序章 遠く離れた高校生活へ
家を離れてこんなに遠くまで来たのは、初めてだった。
この距離が何を意味するのか、これまで真剣に考えたことはなかった。どう受け止めればいいのか、自分にも分からない。
ただ、この学校を選んだのが自分自身だということだけは、はっきりと分かっていた。
自分の願いだけを押し通した、一方的な選択だったし、両親に何度も何度も頼み込んで、ようやく手に入れた機会でもあった。
もともと両親は、私がこんなに遠くへ進学することに賛成していなかった。何度も懇願して、ようやく首を縦に振ってもらえたのだ。
慣れ親しんだ環境を離れたかったのかもしれない。誰も知らない場所で、もう一度やり直したかったのかもしれない。
もっとも、成績でいえば、毎年の募集定員が三百五十人に満たないこの私立高校にも、私は十分合格できる実力を持っている――そのことだけは、一度も疑ったことがなかった。
中学最後の学期を締めくくる大きな試験が終わったとき、私は自分でも満足のいく成績を手にしていた。
それは三学期を通しての努力のたまものだろうし、さらに遡れば、もっと前から気を緩めずに続けてきたおかげでもある。
二月に入ってから春休みが終わるまで、私はろくに休むこともなく、復習を進めながら、新学期の範囲の予習までこなしていた。
この遠く離れた私立高校では、入学前の一週間にもう一度入学試験が課される。
学校はその結果に応じて、クラス分けを行う。
試験はオンラインで行われ、その条件は極めて厳しく、手を抜く余地はどこにもなかった。
受験するのは、静かで整えられた部屋の中。カメラに全身と机の上まで映っていること、背景に本や資料が映り込んではならないこと――それが条件だった。
どの科目も、試験の開始から終了まで、部屋への出入りは一切禁止。自分自身も例外ではなかった。
その日のために、私は前もって机の上を片付けておいた。
片付けを終えた部屋は、どこか見知らぬ場所のようだった。自分の部屋のはずなのに、まるで他人の部屋のように感じられた。
試験の二日間、部屋は静まり返り、響くのはキーボードを叩く音と、ペンが紙を走らせる音だけだった。
問題を解きながら、余計なものが画面に映り込まないよう、ずっと気を配り続けた。
そうして私は、そんな環境で試験を受けた。
最後の科目の最後の問題を解き終えたとき、私は画面上の送信ボタンを数秒間ただ見つめていた。それから、ようやく押した。
送信が完了した瞬間、私は大きく長い息を吐いた。
得点もクラス分けの結果も、新学期になってからの発表だった。
その数日間の待ち時間のほうが、試験そのものよりずっと落ち着かなかった。
荷物は、数日前に先に送っておいた。
出発の日、車で送ってくれたのは父だった。
父は一晩中ハンドルを握り続けていた。きっと気が気でなかっただろう。その気持ちは、私にもよく分かる。
なにしろ、家を離れるのもこんなに遠くで暮らすのも、これが初めてのことだったのだから。
道中、父はほとんど何も話さなかった。車窓の景色は、見慣れた街並みから知らない田園風景へ、そしてトンネルへと移り変わっていった。
私はそれが夜の闇の奥へ流れ去っていくのを、ただ眺めていた。
この先、この土地には身内もいないし、自分の家もない。これからの生活は、すべて自分次第だ。そんなことは分かっていた。
学校の寮で暮らし、日々のことを自分の手でこなして、両親のいない場所でちゃんと自分の暮らしを築いていく――そういうことを、これから学んでいくのだ。
私はその場に立ち止まったまま、目の前の校門を見上げた。海の方角から風が吹いてくる。知らない土地の湿気と、潮の塩気を含んだ風だった。
私だけの三年間の高校生活が、ここから幕を開ける。




