尋問かな、これは
え?病院?なにそれ。
「いえ、知りませんでした。途中で、帰ったので」
「途中で帰ったというのはどういうことかしら?」
佐々木は優しい声だったけど、それは質問というより尋問のような気がした。
「えっと、詩乃のマンションに入ってすぐにわたしは帰りました」
「その後、杉橋さんと水崎さんは何か占いというか、そういうことしてたっていうのは本当なの?」
「占い、ですか?」
詩乃と愛理香は睡眠薬を飲んで夢の中へ入ったんです、とは言えなかった。
睡眠薬というのも言いにくかったし、詩乃が他人の夢の中へ入れるのだ、というのも説明が大変そうな気がしたからだ。
「あなたも、その占いとかに興味があって行ったんじゃないの?」
「いえ、あのその、わたしは詩乃に呼ばれて、というか無理に連れて行かれたっていうか」
「じゃあ、藍沢さんが帰った後、具体的に何をしていたのかは知らないということ?」
ちょっと躊躇した。
「知りません」
いや、やっぱり話すのはやめよう。
「あの、何があったんですか?詩乃は大丈夫なんですか?」
「杉橋さんは大丈夫よ。けれど水崎さんが眠ったまま起きないらしいの」
起きない?睡眠薬のせい?北島は安全な薬だって言っていたのに?
やっぱり佳奈の言うとおり北島は怪しい人物なんだろうか。
あの夜の北島の笑顔が浮かんでくる。
爽やかな大人の男性だと思っていたのに、その笑顔の向こう側に何かの秘密があるような気がした。
「藍沢さんは、水崎さんとは仲が良かったの?」
「いえ、あの日に会ったのが初めてでした」
「杉橋さんも水崎さんとは初対面だったと言っていたけど、じゃあ誰が紹介したの?」
「それは・・・」
佳奈、だと言っていたよな、愛理香は。
でも佳奈は詩乃と関わりたくなさそうだったし。
「わからないです。とにかく、あの日は詩乃に連れて行かれただけなので・・・」
「それもよくわからないわね。どうしてあなたを連れて行く必要があったのかしらね?」
あー、疑われているなーと思った。
「それより、愛理香が起きないってどういうことなんですか?木曜から、一度も目が覚めてないんですか?」
佐々木はわたしの目をじっと見つめた。
何か探られているような気がした。
「そうなの。目が覚めていないの。杉橋さんにはお医者さんの知り合いがいらっしゃって、その方の車で病院に連れて行かれたのだけど。何か体に異常があるということはないそうなんだけど、何故か目が覚めないんですって」
そこで佐々木はため息をついた。
「わたしも杉橋さんの担任なので、相手方の水崎さんの親御さんに説明する義務があるのよ、一応ね」
とにかくね、と佐々木は続けた。
「あんまりおかしなことをしないように。杉橋さんには電話で注意をしてあるのだけど、あの子、転校してきて以来、一人暮らしでしょ?登校してきてくれなくて。この後、おうちの方へ行く予定にしてあるのだけど。事情を知っているのなら一緒に来てもらおうかとも思っていたのだけどね」
そこで再びわたしの目を見つめると、あきらめたように頷いた。
「また何か思い出したら教えてね。来てくれてありがとうね、藍沢さん」
昼休み、クラスに帰ってきてからラインした。佳奈に、だ。
放課後、リコと小早川は二人で駅の地下道へ行くと言って急いで教室を出て行った。さすがに他のメンバーは行かなかったらしい。怪談の噂のスポットならともかく、リアルな鉄道事故の死体の一部探しというのは、いくらなんでも気持ちが悪過ぎ。
小早川がリコに付いて行ったのは、まあ、そういうことなんだろう。わたしは小早川が勝手にリコに気があると思っていたのだけど、ひょっとしたらあの二人、もう付き合っているのかもしれないな。
わたしは佳奈との待ち合わせに行くために教室を出た。
校門のところで佳奈に会う。
「ねえ沙織。あのさあ、今晩、泊めてくれないかな。泊めてくれたらお礼に夕ご飯作るし」
「うん?いいけど?夕ご飯は二人で作った方が楽しいかもだけど」
断る理由はなかった。去年も何度かそういうことはあったし。
「良かった。もう親には沙織ん家に泊まるからって言っちゃったんだよね」
「うん、全然いいよ。わたしが断るわけないし」
「いやあ、わかんないっしょ。あたしの知らないうちに彼氏とか出来てたりしないわけ?」
「しないしない。てか、残念ながら彼氏はまだ出来たことがない」
「そっか」
と言って佳奈は笑った。
「それじゃあさ、あたしんちに寄って貰っていい?着替えとか取ってきたいし」
「うん、いいよ」
自転車にまたがると、その田んぼの広がる道を走り始めた。すぐにドラッグストアとか喫茶店とかのある通りに出る。そこを曲がってしばらく行ったスーパーの先で住宅街に入る。
佳奈の家は学校から結構近い。
佳奈のお母さんに、お久しぶりです、と挨拶してわたしのアパートに向かう。スーパーで少し買い物をした。
佳奈はお金は出すから、と言った。
「いいから、いいから。あたし親から少しお金貰ってきてるんだ。沙織、一人暮らしなの知ってるからさ。ご迷惑を掛けないようにしなさいってさ」
「そんな気を使わなくてもいいのに」
とは言いながら、正直、そういうのは助かる。何度も言うけど、わたしの実家は裕福ではない普通の家庭なので、実際、生活費はギリギリなのだ。
まあ、服とか雑貨とか買わなきゃ、もうちょっと何とかなるのかもだけど、おしゃれしないとか高校生として無理だと思うし。
やっぱバイト考えなきゃ駄目な感じ?
アパートに着いて、夕ご飯の用意を始めた。
わかっていた。
佳奈もわたしも、あの話を始めるきっかけがなかった。お互いに、そのために泊まりに来た事はわかっていたのだ。
それでも、二人で肉じゃがを作り、なんて家庭的な夕ご飯なんだろう、と笑い合って、彼氏が出来たら肉じゃが作ってあげられるね、とか他愛無いことを言い合って、そんなコッテコテのご飯作ったら、むしろ引かれるんじゃないの、とまた笑い合った。
いつもは家では一人だったし、楽しい食事だった。
洗い物をするのもなんか楽しく感じたし、狭いお風呂に一緒に入ると言い出したけど、さすがに大きさ的に無理なので佳奈に先に行ってもらって、わたしは予備の布団、というかコタツのやつなんだけど、を出した。
掛け布団はもう必要ないだろう。毛布は2枚あった。




