第一話 レジは消え、現金を持ち込む必要はなくなる。代わりにスマホ一つ持ってお買い物。
日本に、これまでなかった形式の店舗ができた。
某世界的IT企業が造りあげた店舗である。店舗というか、一種のシステムと言ったほうがしっくりくる、という人もいるかもしれないが、そういったことは話が横道に逸れるだけだから置いておくこととしよう。
それは海の向こうで大流行りし、リアル店舗での買い物の常識を変えたそうだ。
で、その店が今日オープンする。運よく、私の下宿先の近くで。大学生である私はフットワークが軽かった。最先端に触れるのだ。社会人なら、こういった新しいものが現れても、そう気にする余裕はない。
そんなうぬぼれた、意識高いことを考えながら私は人の列の中、わくわくしていた。
手先や足先や唇や耳先はもうずっと長い間かじかんでいたが、辛くもならないくらいには、熱にうかれていた。
私は、昨日から列に並んでいた。入店を待つ列に。その列は数キロもの長さであり、私は店から20メートルくらいの地点に並んでいた。
かなり前の方である。列は店をぐるりと何重にも一本の線で巻くような形であった。だから、私の場所からでも店の様子はよく見える。もっと後ろに並んでいたらまあ、見えなかっただろう。
早めに並んでおいてよかった。
今が冬であり、昨日は雪が降りしきっていたことから、運よく、これほど前に並べたのだ。そうでなければ、後塵を拝することとなっただろう。
物凄く寒かった……が。並んだ価値はあった。トイレなどは、まあ、周囲の並んでいる人たちと相互協力して、交代で行ったりしていた。
皆そうしていた。自然とそうなった。日本だからこそ、だ。以前ネットで見た、海の向こうでの開店日の様子などは、酷いものだった。順番抜かし、割り込み、それが溢れていたからだ。
やはり、この国、日本は良い国だ。そう心から実感した。
やっと日が昇ってきたか。
もう少しだ。なんと、7時には開くのだから。平日の7時。だからこそ、学生である私も、授業をさぼることなく並べているのだ。
ちょっと暇を持て余してきた。周囲の人と話して時間を潰すのもいいが、私は敢えて、そうしないことにした。
人と話すのはついさっきまでやっていたのだから。今は自分の持っていた情報と仕入れた情報を統合し、整理したい。
目の前に存在する、この建物。コンビニであるが、従来のものとは違う点が三つあった。
①現金を必要とせず買い物ができる。
②店員がいない。
③レジがない。
無人のコンビニ。自動販売機のように、自動コンビニ、と言ってもいいのかもしれない。
私はそんなことを考えながら、その、やたらに長く延びた列に並んでいた。必要なものは、スマホ。事前に指定された専用アプリを入れておく必要がある。
店内に入るとき、出るとき、専用のゲートを潜る。仕組みは、これまでも存在した、盗難防止ゲートみたいなものと共通。それに加え、新たな機能、決済機能が加えられた。
店に入る時、その人の持つスマホが登録される。そのスマホを持った人が店を出るとき、決済がなされる。商品の棚から商品を取ると、商品棚の値段タグとスマホで通信がなされ、取った品を、スマホアプリ内の仮想カートに入れ、支払い予定料金として登録される。
棚に戻せば、その品は仮想カートから消え、支払い予定料金の額はその分小さくなる。
で、店から出るとき、その人のスマホから、棚から持ち出した分の商品の代金がスマホ経由で引き落とされる。
だから、レジや店員は要らない、というわけだ。
万引きの心配も無く、レジ打ちをする必要もない。だから、店の人員はせいぜい、商品の棚卸しなどの裏方しかいない。店員は表へは出てこないわけで、人件費は大幅に減少。容易に24時間営業の店舗が運営できるようになったということだ。
海の向こうで、無人店舗が普及し始めると、職を失った人も多く出たが、それは必要な犠牲と言えた。とはいえ、商品の棚出し、補充などの人員は、こういった無人店舗の急速な増加によって、大幅に需要が増えるだろうからそれは一時的なものとなっていた。日本でも同様だろう。
許容できる犠牲でしかない。
私はコンビニでバイトしていないし、私には悪い影響はないのだから。
無人店舗の存在は否定され、従来の店舗の様に戻ることはまあ、この、非効率・非合理的な国、日本においても無いだろう。海の向こうで、無人店舗で問題になることはあらかた潰されていたからだ。
リスクを過剰に恐れる日本の経営者たちの懸念材料はもう既にあらかた潰されている。
この無人店舗用のアプリの中に、起こりうる問題、主に窃盗などの犯罪についてのキューアンドエーがあった。
質問があり、それに対して、映像で回答している、というものだ。
さてと、もう一度見てみるとしよう。
私はスマホを出し、アプリ内の抵当ページを開くのだった。




