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悪夢のこと(2)

「佐々岡くんは結局、北島の病院には行かなかった。だからまだあの悪夢を見続けているのかもしれない。サツキには直接会って、なんとか話をしたよ。最初はすごく疑われたけど、サツキが見ている夢の内容を言ったら、案外簡単に信用してくれた。それで、サツキは詩乃と会ってなんとか悪夢から脱出したって言ってた。サツキは詩乃に引っ張ってもらって出たところはショッピングモールだと言ってた。隣の市の、都市再開発で出来た新しいとこ」

「確か、こないだの冬にエレベーター事故があったところだよね?」

去年の夏にオープンして、すぐにエレベーターが故障した。けどそれはいたずらで緊急停止ボタンを押されていたらしい、と後にリコに聞いた。

その後、冬に本当に故障して、何人かが閉じ込められた事故を記憶していた。

確か、クラスメートの一人がそのエレベーターに乗っていた。

「そう。その事故で閉じ込められたの、サツキだよ。なんで自分が悪夢から出た先がショッピングモールだったのか不思議に思って行ったら閉じ込められたらしい」

「なんの偶然なんだろうね。悪夢からやっと出られたのに、現実でエレベーターに閉じ込められるとか」

偶然、なんだろうか。

「さあね、わからない。なんかその後サツキ、あたしを避けるようになって。あんまり話をしてないんだ」

悪夢から抜け出した先で、何か起きるのだろうか。佳奈が抜け出した先で悪夢が伝染し始めたみたいに。

「じゃあ田中君と市川さんは何処?」

「何処って?何が?」

「詩乃が悪夢から連れ出したところ」

「えーと、確か田中君は高速道路の高架下とか言ってた。市川さんは、聞いてない。というか、市川さんに連絡を取ったのは北島だったから」

「そっか。市川さんって頭良さそうなんだけど近付き難い雰囲気あるよね」

「うん。なんか話し掛けにくいし。それにさ、その頃あたし、休学してたじゃない?知らないんだよね、市川さんのラインもメルアドも」

「だよねー、わたしも知らない。ていうか市川さんってスマホ持ってるのかな?」

「持ってるでしょ、たぶん。スマホじゃなくてもガラケーくらいは持ってると思うけど」

「まあ、市川さんはいいとして、ちょっと検索してみるよ」

「なにを?」

「いや、ちょっと気になって」

自分のスマホをテーブルの上から持ってくると市の名前と高速道路、高架下、事故の4つのキーワードで検索をかけた。

「何を調べているの?」

「たぶん、気のせいだと思うんだけどね。なんか聞いたことあるような気がするの」

佳奈が不思議そうな顔でわたしを見た。

「佳奈は知らないかな?桜木リコって子がうちのクラスにいるんだけど」

「うーん、知らないな。去年は違うクラスだよね?」

「うん。違うクラスだった。で、その子、妙に怖い話好きでさ。今日も駅の地下道に幽霊が出るとか何とか言って見に行ったんだけどさ」

「あー、先週、事故あったもんね。電車に撥ねられて即死っていうやつ。その現場に?」

「そう、おかしな子でしょ。それでさ、以前に話してた地元の怪談にさ、高速道路の高架下の話とショッピングモールのエレベーターの怪異っていう話があったような気がしてさ」

