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桜花さんの拳脚商売奮闘記  作者: 岸本ひろあき
天使の殺人鬼捕り物編
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エピローグ




 天神暦1897年11月上旬。


 吹き抜ける涼しい風が徐々に冬の訪れを感じさせる中。

 一人の老年の男が、ガーヴァン古書店の裏口から入ってきた。

 裏口はダイニングルームにあって、その男はテーブル近くの床に肩に下げていたショルダーバッグを下ろすと、キッチンへ行き、ケルトと棚に置いてある珈琲ミルと豆を取り出した。


 水を入れたケルトをコンロに火にかけ、珈琲ミルに豆を入れ、ゴリッと豆を挽いたそのタイミングで、声が掛けられた。


「おかえり、ガーヴァン」


 豆を挽くその男――ガーヴァンはそちらに振り向き、細い眼をさらに細めて小さく口角を上げた。


「……戻った。大変だったようだな」


 ガーヴァンには緊急連絡用として【忍具法:以心電信の術】の木札を渡している。

 彼は大都市ガロナを代表する一人なので、先日の殺人鬼騒動でバジエルが関係していると判明した段階で一報を入れていた。


 ナッシュは肩をすくめながらテーブルの席に座る。


「まぁ俺一人だとヤバかったけど、桜花がいたから何とかなった」

「そうか。バジエル相手に生き延びるのだから、相変わらず優秀な娘だな」

「本当に。で、これがその報告書」


 と言いながらテーブルに書類を置いた。


 以心電信の術の札は、込められた霊力を消費して使う訳だが、連続で話し続けると凡そ30分ほどで霊力切れを起こして、再度霊力を込めないと唯の木片になってしまう。忍びなら随時チャクラを込めながら使えば、素材が劣化するまで3日連続で使えるのだが、それが行える忍びはナッシュを除いて3人しかいない。


 そういう理由で木札は長々と使うものではないの。

 その為の詳しく記した報告書であった。

 ガーヴァンはそれをちらりと流し見しつつ、コップを二つ用意し、珈琲フィルターをはめ、中挽きの豆を入れる。


 そこに湯を注げば、芳醇な香りが立ち込める。


 香りを楽しみながらコップに満たされた珈琲をテーブルの上に置く。


「ありがと」

「うむ」


 ナッシュは一口嚥下し、ほぉとため息をついた。

 やはりガーヴァンの入れる珈琲は別格に美味かった。


 ガーヴァンも珈琲を口のしつつ、報告書を手に取って読み始める。


 しばしの間、紙をめくる音と、珈琲をすする音だけが辺りに響く。


 そしてさして時間を掛けず報告書を読み終えたガーヴァンは小さく息を吐いた。


「手強いな。だが奴が表舞台にちょっかいを掛けるのは10年ぶりだ。【活動期】を知れたのは僥倖と言っていい」


 バジエルという男、気に入った魔法分野を節操なく研究し、二つから三つの研究成果が出来上がったところで、世に出して反応を見る、という特徴があった。


「おそらく、また動く。いつでも動けるよう、しばらくは店番をするとしよう」

「お、そっか。じゃあ気兼ねなく、少し休暇をもらってもいいか?」

「構わんぞ。で、その期間と休暇理由は?」


 ナッシュはニヒルに、だが実際はいたずら小僧のようなにやりとした顔で、口を開いた。



「相棒にミノウルス島のダンジョン探索に誘われたんだ。期日は2週間の予定だ」




 天使の殺人鬼捕り物編・完


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