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【書籍化】リトル・オニキスの初恋  作者: 緑名紺
後日談

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後日談4 不埒な騎士の配慮

更新が滞っており、大変申し訳ありません。

シークの後日談です。

※今回から行間をあまり空けておりません。

 

 一般的に、騎士と名乗るなら仕える主が必要だ。

 レジェンディアの騎士は同盟七国の王に剣を捧げていることになっているが、そのような形式的なものではなく、心も命も人生をも惜しまず真の意味で忠誠を誓う相手。


 滅私の精神を持たない自分には全く無縁の話だ。

 ただ、かつて「面白い体験をさせてもらったし、この子に借りを返すためなら命を懸けてもいいかな」程度には心を動かされた存在がいる。

 しかしその少女はどうしようもない事情で遠い世界へと帰ってしまった。

 もう二度と会うことはない。

 やはり自分が真の意味で騎士になることはないのだろう。


 ……別にいいけど。

 シーク・ティヴソンはそんなことを思いながら、今日もレジェンディアの騎士の団服に袖を通した。






 約束の時間に遅れて会議室に入ると、少年と少女が同時にため息をついた。


「シーク小隊長、遅刻の言い訳は?」

「ごめんごめん。晴れた空がきれいで見とれていたら思いのほか時間が過ぎていて」

「……実際は?」

「普通に寝すごした」


 双子の男女がそっくりな顔立ちと仕草で嘆いて見せる。

 部下が上官に取る態度ではないが、シークは見逃してやった。自分が入団したばかりの頃よりはだいぶマシだ。


「僕らの異動願い、早く受理されませんかね」

「罷免の訴えも出しておいたほうがいいかも」


 生意気な物言いの双子に対し、シークは爽やかな微笑みを向けた。


「あはは。僕をクビにできないからこの小隊が結成されたの忘れた? というか自分たちで希望してこの小隊に来たくせに」


 双子は顔を見合わせて肩を落とした。


「だって最後に勇者様と一騎打ちをしたすごい剣士だって聞いたから」

「ラムレット様を救ってくれたお礼ができたらと思って」


 双子の兄はキャストル、妹はポルカ。

 二人はかつて南の大陸で有名だった勇者一行に命を救われ、旅の手助けをしていたらしい。

 勇者亡き後、二人は西の大陸に移住してきた。

 魔剣アラクレに憑依された勇者ラムレットと戦い、最後にその支配から救ったシークに対して恩返しすることを思い至ったようだ。

 彼らはレジェンディア騎士団に入団し、シークの下で働くことを希望したのである。


 四年前の戦いでシークは大きな名声を得て、騎士団内で扱いの難しい存在になった。

 功績を考えれば出世させねばならないが、どう考えても上に立っていい人材ではない。

 そこで、新しく特殊な魔物討伐部隊を作り、小隊長という独立した地位を与えられたのである。

 部下を持つなんて面倒なことこの上なかったシークにとっても、ここが妥協点だった。


「小隊長は確かに強いけど、人間性はラムレット様の足元にも及びません……」


 双子の兄は剣士で、最初のうちはシークとの手合わせで目を輝かせていた。

 ただ、機嫌のいいときは丁寧にお手本のような剣技で打ち負かしていたシークも、機嫌が悪いときはおよそ騎士とは思えない荒い剣筋で秒殺した上にひどい侮辱の言葉を投げつけてくる。

 憧れはすぐに砕かれた。


「本当、小隊長は剣以外にいいところがないですよね」

「待った。顔は? 顔もいいでしょ? かっこいいって言ってたじゃん」


 双子の妹は嫌そうにシークから目を逸らした。

 入団当初はシークに微笑みかけられるたびに頬を染めていた彼女も、今では黒歴史としてその記憶をなかったことにしたがっている。


「あー、はいはい。剣技と顔だけの男ですよ、小隊長は……」

「家柄と頭とセンスもいいけどね。サイカ王国で指折りの名家の三男だし、ちょっとズルをしたとはいえ魔術学院を首席で卒業したし、女の子へのプレゼントで失敗したことないし」

