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悪夢の終わり

 第一部、全14話です。

 薄暗くなった夕方、ある高校生は小さな商店街の端で途方に暮れていた。迷うはずの無い帰り道で、彼女はなかなか自宅に辿たどり着けないのだ。


 セーラー服の上にダウンジャケットを着たショートヘアの少女は、街頭の下でぽろぽろと涙をこぼしながら、呆然ぼうぜんと立ち尽くしている。

 通学で使う自転車を支えている両手もふるえっぱなしで、すぐに自転車を倒してしまいそうな程、彼女は憔悴しょうすいし切っているようだ。


 自転車の前籠まえかごに入ったサブバッグには、黒色の油性ペンで【水越みずこし 灯里あかり】と名前が書かれている。



 とはいえ、現実の出来事ではない。

 十二月の終業式の日、普段通りガウンとパジャマを着て、ベッドで就寝していた灯里の悪夢の中で起きていたことなのだ。


(うう……、薫伯母さんに、立派な社会人になった姿を見て欲しかったな……。

 ……私、今のままの進路で、本当に大丈夫なのかな?? たった独りになってしまったのに、これからどうやって生きていけばいいの……?)


 今月の中旬、唯一の家族だった父方の伯母を亡くし、福祉科に通う高校二年生の灯里は、絶望感でいっぱいであった。彼女は進路まで迷ってしまうくらい、悪いふうに感情が高ぶっていた。

 書道の講師だった彼女の伯母は脳卒中をわずらい、五十四歳という若さでこの世を去った。灯里が三歳の時に、交通事故で両親を失ったので、伯母である薫が育ての親であったのだ。


 大きな悲しみに打ちのめされた灯里は、冬休みに入ってからも、薫の死をうまく受け入れられずに、なかなか立ち直ることができなかったようだ。

 彼女は喪中葉書もちゅうはがきを気力で書き終えて、何とか郵便ポストに入れることはできた。しかし、冬休みの間に片付けないといけない宿題には、全く手がつけられなかった。家事などの身の周りのことも、ずっとままならない様子だ。



 薫は、灯里がしてはいけないことをした時にはきちんとしかってくれて、書道教室で賞を取った時には、必ず彼女をめる人だった。彼女はアイロンがけが大の得意で、めいっ子の中学校と高校の夏服である真っ白なシャツのしわをいつも綺麗きれいに伸ばしてハンガーにかけていたので、灯里にとっては本当の『母親』のような存在であったのだ。

 また、書道の師範の資格を持ち、いくつもの書道教室で老若男女を指導をする、自立した素晴らしい女性でもあった。


 薫は生涯独身でありながらも、灯里を真の娘のように想い、包み込むような愛情で、姪っ子を大切に育てたのだった。


 愛する伯母を亡くしてから憂鬱ゆううつな日々が続き、灯里が多くのことに無気力になってしまうのは当然のことである。

 知っている道であるはずなのに何故なぜか迷ってしまい、どうしても自宅に帰れない悪夢を、()()()()()()見続けていたのだから……。




 ……と、ある日の夜に、少女の悪夢を見ている時、一頭の子どものばくが空からやって来たようだ。

 白と黒の毛を持ち、つぶらな黒い目をした小さな獏である。


 その子どもの獏は、アパートの二階に住んでいる少女の部屋のそばに行くと、窓をすり抜けた。

 悪夢に苦しんでいる灯里の横まで来ると、子どもの獏は目をうるませながら、心配そうに少女の顔を見つめたのだった。


「おねーさん、とっても辛そう……。空を駆け回って、だ〜いぶおなかを空かせてきたけど、長くて濃い悪夢で、今日もすぐに満腹になっちゃったよぉ〜」


 濃い灰色の雲のようなものを、細長い口で灯里の頭から全て吸い取ると、獏は弱々しい声でつぶやいた。

 すると、灯里の閉じている両目から涙が流れているのに気が付き、獏は驚いて目を丸くしたようだ。獏は灯里のしずみ切った気持ちを痛い程理解していたので、思わずもらい泣きまでしたらしい。


「わーんっ!! おねーさん、全然っ悪夢から解放されてないじゃん! 何度も寝ながら泣いているの見て、ボク……も〜これ以上、見てられないよぉ〜。ホントしんど過ぎて、メンタル限界になっちゃった……。

 それなら、いっそ……。えーいっ!!」

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