「それ、まじで?」

「うん、あんまり真剣に聞いてはいないからウロ覚えなんだけど」

あった。

新聞のネット版。

今年の1月21日。高速道路高架下で事故。

運転手、即死。助手席の友人が重症。

直線道路でハンドル操作を誤ったのが原因として警察が調べている、と書いてあった。

「なんで直線道路でハンドル操作を誤るのかな?」

佳奈が気持ち悪そうに言った。

「さあ、スピードの出し過ぎ?」

「それなら、そう書くんじゃないかな?直線道路でスピードを出し過ぎて、とか。なのに、わざわざハンドル操作を誤ったって書いてある」

「本当だねえ。変だな」

「それで、そのリコって子の怪談ってどんなやつなの?」

「あ、うん。確か高架の柱?上の道路を支えているやつ。あれの影から人が飛び出すっていうやつで」

「ああ、なるほど。それでその幽霊が飛び出してきて、ハンドル操作を誤って事故が起きたっていう感じなのかな」

なんか違和感を感じた。

「沙織、今、すごく嫌なことに気がついちゃったんだけど・・・」

わたしのスマホの記事をじっと見ていた佳奈が震えていた。

「なに?」

「田中君が悪夢を見てること知って、詩乃に紹介したのって、今年の1月なんだよ。それで、たぶん詩乃が田中君を悪夢から連れ出したのって、その1月21日だと思う」

全身の鳥肌が立った気がした。

二人とも黙り込む。

偶然だ、たぶん。

同じ高速道路の高架下だというだけで、同じ場所だとは立証出来ない。

高架下の道路なんて似たような場所だろうし、田中君本人だってわからないかもしれない。でも、1月21日の夜、おそらくは事故の起きた時間の午後11時過ぎ。

詩乃は田中君の手を引いて悪夢から出てきた。そこは夜の高速道路の高架下。同じ時刻、同じ場所で交通事故で人が死ぬ。

「そんな、まさか・・・ね」

佳奈は引きつった笑顔をしていた。

「確かにあたしやサツキは昼間に悪夢から出てきた。田舎のホテルというか宿舎に行った。けど、田中君は夜に近くのマンションへ行ったと言ってた。駅の向こうのマンションだって」

「それ、たぶん詩乃の部屋だね。こないだ行ったよ。最上階とその下の4階には詩乃以外に誰も住んでないらしいよ」

「うん。なんかその話聞いたことあるよ。詩乃は以前からそこに住んでるらしいけど、なんか電車に乗るのが嫌でうちの学校に転校してきたって」

再び二人とも口を閉ざした。スマホは事故の記事を表示したままだった。

「ショッピングモールはどうなんだろう。サツキが夢から出てきた時に何か事件が起きたわけじゃないよね?」

「うん。同時刻ではなくて、たしか翌週くらいにサツキはショッピングモールに行ってエレベーターに閉じ込められた」

「あのさ、ちょっと思い出したんだけど、佳奈ってさ、そのショッピングモールのエレベーターでパニックになったんじゃない?救急車で運ばれたっていうのって・・・」

「同じショッピングモールだよ」

「ひょっとして同じエレベーターなのかな」

「それは・・・わからない。沙織、さっきショッピングモールにも怖い話があるって言ってたよね?それってどんなやつなの?」

「リコが言ってたんだけどね。たしか故障が続くエレベーターがあって、誰も押してないのに非常停止ボタンが押されていて閉じ込められる。それで電気が消えて非常灯が点くんだって。一瞬、真っ暗になるんだけど、非常灯が点いたとたん、そのエレベーターの壁が真っ赤な血に染まる」

「うわ、気持ち悪い・・・」

「でもさ、この話には、ちょっとおかしいところがあってさ。後でわたし調べたんだけど、エレベーターって停電とかじゃない場合、非常停止しても電気は消えないと思うんだよね。それに、エレベーターってさ、そもそも非常停止ボタンなんて付いてたっけ?」

「あるんじゃないの?なんか非常なんとかボタンていうのがあった気がする」

「それは緊急時の通報ボタンだよ。外部の警備室とかに電話が繋がるやつ。わたし、それから気になってエレベーター乗る時に見てたんだけど、どこのエレベーターにも非常停止ボタンなんかなかったよ」

「じゃあ、なんでエレベーターは止まったの?」

「だから話がおかしいんだって。

地震とかあると非常停止することはあるらしいんだけど、新しいやつは近くの階まで行って、そこで開くんだって。

去年の夏にオープンしたショッピングモールのエレベーターで閉じ込め事故が起きるって、なんかおかしいと思わない?」

「地震を感知する機能の誤作動、とか、かな?」

「それでも、近くの階まで動くんだって。閉じ込められること自体、発生しない」

「でも、いたずらで非常ボタンが押されるって沙織が言ったんじゃない。そもそも存在しないボタンを押すっていう怪談なわけ?」

「そうなんだよね。でも確かに何度かそのエレベーターは故障したことがあるらしいんだよ。閉じ込めが起きたのはサツキの時だけみたいだけど」

「サツキに話を聞いていれば、もう少し詳しいことわかるんだけどな。何かは起きているんだと思うけど・・・何が起きてるのかな」

閉じ込められるはずの無い新しいエレベーターで起きた事故。ハンドル操作を間違えるはずの無いところで起きた交通事故。その両方にあの夢が関わっているかもしれない。

わたしは背筋が寒くなってきた。

何が起きているのだろう。二つの事故が佳奈の見た悪夢と繋がっているのだろうか。


その夜、佳奈もわたしもなかなか寝付けずにいた。

得体の知れない化け物が夜の暗闇の中に横たわっているような気がした。それはとてつもなく大きくて街全体を覆いつくしているように思えた。現実世界のほんの少しずれた場所にぽっかりと口を開いて次の犠牲者を待っている。そしてそれは、ふっと目を閉じたその先あるのだ。

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