「全ての美点を性格の悪さで台無しにしていることをもっと恥じてください!」


 ひどい暴言を吐かれても楽しそうに微笑むシークに対し、双子の妹はここぞとばかり反撃の手札を切った。


「ふん、小隊長は大変優秀かもしれませんけど、オニキスの守護者様も相当素晴らしいですよね。麗しの天才魔術師様!」


 この話の流れはシークとしては面白くない。


「は? ユラ? ポルカちゃんはああいう男が好み?」

「ええ、小隊長よりは! クールで神秘的で素敵です。また魔物討伐任務をご一緒したいです!」

「ずっとそれ言ってるな」


 一年以上前、厄介な特性を持つ魔物の討伐任務で楽をするために、シークはユラを無理矢理連れ出したことがある。

 ユラの紡ぐ緻密な魔術式を見て、ポスカはずっと大興奮していた。

 彼女は魔術を得意としていて南の大陸では神童と呼ばれたらしいが、上には上がいると思い知ったらしい。


「言っとくけど、ユラも性格は良くないよ。ずっとそっけなかったでしょ? 文句ばっかりだったし」

「文句を言われていたのは小隊長だけです。それに、女たらしよりもちょっとつれないくらいの男性の方が私は好感度高いです」

「……へぇ。じゃあ頑張って口説いてみたら? 手ひどくフラれると思うけど」

「そういうんじゃありません。オニキスの守護者様のことは、純粋に魔術を極めんとする者として尊敬しているだけですから!」


 なんでもかんでも恋愛に結び付けるな、と双子になじられる。

 そのようなじゃれ合いをしていたところ、会議室の扉が開いた。


「先ほどから騒がしい。本日は次回遠征の打ち合わせとの名目で会議室を手配していたはずだが?」

「レイア副団長! お疲れ様です!」

「申し訳ありません!」


 双子が慌てて立ち上がって敬礼をする。

 シークも気怠い動作で後に続き、かつての直属の上官に礼をした。

 四年の間にとんとん拍子に出世して、今やレジェンディア騎士団の副団長の座に就いた凛々しい女性騎士が、シークをじっと見つめる。


「ところで、オニキスの守護者という言葉が聞こえたが?」

「たまたまですよ。この子たちは守護者殿に並々ならぬ感情があるみたいで。それが何か?」

「……貴様は聞いていないのか?」


 シークがなんのことだろうと心当たりを探してる間に、彼女はふっと笑みをこぼした。


「私も先ほど小耳にはさんだばかりなのだが……どうやらユランザ殿が婚約したらしいぞ」

「えええええええ⁉」

「へぇ、それは喜ばしいことですね。お相手は?」


 ポルカが驚愕の叫びを上げ、キャストルは冷静に頷き、そしてシークは――。


「…………は?」


 レイアの言葉をなかなか理解できなかった。


「個人的なことだ。詳しいことは本人に直接聞きたまえ。とにかく、会議室で雑談をするな。遠征計画の出来が悪ければ問答無用で却下するのでそのつもりで」






 適当に打ち合わせを終わらせ、遠征計画の草案作りを双子に命じてシークは街に出た。

 最近気に入っているカフェのテラス席で一息つく。


 ――ユラが婚約なんてあり得ないでしょ。どういう事情だろ?


 一生結婚なんてしなさそうだった腐れ縁の元友人に婚約者ができるなんて。

 シークは単純に疑問に思った。

 多少はマシになったとは人間的感情に疎くて恋愛どころか他人に興味を持たない変わり者だ。

 自分から積極的に異性を口説く姿などまったく想像ができない。


 ――どこかの王族に圧力でもかけられたかな? 一番やりそうなのはウチの王様だけど。


 しかしサイカ国王は近々大切な妹姫をモノリスの国王であるアッシュに嫁がせようとしている。

 そう続けざまに四年前の戦争の英雄を身内に取り込めば、同盟国間内のバランスが崩れて顰蹙を買う。

 それが分からない国王ではない。


 もしかしたら、あのオレンジ色のドラゴンを人質に取られたのかもしれない。

 ……それならば仕方がない。ユラにとっては唯一無二の友人だろうから。

 理由を考えるのが面倒くさくなって適当な答えで納得しようと脳が怠け始めた。

 しかし本当に、ユラが誰かと結婚するとは思えない。


 ――てか、お嬢さんの事はもういいわけ?


