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お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです  作者: 魚虎・瀧岡くるじ
番外編『5年半の休暇』

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5年半の休暇②

 ログインすると、男鹿優作ことオウガの体は雷鳴轟く漆黒の城の前に転移された。

 かつてオウガが所属していたギルド、竜の雛。『ログインしたらギルドホーム前』という設定が反映されたのである。


「ん……? ここは……ああ、あったわ~こんなの」


 約五年半ぶりにログインして感じたのは懐かしさではなく、期待外れの感情だった。


「グラフィックしょぼ!? こんなチープだったけか?」


 目に映る電子の景色は記憶より拙く荒い。


 かつて輝くように見えていたゲームの世界が、今ではまるで小賢しい子供騙しのように思えた。


 そして、僅かな苛立ち。


 5年半。夢を目指して必死に努力し、変わり続けた自分と、何も変わっていないどころか劣化(少なくともオウガにはそう見えた)している世界。

 それを比べて、言い知れない怒りのような感情が芽生える。


 だがそれを表に出すほど、もう彼は子供ではなかった。


「うわぁはっず。小学生の俺、こんなショボいゲームに夢中になってたのかよ~。いやぁ若かったんだな」


 言葉の節々に小さな棘を生やしながら、オウガは城の回りを歩く。

 庭の方からドスンドスンという足音が聞こえて、体がビクンと震えた。どうやら、モンスターのようだ。


「で、でっかいモンスターの迫力は、まぁまぁじゃねぇの?」


 決してビビった訳ではないと、何故か言い訳をする。


 庭には全身を機械化した巨大なドラゴンが闊歩している。その姿には見覚えがある。

 連鎖的に、この城の主である女性の記憶が思い出される。


 そこで初めて、オウガの胸に哀愁のような懐かしい気持ちが湧いてきた。


「懐かしいな……もう顔も思い出せねぇけど……あの人、元気かな。流石に引退してるだろうけど」


 そうだ。

 あれから五年半が経った。

 自分がやっていた頃にいたメンバーはもう既に引退しているはず。


 なら、こんなコソコソと歩く必要はない。


 オウガは身を潜めるのを止めて、堂々と正面玄関を目指す。

 閉じられた門に手を触れると、記憶の通りに中に入ることができた。


「これは……えっと?」


 城内の様子は、オウガの記憶とはかなり違っていた。


 威圧するかのような絢爛豪華な装飾は鳴りを潜め、どこかふわふわした、白やピンクを基調とした内装に変更されている。

 昔の彼女に連れて行かれた、女性向けのテーマパークを思い出させた。


「なんか居心地悪いな……おっ」


 とはいえ、まったくの記憶違いかと言われるとそうでもない。

 ファンシーな城内には無数の魚のようなモンスターがおり、マスコット面をしながら思い思いに過ごしている。

 そのシャチのような見た目の小さなドラゴンは、流石のオウガも覚えていた。


「あ、ヒナドラちゃんだ!」


 背後から女性の声が聞こえ、もしかしてと振り返る。

 脳裏に過ったのは、ある女性の姿。


 だが後ろにいたのはオウガの思い浮かべた女性ではなく、中学生くらいの女子二人。


 初心者だろうか。ゆるい装備に身を包んだ二人はぱっと顔を輝かせると、ベンチにたむろする複数のヒナドラに駆け寄っていく。


「もっきゅ!」

「今日も頑張ろうね~ヒナドラちゃん」

「もきゅ?」

「もう! 今日はイベントだよ~」

「お城を守ろうねぇ! 期待しているよ!」

「もきゅー」


 動物園ではしゃぐ子供のように、その女子二人は楽しんでいる。


「なんだ、新入りか。だよな。5年も経てばメンバーも入れ替わる」


 オウガがこのゲームに最後にログインしたのは、このギルドが結成された年の12月。


 その月は、運営を巻き込んだ大きな戦いがあった。

 丁度その頃から中学進学の準備やサッカー部復帰の支度に追われ、徐々にログイン頻度が減っていき、年明けと同時にログインはしなくなった。


「ま、いいけどさ。うん?」


 その時だった。

 誰かが城の奥から走ってくる。


 そして、ヒナドラと戯れる女子二人に大きな声で怒鳴った。


「テメェらあああああ! ヒナドラ先輩に失礼だろうがあああああ!」

「きゃっ」「うわ出た」


 現れたのはこのファンシーな空間には似つかない風体をした男。

 革ジャンとパンクなリーゼントヘアーをした【ヤンタ】というプレイヤーだ。


「ヒナドラ『ちゃん』じゃねぇ! ヒナドラ『さん』だるぉおがああああ新入りぃいいいい」

(なんだそれ)


 どうでもいいだろ。それがオウガの素直な感想だった。

 怒られている女子二人は目をバッテンにしながら震えている。


「もっきゅ(坊主。いいってことよ)」

「もきゅもきゅ(この子たちも俺らのことを舐めてるわけじゃない)」

「もっきゅー(こういうふれ合いも大事だぜ)」


「ヒナドラ先輩がそう言うならいいっすけどぉ」


(なんかヤンキーがヒナドラと会話してるな……なんだあれ)


 オウガにはあの小さな竜がなんと言っているのかまったく理解できないが、ヤンキーヤンタの勢いが少しだけ弱まった。

 理由や経緯はよくわからないが、本気でヒナドラを先輩だと思っているようだ。


「だ、だがヒナドラさんが許しても、俺は許せねぇ。先輩後輩の序列は絶対だ。お前ら今日こそは――」


 ヒナドラの言葉は残念ながらヤンタには届かなかった。

 ヤンタの矛先が再び女子二人に向かう。


(流石に助けに入るか)


 オウガはなんとなく来ただけだが、女子二人は楽しむためにこのゲームにログインしたのだろう。

 それをあんなヤンキーに台無しにされるのは可哀想だ。


 そう思い、助太刀に入ろうとした時だった。

 城の奥から知った声が響く。


「こらーヤンタくん! また問題起こすつもり?」

「ひっ……姉さん!?」


 ヤンキーはピシっと背筋を伸ばしつつ、怯えように驚く。

 その怯えように、もしかしたらと思い声の方を見る。


 オウガが思い浮かべたのは、かつてやさぐれていたオウガを救い、導いてくれたギルドマスターである女性の姿。

 だが、奥から現れたのは別人だった。


「げぇ……アイツは」


 記憶よりもグレードが高いと思われる装備に身を包んだ女性プレイヤー。

 名前はメイ。


 本名、天王寺さつき。オウガの幼馴染みであり、家が近所であることから、小学校時代はよく一緒に遊んでいた少女だった。


「あ、姉さん。ご苦労様っす」


 どうやら完全にヤンキーを手懐けているらしく、ヤンタはすぐさま舎弟ムーブをかます。

 メイはその仕草に対し、不満そうに眉を顰めた。


「姉さんは止めてって言ってるでしょ。私のことは……」


 その後、メイの口から飛び出たのは、オウガには驚くべき言葉だった。


「私のことは、ギルマスって呼びなさい!」


書いてたら懐かしくて、なんや普通に長くなりそ……。すんませんね。

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