第3話 その男、変態につき
結局、子供の悪ふざけとみなされたノアは、冒険者ギルドを追い出されてしまった。
(余は真面目に記入したのに、何故怒られるんじゃ⁉︎)
『本気で言っているのなら、お前は本当のバカだ』
(フンッ。それよりどうするのじゃ? このままではクエストとやらを受けられんのじゃろ?)
『ホウ。仕方がない。闇営業でもするか』
(闇営業じゃと? 何じゃ、その魅惑的な響きは?)
『簡単に言えば、ギルドを通さず直接依頼をこなすやり方だ』
(何じゃ? それができるなら、初めからそうすればよいではないか?)
『まあ、倫理的に色々問題があるんだよ』
そして、1時間程経過した後。
(オイ。本当にこれで依頼が来るんじゃろうな?)
『これだけ人通りの多い道だ。嫌でも目につく』
大通りの道端でちょこんと正座して、行き交う人々を見つめているノア。
その首から下げたパネルにはこう書かれていた。
[拾ってください。治癒魔法使えます]
「捨て猫かっ‼︎」
怒ってパネルを地面に叩きつけるノア。
『何をする⁉︎』
(こんな惨めな事をしても、誰も来ぬではないか!)
『まだ1時間しか経っていないだろう。これからだ』
(これ以上座り続けるなど、耐えられんわ!)
『何を言う? お前達魔王は、いつ行っても玉座に座っているではないか』
(ずっと座っている訳では無いわっ! 貴様等冒険者が侵入して来たから急いで座っただけじゃ。あの日もせっかくだらだらとくつろいでおったのに、貴様等が……)
ノアが魔王の裏事情を暴露していると、ひとりの男性がノアに声をかける。
「よお! 行くあてがねぇなら、俺様が拾ってやろうか?」
「何じゃ……⁉︎」
その男を見たノアが、一目散に逃げ出した。
「お、何だ? 追いかけっこか? ハハッ! 負けねーぞ!」
その男は昨夜宿屋で出会った、元勇者ウルのパーティーメンバーのひとり、武闘家のクラフトであった。
「待てー‼︎ ノアちゃーん‼︎」
そして、ノアに狙いを定めたロリコンでもあった。
「厄介な奴に見つかってしもうたではないかー!」
『ホウ。これだけ目立つ場所に居れば、見つかってもおかしくはないか』
「貴様もわりとバカじゃろおおーあ痛あああー‼︎」
ウルから拷問を受けながら、必死に逃げるノア。
その後ろから、クラフトが猛スピードで迫って来ていた。
「ノ〜ア〜ちゃああ〜ん‼︎」
「あ、あやつ追って来おったぞ⁉︎」
『何しろロリコンだからな』
「ど変態かっ‼︎」
見る見る間にノアとの距離を詰めるクラフト。
「くっ! やはりこの肉体では逃げ切れぬ。ならば! 《ストレングス》」
肉体強化魔法をかけたノアの走るスピードが、ぐんと速くなる。
「お⁉︎ やるじゃねえか! 俺様も負けねーぞ!」
JPの残量をウルに確認するノア。
「おいウル! 余のJPの残りはあとどれくらいじゃ?」
『ホウ。今朝の時点で60。さっきギルドでヒール2回で4ポイントの消費。今のストレングスで3ポイント使って、残りは53ポイントだ』
「そうか。まだいけるな」
『気を付けろよ? 持続系の魔法は、徐々にポイントが減って行くぞ?』
「分かっておるわい。あの変態を撒くまでじゃ。しかし、こんないたいけな少女が変態に追われておるというのに、何故街の連中は黙って見ているだけなんじゃ?」
『まあ、あいつはいつもの事だからな』
「いや、ダメじゃろっ⁉︎」
『確かに褒められた事ではないが、奴は少女に危害を加えるような事は絶対にしない。これは断言できる』
「ほお。ならば試してやるわい!」
そう言うと逃げるのをやめ、振り返りクラフトを待ち構えるノア。
「お⁉︎ 俺様を待っててくれたんだな? 嬉しいぜ!」
凄まじい勢いで迫って来るクラフト。
「ノ〜ア〜ちゃああああーん‼︎」
追い付き次第抱きしめんと言わんばかりに、両手を広げて迫るクラフト。
「ぐ、ぐぬぬぬ……やはり無理じゃあああ‼︎」
クラフトの圧に耐え切れなかったノアが、再び逃げ出す。
『ホッ? 結局逃げるのか?』
「あんなのに掴まれたら、いくら強化魔法をかけていても無事では済まんわい!」
『ホウ。ならば迎撃してみるか?』
「何じゃと?」
『魔法を使って、クラフトを攻撃してみろと言ったんだ』
「何を言うか貴様! 人間を傷付けたりしたら、例の魔法が発動するではないか!」
『それはお前に悪の心が……』
「ま、まさか貴様、遂に余を仕留める気になったのかっ⁉︎」
『いやだから、リジェネレーションが発動するかどうかは、お前の心次第……』
「ハッ! いくら勇者とは言っても、所詮は口だけか! 少しでも貴様を信じた余がバカにゃああああー‼︎」
ウルズインパクトを側頭部にくらい、豪快に回転しながら転ぶノア。
しかし、肉体強化魔法が持続している為ノアにダメージは無く、すぐに起き上がり走り出す。
『人の話は最後まで聞け‼︎』
「鳥のくせに……」
『クアッ! 何か言ったか⁉︎』
「空耳じゃ!」
『確かに人を傷付けるなとは言ったが、それは時と場合によりけりだ。そして今のこの構図は、明らかに少女を追いかけ回す変質者だ』
「その通りじゃ!」
『ならば、クラフトを魔法でこらしめてもそれは正当防衛となり、おそらくリジェネレーションは発動しない』
「ほ、本当じゃろうな⁉︎」
『……』
「いや、自信無いんかいっ‼︎ じ、じゃが、そうと分かれば逃げるのはやめじゃ!」
砂煙を上げ、地面を滑りながら停止して振り返り、迎撃態勢をとるノア。
「ウルよ! JPはいくつになった?」
『ホウ。ストレングスの効果で徐々に減少して、今は50だ』
「それだけあれば十分じゃ!」
(フッフッフー。しかしこれで合法的に奴を……ハッ‼︎)
しまったという表情になったノアだったが、既に遅かった。
『オイ。いきなりJPが30まで下がったぞ?』
「今のはギリ、セーフじゃろおっ⁉︎」
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