 ユラのことを考えるとき、流音のことを連鎖的に思い出す。

 未来を閉ざされかけた闇巣食いのユラを救うついでに世界をも救って、その代償に魔力機関を失って元の世界に帰った少女。


 当時のユラが十二歳の少女相手に恋愛感情を持っていなかったのは確かだが、誰よりも大切にしていたのは知っている。

 流音を自分の手で元の世界に返してからしばらく、何も手につかずぼんやりしていたことも。

 シークは短いため息を吐いた。


 ――可哀想なお嬢さん。仕方ない。ユラのことはどうでもいいけど、お嬢さんのために真相を聞き出しにいくか。


 くだらない理由だったら破談させてやる。

 ユラが流音にしてもらったことを考えれば、一生独身を貫くくらいの義理を通してもいいくらいだ。


 ――お嬢さんはそんなこと望まないかもしれないけど、でも、心の片隅ではずっとユラに自分のことを想っていてほしいという気持ちもあるはず。


 誰だって利己的な感情を持っている。

 そして、いろいろな理由や理性でわがままを口にするのを我慢する。流音のような良い子ならなおさらだ。

 彼女の他の友人たちはきっと流音の気持ちを尊重するだろうけど、シークは同意しない。

 心のエゴさえも守ってやらなければ。


 ――でも、もしもユラがお嬢さんのことまだ忘れてなかったら……。


 ユラが婚約したという女性に流音の面影を見つけてしまったら、あまりにも哀れで無理矢理引き離そうとする気が失せてしまうかもしれない。

 それならば流音も悪い気はしないのではないか。むしろ何も知らない婚約者が一番可哀想に思えてしまう。


 シークに確固とした決意などない。

 いつもその場その場の感情に任せて行動を変えている。


 とりあえず適当な理由を作ってユラに会いに行ってみることを決めた。

 もう一年以上顔を合わせていない。

 今もモノリスの森の家に住んでいるのだろうか。まずは現状を調べるところからだ。

 支部に戻ったら部下の双子に情報収集をさせることを決め、何気なく通りを眺めた。


 ――ああ、あの女の子くらいお嬢さんに似ている子に出会ったら、きっとユラでも心を動かされるだろうな。


 緩やかなウェーブがかかった艶やかな長い黒髪。

 落ち着いた雰囲気のワンピースを着た少女が、きょろきょろしながら通りを歩いている。

 道に迷っているのか、何かを探しているのか。

 少し幼いけれど遠目に見ても可愛い気がするし、困っているのなら声をかけてみようか、などといつものナンパ癖でシークが反射的に立ち上がった時、少女もまたこちらを振り返った。


