かえるの親はかえる
新世界暦1年10月20日 ラストール王国 王都第一軍港 海上自衛隊 練習艦「かしま」
白っぽい大理石のような石で作られた美しい街並みが元の世界では有名だったラストール王国王都において「およそ似つかわしくない」と酷評されていたのが、第一軍港である。
ちなみに、王都には第三軍港まであり、かつてはほぼ全ての主力艦隊が王都にいたのだが、航空機の性能が上がった今となっては奇襲で全滅するする恐れがある、と第一艦隊のみが第二軍港を母港にしている。
第一から第三までは造られた順なので、第一が一番古く王城に近いが、規模も小さい。
第二は第一が手狭になって造られた大規模軍港で、工廠も併設されている文字通りの母港である。
第三は巨大な波止場があるだけで、とくに設備はない。艦をつなぐ場所が不足して造られただけなので、支援設備は第二で間に合っている、というわけである。
話が逸れたが、そんな第一軍港に、ますます似つかわしくない、なんの統一感もないAPTO艦隊が入港していた。
そして、その艦上から王都を眺める男が1人。
「これが名高いラストールの王都か。聞いていた通り美しい場所だな」
その話を教えてくれた息子も、一緒に話を聞いて一度見てみたいと言っていた妻も、もうどこにもいない。
そのことを思うと、知らぬうちに彼の頬は濡れていたのだった。
新世界暦1年10月20日 ラストール王国 王都中央通り
もともとは凱旋する騎士団が王城までパレードするために造られた大通りを、APTO艦隊に参加している各国艦から抽出された部隊が、群衆の歓声を受けて行進している。
中でも一際注目を集めているのは、海上自衛隊が行っているファンシードリルである。
遠洋練習航海がてら今回の派遣を行った海自だからこそできるパフォーマンスであり、本来は最大の戦果を挙げた主役であるはずの米海軍潜水艦乗員よりも遥かに目立っていた。
潜水艦の魚雷であっさりと意味不明な航空戦艦が沈んだ後、残りの人民解放委員会の艦は対艦ミサイルの餌食か、普通にラストールが陸上機の航空攻撃と夜戦で片付けた。
「噂に違わぬ凄まじさだったな」
APTO各国に続いて凱旋行進しているラストール海軍の列の中で、第一艦隊司令はこそっと幕僚たちと話をしている。
ちなみに、列の先頭は帰国した第一王女であり、大方の国民は第一王女の残念さは知らないので、その見た目だけで人気は絶大である。
「アズガルドが一方的にやられたのも納得です。兵器体系の見直しが急務ですね」
「しかし、そうなると主要兵器が全て輸入になってしまいます」
「一時的には仕方あるまい。十年、いや二十年、それ以上かけて追いつくしかあるまいよ」
パレードの最中だというのに、彼らはあれやこれやと話し合いを続けている。
パレードへの視線は海自のファンシードリルと、第一王女がほとんど引き付けてしまっているからこそできることだが、この後、王城での謁見が終われば、そのまま参謀本部で報告を求められるのが目に見えているからである。
「しかし、艦船を輸入となると海軍工廠や造船所の反発が激しそうですが」
「船体だけ作って搭載兵器だけ輸入する形でなんとかするしかなかろう」
「どのみち、あれと同じものを作れと言っても、我が国では無理でしょう。反発は押し通すしかないと思いますが」
「航空機なんかはそうするしかないだろうな。根本から違い過ぎる」
結局のところ、歩きながら、時々沿道に手を振りながら、なんていう状態で話がまとまるわけもなく、時間も足りずで一行は王城へと到着したのだった。
新世界暦1年10月20日 ラストール王国 王城 国王私室
「ただいま戻りました、お父様」
APTO艦隊との謁見や第一艦隊の凱旋報告が終わった後の王城で、第一王女が国王、つまり父親に帰国報告を行っていた。
ちなみに、謁見とか凱旋報告とか、儀式めいたイベントなわけだが、この手の王室系イベントを一番喜ぶのは意外とアメリカ人だったりする。自分たちの国の歴史が浅く、そういうのが無いのでコンプレックスでもあるのだろうか。
「うむ、よく帰った」
ここまでなら、初老の威厳ある国王に、名目麗しい姫が帰国報告している、絵になる様な普通の王族の帰国報告である。
「で、どうだった」
早く教えてくれ、という感じで国王は相好を崩す。
ちなみに、ラストール王国もアズガルド神聖帝国と同じで、立憲君主制の議会制民主主義国家なので国王に政治の実権はない。
