終
アルミプレートには『起こしたら死』と記してあり、それをしっかりドアの外にかけたことを確認すると、冬次郎は寝た。
…………。
「先輩! 先輩! 今回のお手柄で先輩に警視総監賞が!」
「うるぁあ!」
巻き舌で叫び、鬼青江でドアを刺し貫き、柴犬の串刺しを狙う。
「ひゃあー!」
手ごたえ無し。
「ったく。こっちは一週間筋肉痛だっつーの。ふあああ」
…………。
トントントン。
控えめなノック。
窓を見ると、建物のあいだに青空。
昼に寝て、昼に起きたのだが、筋肉痛がきれいに抜けている。一週間寝ているらしい。
ドアに鬼青江がぶっすりハバキまで刺さっている。
「なんで、こんなことになってるんだ?」
このままではドアを開けられないので、刀をひき抜いて、錠を解く。
「ん~。ああ、あんたらかぁ」
サナがいた。
「こんにちは」
「あ、やっぱ、こんにちはの時間帯なんだ」
「?」
「いや、こっちの話。で、今日は何の用? また、世界の危機とか?」
「いえ。ご挨拶です」
サナが一歩後ろに引いたので、廊下に出てみると、脚立に乗ってサキが先日まで英語塾のあった部屋に霊媒師事務所の看板を釘で打ちつけている。
「やっぱりジス・イズ・ア・ペーンだけじゃやってけなかったか。ん? ということはサナちゃん、商売敵?」
「そう、いうことになると思います」
オホン。サキが機体に発生するわけのない咳をして、看板の下の貼り紙を指差す。
『眞宮霊媒師事務所 怪異退治ご相談ください』
「わたしたちはもっぱら怪異退治を仕事としています。猫ちゃんの捜索は冬次郎さんのお仕事です」
「つまり、……一日二十時間睡眠の夢の生活がやってきた!」
「はい。どうぞ、お休みください」
「いやあ、そういう商売敵なら大歓迎だよ。じゃあ、おれは寝るから」
「え? でも、冬次郎さん。もう、一週間近く寝てますけど」
「これは、ほら、きみたちが事務所を開いた記念のお昼寝。ふああ。じゃ、お休み」
ドアを閉め、ノックで睡眠を邪魔するものどもには死をと書いた紙を貼り、デスクに突っ伏して、明日から夏休みが始まる小学生のように心から楽しく、眠りについた。
ストレイ・カット 了