 目が合った瞬間、シークは息をのむ。


「シーク! 本当にシークのことだったんだ。会えてよかった……」


 歩み寄ってきた少女を見て、今度こそ脳が思考を停止した。

 きらきらと輝く黒い瞳に十二歳の少女の面影が重なった。


「お嬢さん……? え、なんで?」

「ユラが迎えに来てくれてね、戻ってきたの」


 はにかむように笑う流音を見て、シークは――。


    ◇


 流音はシークに会うため、アッシュに頼んでレジェンディア騎士団に問い合わせてもらった。

 彼は今、騎士団のサイカ支部で特殊な魔物討伐部隊の小隊長をしているらしい。

 流音とユラは諸々の手続きをしてヴィヴィタに乗り、サイカ王国にやってきた。


 ユラがドラゴンも一緒に泊まれる宿の手配をしている間、流音は一人でサイカの街並みをぼんやりと眺めていた。

 現在同盟七国の中で最も栄えている王国だけあって、道が広くてきれいだ。

 道行く同世代の女の子の服装もかわいい。


「ねぇ、さっきのカフェテラスにいた騎士様ってもしかして――」

「やっぱり⁉ バイトがなかったら声かけたのにね」

「超かっこよかったー。あたしもナンパしてほしい」


 小走りですれ違った少女たちの会話が引っ掛かった。

 もしかして、と彼女たちがやってきた方向に走る。

 そして流音はシークを見つけたわけだが、再会を果たしてすぐ、シークは力が抜けたように椅子に座って、テーブルに突っ伏してしまった。


「え⁉ どうしたの!?」


 流音が声をかけても「あぁ……」と小さくうめくだけだった。

 なんだかシークらしくない反応で、流音は困ってしまった。

 戻ってきたと聞いたら、からかわれたり笑われたりすると覚悟していたのに。


「はぁ。僕としたことが、クッソおせっかいなことを……馬鹿らしい」

「シーク?」


 それからたっぷり数十秒間だんまりを決め込んだ後、シークは肩を震わせて笑い始めた。


「はは、本当に予想外だった。いや、そうでもないな。あいつなら……うん納得」


 シークは顔を上げ、今までの態度が嘘のように爽やかな微笑みを浮かべた。


「おかえり、お嬢さん。まだ子どもっぽい感じはあるけど、やっぱり美人に育ったねぇ。歓迎するよ」


 そして自然なエスコートで流音を向かいの椅子に座らせた。

 こういうところは変わっていない。

 だけど、と流音は目の前の男性を観察する。


 ――十二歳のわたし、よくシークと普通に話せていたな。


 顔立ちが整っているのも、華があるのも確かだが、間違いなく子どもがかかわってはいけない部類の容姿をしている。

 少し言葉は悪いが、チャラい。

 成長した今、声をかけられても絶対についていってはいけないタイプの男性だとよく分かる。

 反面、異性として大変魅力的だということも理解できて、シークに引っかかる女性の気持ちが分かってしまって嫌だった。


「で、ユラは? 一緒じゃないの?」

「あ、そうだった。わたし一回戻らないと」


 慌てて来た道を振り返ると、ちょうどユラとヴィヴィタが近づいてくるところだった。


「勝手にいなくならないでください」

「ルゥがいなくて心配した!」

「ごめんなさい。でも、ほら、シークがいたの!」


 ユラはシークを一瞥して、ため息を吐いた。ヴィヴィタは目を吊り上げる。


「勤務中ではないんですか?」

「やぁ、ユラとドラゴンのおチビちゃん。久しぶりだねぇ。騎士にだって休憩時間くらいはあるよ。平和な世の中になったおかげで忙しくないし」


 流音たちも飲み物を頼み、改めて同じテーブルにつく。


「お嬢さん、甘いものは良かったの? 再会の記念にパフェでもケーキでもなんでもご馳走してあげるのに」


 初めて会った時、口止めとしてパフェを無理矢理ごちそうになったことを思い出し、流音は少し笑った。

 すると心なしかユラがむっとしたような気がした。


「ルノンの分は俺が払います。食べたかったらなんでも言ってください」

「ううん、今はいい。お昼ご飯食べたばっかりだもん」

「……そうですか」

「素敵なカフェだしまた今度来よう」

「はい、必ず」


 シークが我慢できないといったように吹き出した。


「独占欲強くて笑える。レイア副団長から聞いたけど、婚約したんだって?」

「それが何か?」

「いや、別に。……おめでとう、お嬢さん。大変だと思うけど頑張って」

「どういう意味ですか」


 ユラとシークは相変わらずのようだ。

 大人になったのだからもう少し仲良くなっていないかと淡い期待をしていたが、そんなはずもなかった。


 それからシークの近況を聞いて、流音とユラの今後の予定を少し話す。


「そういえば、アッシュから伝言があるよ。『よくも好き勝手やってくれたな。覚えておけよ』だって」

「んー? 僕、なにか陛下を怒らせることしたっけ?」

「……多分したんだと思うよ」


 詳しいことは知らないけれど、アッシュが恨み言を残すなんてよほどのことだろう。


「さて、名残惜しいけどさすがにそろそろ戻るよ。部下に探しに来られると面倒くさいことになりそう。お二人と一匹はごゆっくり」

「そっか。お仕事中だもんね。話し込んじゃってごめんね」


 シークはウインクを返してきた。


「お気になさらず。本当はお嬢さんよりも優先するものなんてないんだけどね。しばらくサイカに滞在するなら今度は二人きりで食事でも、と思ったけど……またユラと決闘になりそうだからいつか隙を見て誘うよ」

「そんな隙は一生与えません」


 すかさず口を挟んだユラの反応に、軽く笑い声を上げてシークは背を向けた。


「あ、今度騎士団にも挨拶に行くね! レイアさんたちによろしく!」


 ひらひらと手を振って、何も答えずにシークは行ってしまった。

 本当に変わってないなぁと呆れると同時に、少しだけ安心する。

 シークはどこか刹那的に生きているところがあったので、四年経った今でも変わらず元気そうでよかった。


 結局、流音だけではなくユラとヴィヴィタの分の会計まで全てシークが支払ってくれており、ユラはますます面白くなさそうだった。




お読みいただきありがとうございます。


~お知らせ~

以前活動報告にも書きましたが、改めまして……

『リトル・オニキスの初恋』の書籍化が決定いたしました!

TOジュニア文庫様より8月1日(金)発売です。


表紙はもちろん挿絵も全部かわいいです!

よろしくお願いいたします。

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