よって、王族の外交日程は友好国に対するアピールという面が大きい。
勿論、それを用いた情報収集という裏の面も無くはないが、友好国との関係を強化するという役割に比べると些細なものである。
「はい、これまでの常識とは全く異なる艦ばかりで、正直何から話せばいいのか迷ってしまいます」
まさに目をキラキラさせた状態とはこういうことなんだろうな、という感じで第一王女は話始める。
普通は見てきた訪問国の様子や、会った要人について話すものだと思うのだが、そんな常識はこの王女には無意味である。
それに対して、国王は
「おおおおお、それはいいなぁ。早く第一軍港まで見に行きたいものだ」
そのまま乗っかった。
この親にしてこの子あり。を文字通りに示した軍艦オタク親子である。
「あなた、またそんな話をして!」
そこで部屋に入ってきた王妃が呆れたように国王に怒った声をかける。
「あなたも、第一王女としての自覚を持ちなさい!いい加減に伴侶を見つけないと、今は王国の至宝などと言われていても、直に行き遅れと言われるようになりますよ!」
続けて王妃は娘である第一王女にも矛先を向けた。
もはや行き遅れになるのは決まっているようなものだ、というのは身内の贔屓でこれっぽっちも思っていないあたり王妃も大概だが。
「まぁまぁ、せっかく姉上が帰られたのです。お小言はまたにしましょう」
第一王女の弟である第二王子が王妃の言葉をお小言、と言って小突かれているが、自分のほうに火の粉が来ないよう先手を打っただけである。
国王と第一王女は軍艦に魅入られているが、第二王子も別の物に魅入られているので、姉のことを言っていられない。
「そんなことより姉上、かの国々の航空機のエンジンは我が国とは比較にならないほど進んでいると聞きました」
第二王子が魅入られているのは航空機、それもそのエンジンである。
王妃はやれやれ、といった感じで諦めたように部屋を出て行った。
自分は関係ない、みたいにしている王妃だが、実は四輪レースチームのオーナーもやっているスピード狂なのでまさにお前が言うな、を地で行く趣味人だったりするのだが。
新世界暦1年10月20日 ラストール王国 共同参謀本部 大会議室
空軍を設立して三軍制をとっているアズガルド神聖帝国に対し、ラストールは未だ空軍を設立しておらず、陸軍と海軍の二軍制である。
その二軍の調整機関として存在するのが、共同参謀本部であり、別に全軍に対する指揮権を持つわけではない。
最近だともっぱら、陸軍と海軍で次に開発発注する航空機のメーカーを開発・生産能力に応じて割り振るのが仕事である。
そんな共同参謀本部の大会議室は、もともと共同参謀本部で働いている人間以外にも、陸軍と海軍から人が押し寄せていた。
APTO艦隊の戦闘を見ていた第一、第三艦隊と、王女と共にAPTO各国を訪問していた艦隊の報告が行われているためである。
もともと、最初の接触を行った外洋偵察艦隊が帰国した時点で、多くの文字情報や写真は持ち帰られていたが、どれもこれも信じられないことばかりで、皆半信半疑であった。
が、事実であれば所有する兵器が全て旧式化してしまうとあって、実際に見た人間の報告を聞こうと両軍の高級幕僚が大勢押し掛けたのである。
そして、最初の報告が終わった段階で室内は喧々諤々の騒がしさに包まれた。
「なんてことだ!人民統制委員会の馬鹿どもの機体とはいえ、視界にも納めず100機以上を撃退するなど!」
「そもそも、その距離で大編隊を1機ずつ識別するレーダーなど聞いたこともない!」
「だいたい、防空艦がそんな能力を持つのなら航空機など必要ないではないか!誘導弾だけ配備すればすべて事足りるのではないか?」
「たしかに、防空は全て誘導弾に任せて、戦闘機に割かれている予算を別のことに回せるぞ」
まずその誘導弾自体が高いうえに、ミサイル万能論、なんていうのは定期的に出てきては失敗する考えなのだが、そんなこと知る由も無いラストールの高級幕僚たちは、もう全部ミサイルでいいんじゃね?という方向に傾き始める。
結局のところ、その考えは翌日に行われたラストールの陸軍機と、イギリス空軍のF-35Bで行われた模擬戦で、エンジンを焼き付かせる覚悟で回して従来の最高速度を上回る速度で飛ぶラストール機が、巡航速度以下で飛ぶF-35Bに大人と幼児のかけっこのように引き離されて吹き飛ぶことになったのだった。
次は水曜日・・・無理かも。
とりあえず1週間以内に




