驚かせないよう、ゆっくりと腰を落として膝をついた。
そして、背中を丸めてジタバタしているモグラの脇に、そっと両手を差し入れる。
「ピギィッ!? な、何すんだッス! 食う気かッス!?」
「食べたりしないよ。ほら、よっこらしょ」
両手で包み込むように持ち上げてやると、羽毛のように軽い。
指先に伝わってくる小さな心臓の鼓動は、トクトクトクと壊れそうなほど速かった。
ティルは優しく地面に足を着かせてやると、モグラの頭を刺激しないよう、そっと手を離した。
「ピ、ピ……?」
モグラは信じられないといった様子で、つぶらな黒い瞳を丸くしてティルを見上げた。
敵だとばかり思っていた巨大な人間が、自分を攻撃するどころか、丁寧に起こしてくれたのだ。
混乱したように首を傾げるモグラ。その鼻先が、ひくひくと震える。
――ぐぅぅぅぅぅぅ……。
静かな荒野に、盛大な腹の虫の音が響き渡った。
モグラはハッとしたように両前足で自分のお腹を押さえ、バツの悪そうに顔を真っ赤にして俯いた。
「ふふ、お腹がペコペコなんだね。ちょっと待ってて」
ティルは苦笑しながら、腰の麻袋から水袋と、配給された黒パンを取り出した。
黒パンは乾燥して石のように硬くなっている。このままでは、弱った小さなモグラの喉には通らないだろう。
ティルは岩壁から湧き出る清らかな水を清潔な手ぬぐいにたっぷり含ませると、まずはモグラの口元にそっと運んだ。
「喉も渇いてるだろ? 綺麗な水だよ、飲んでごらん」
「ピ……? ペロ……」
モグラはおずおずとピンク色の舌を伸ばし、濡れた手ぬぐいの端を舐めた。
その瞬間、瞳がカッと見開かれる。
「ピギィィッ!?」
「わっ、びっくりした!」
「う、美味いッス! 水が……身体に染み渡るッス!」
モグラは両手でティルの指を必死に抱え込み、夢中になって手ぬぐいから滴る水を吸い始めた。
乾ききっていた小さな身体が、潤いを取り戻していく。
ティルはモグラが喉を詰まらせないよう、優しく背中を撫でてやりながら、もう片方の手で黒パンを水に浸して柔らかくほぐした。
指先で小さく千切ったパンの塊を、手のひらの上に載せて差し出す。
「はい、これもどうぞ。少し固いけど、水でふやかしたから食べやすいはずだよ」
「ゴクンッ……! 飯……!? これを俺にくれるッスか!?」
「ああ、もちろん君のだよ」
モグラはティルの顔と、手のひらの上のパンを三度ほど交互に見つめ直したあと、意を決したようにパンにかぶりついた。
「もぐ! もぐもぐ、もぐもぐもぐっ……!!」
小さな両手でパンを器用に抱え、リスのように両頬をパンパンに膨らませて必死に咀嚼する。
ポロポロとこぼれるパン屑すら惜しそうに、ペロリと手のひらを舐め取る。
あっという間にパンの塊を平らげると、モグラは「ふはぁぁぁ……」と蕩けたような息を吐き出し、ぽんぽこりんに膨らんだお腹をさすった。
「生きた心地がしたッス……。もう何日も飯にありできてなかったッス……」
「そうだったんだね。荒野は食べ物を見つけるのも大変だったろう」
ティルが優しく微笑みながら、モグラの頭を人差し指の腹でそっと撫でてやる。
泥まみれだった毛並みを指先で優しく毛繕いするように梳いてやると、モグラはビクッと身体を震わせた。
嫌がるかと思いきや、次の瞬間にはトロンと目を細め、自分からティルの指先に額をぐりぐりと押し付けてきた。
「あぁ……そこ、気持ちいいッス……。こんなに優しく撫でられたの、生まれて初めてッス……」
「はは、くすぐったいよ」
土埃を払ってやると、モグラの毛並みはまるで上質なビロードのように艶やかに光を反射した。
そして、その丸っこい前足のシャベル。
ただの爪ではなく、土を効率よく砕き、空気を含ませるのに最適な、見事な曲線を描いている。
(軍事特区の連中は『畑を荒らす害獣』なんて言ってたけど、とんでもない。この前足があれば、固い土だってあっという間に掘り起こせる。農業にとっては、最高の相棒になれる逸材じゃないか)
ティルは改めて、目の前の小さな命を見つめた。
理不尽に追放され、誰もいない荒野でひとりぼっちだと思っていた。
けれど、土を耕した最初の日に、こんなにも愛らしくて温かい出会いがあったのだ。
「ピ……? 人間……お前、俺を追っ払わないんスか?」
モグラが不思議そうに、首を傾げて尋ねてくる。
「追っ払う理由なんてないよ。それに、君のその立派な前足、すごくかっこいいと思う」
「り、立派……!? かっこいい……ッスか……!?」
モグラの瞳が、驚きと戸惑いで大きく揺れる。
そのつぶらな瞳の奥に、ほんの少しだけ涙が滲んだのを、ティルは見逃さなかった。
西の空が、茜色から群青色へと静かに暮れ始めていく。
冷え込み始めた荒野の夜風が吹き抜け、ティルは思わず身震いした。
足元にいたモグラも、寒さに震えながら、心細そうにティルのズボンの裾を見上げている。
「夜は冷えそうだね。……よければ、風の当たらない岩陰で、一緒に温まりながら夜を明かさないかい?」
「い、一緒に……!?1111 いいんスか……?」
「もちろん。俺も一人は寂しいからね」
ティルが岩壁の窪みに枯れ草を集めて敷き詰め、腰を下ろすと、モグラはおずおずと歩み寄り、ティルの膝の上にちょこんと乗っかって丸まった。
手でそっと包み込むと、小さな湯たんぽのように温かい。
モグラは心地よさそうに目を閉じ、「すぅ……すぅ……」と寝息を立て始めた。
見上げる夜空には、零れ落ちそうなほどの満天の星が瞬いている。
王国を追放された元社畜の青年と、居場所を失っていた一匹のシャベル・モグラ。
ふたりの運命が交わったこの出会いから、荒野を緑に変えるスローライフが、静かに幕を開けようとしていた。




