書状 2
数時間の緊張感が漂った時間の後、職員に案内されてヌツクキとトゥーが室内に足を踏み入れた。職員は彼らを迎えると、静かに扉を閉めて退出していく。
「失礼するよ、オキ局長。急ぎの召集と聞いて駆けつけたが……何か大きな問題でも起きたのかね?」
ヌツクキが落ち着いた物腰で尋ねる。オキは彼らの方へと向き直り、机の上で両手をしっかりと組み合わせた。
「実のところだ、ヌツクキ殿。重大な問題が発生したのだ。……ところで、そちらの派手な若者は?」
トゥーが元気よく一歩前に飛び出し、大げさに頭を下げた。
「やあ! オレはトゥー! トゥー様だ! オユコ地区の首席英雄であり、冒険者、さらにはオーバーロードでもある男さ! 見ての通り、礼儀の真髄を心得ているぜ!」
「……ええ、それは非常に伝わってきますよ、トゥー殿。お会いできて光栄だ」
「こちらこそ!」
ゆっくりと扉が開き、一人の使用人が室内の者たちへ酒を振る舞うと、すぐに辞去していった。
ヌツクキは差し出された酒杯を手元に引き寄せながら尋ねる。
「で、我々がこのように呼び出された理由を伺ってもよろしいかな、局長?」
オキは酒杯から重々しい一息をあおった。
「総司令官ウィロー・アイリス卿より、至急遂行すべき極秘の命が下されたのだ」
ヌツクキの目がわずかに見開かれ、驚きの色が浮かんだ。
「総司令官ウィロー・アイリス様が……? いったい、何を望んでおられるんだ?」
「実はだな……“黒物質”を宿している疑いがありながら、いまだ確証の得られていない一団がいる。ウィロー卿からは、その者たちに関して我々が取るべき措置が命じられているのだ」
トゥーが両目を丸くし、大げさに驚嘆の声を上げた。
「……まさか、憎悪の真髄のことか……?」
「馬鹿な、そんなはずはない。あの真髄と何者かが共鳴するなど、百十八年もの間一度たりとも起きていなかったし、そもそも厳重に封印されていたはずだ……どうやってそれが……?」
オキは重々しく首を横に振った。
「思い出してくれ。あの“黒きピラミッド”の失踪劇は、スカウン全域からイタニリアに至るまで大きな騒動となった。だが、ウィロー卿の指示によって民衆への公表が厳しく制限された事実がある。どうやら、八名の未成年からなる一団がピラミッドの出現した現場にてそれと接触し、どういうわけか封印を解除してしまったらしい」
ヌツクキとトゥーは、給仕された酒のこともすっかり忘れ、ただ事態の深刻さに圧倒されながらオキの言葉に耳を傾けていた。
「その後、彼らはこの世界へと連行されたが、厳重な検査の結果、いかなる痕跡も検出されなかったという」
「だが、それでは――」
「命令には従う。だが、少しやり方を変更するつもりだ。本来であればこの件は誰にも漏らしてはならない機密だが……もう隠し通せる段階ではないだろう。奴らの足取りからして、いずれ君たちの経営する酒場に立ち寄るはずだ。だから頼みたい。私の言う通り、もし彼らの挙動に不審な点を見つけたら、すぐに私へ報せてくれ。そうすれば、私が“英雄”を送り込んで奴らを試してみせる」
「どのようなテストをするつもりだい?」
「その英雄には、あえて理不尽なまでの暴虐と敵意をもって奴らに絡むよう指示する。それでボロを出せば一発で分かるという寸法だ。仮に、そのような挑発を受けても何事も起きなければ、卿の書状にある通り他の措置は不要となる。だが、もし何か異変が起きたならば――その場で容赦なくその者を粛清し、死骸をこの司令部へと回収するよう命じられている」
「周到な計画だね。だが……もし送り込んだ英雄が返り討ちに遭ったらどうする? 相手は他ならぬ“憎悪の真髄”なのだぞ。その力がどれほど圧倒的か、誰もが知っているはずだ」
「ああ、だが心配はいらないさ。仮にあのガキどもが本当に憎悪の真髄を宿していたとしても、まだ若く、力を完全に制御しきれていないはずだ。十分に対処できる」
「で、オレの役割は何だ?」
「君はただ状況を観察していればいい。最悪のシナリオにおいて、すべてを片付ける最後の切り札として動いてもらう」
「了解した!」
トゥーはグラスに残っていた酒を勢いよく一気に飲み干した。
ヌツクキも静かに椅子から立ち上がる。
「分かった、局長。あなたの計画通りに動こう」
「感謝する。もう下がっていい」
二人は部屋を辞し、背後で重く扉を閉めた。




