軍艦旗を掲げない武装船舶はやばい
話が進まなさすぎるので週2更新頑張る
新世界暦1年10月18日 ラストール近海 海上自衛隊 練習艦「しまかぜ」艦橋
「目標、浮上してきます」
「まぁ、いつから潜ってたのか知らんが、大したバッテリー容量もあるまい」
「それにしても根比べをする気も無いとは・・・」
潜水艦を追いかけまわすは海自の日常業務である。
元々はソ連、最近は中国と、日本近海で活動する原潜を追いかけまわして、位置を特定できれば嫌がらせのようにアクティブソナーを連打して追い払う。
そんな追いかけっこは日米問わず西太平洋の日常だからだ。
「まぁ、確かに拍子抜けだわな」
潜水艦は浮上さえしなければどう言われようと、そんなところに我が国の潜水艦はいなかった、で押し通せるので、どれだけソナーを乱打されて見つかっているとわかっていても、意地でも自国海域までは浮上しないものである。
もっとも、それは十分な潜航能力を持っていなければ不可能であり、せいぜい1日潜っていれば限界な第二次大戦レベルの潜水艦には困難である。
それでも、粘れば数日間は潜航していられるはずである。
もっとも、海中で息を潜めているだけなので、バカスカアクティブソナーを乱打されれば現代艦の探知圏外に逃れるのは不可能だが。
「念のため主砲とCIWSに準備させろ」
「浮上してから戦闘する気ならその前に魚雷を撃つような気もしますが」
「第二次大戦レベルの潜水艦ならソナーだけでまともな雷撃はできまい。それに、交戦中でもないのに先制攻撃などできんしな」
艦長と副長はどこかのんびりと会話を続けている。
「あの、その潜水艦が人民統制委員会のもならラストールはすでに交戦中なのでは?」
その会話に割り込んだのは、留学生扱いで今回の航海に参加しているアズガルド神聖帝国海軍の少将である。
「とはいえ、別に我々は現状ラストールと同盟関係にはありませんし、我々が攻撃を受けたわけではありませんし、そもそも今のところはただの国籍不明の潜水艦ですからね」
潜水艦が魚雷を撃っていれば別だが、現状では公海上で潜航していただけである。
地球以外の艦船の音紋も全くデータが無いので、周囲の地理的状況から考えて人民統制委員会の潜水艦だろう、というだけの話である。
「潜水艦が浮上してから海軍旗を掲げるならそれでよし、掲げないなら海賊船ということで臨検ですな」
ちなみに、臨検に備えてクイーン・エリザベスで特殊舟艇部隊を主力にした臨検チームが、ひゅうがで特別警備隊を主力にした臨検チームがヘリコプターと共に待機している。
「不明潜水艦、本艦右舷に浮上します」
その報告をうけ、艦長は右舷側ウイングに出たのだった。
新世界暦1年10月18日 ラストール近海 人民統制員会 潜水艦26号
「間もなく潜望鏡深度」
「潜望鏡深度上げ」
浮上すると決めたところで、海上を何も確認せずに浮上すれば事故になる可能性もある。
実際、地球においてはそのような事故も発生している。
潜水艦側が7000トン級の原子力潜水艦だった故に500トン級の水上船舶が悲劇的な結末を迎えたが、2000トンを下回る潜水艦(これでも彼らの世界では大型の方)である潜水艦26号が水上戦闘艦と衝突すれば甚大な被害を受けることになるので、自己防衛の意味合いが強い。
「潜望鏡上がりました」
未だに不服そうな表情を隠そうともしない革命管理委員を意識の外にやり、艦長は潜望鏡をぐるっと360度旋回させる。
「海上障害物なし、浮上!」
左舷側に水上艦がいるが、並走する形なのでまっすぐ走っていれば衝突の危険はない。
「見たことのない艦だな。海軍旗も見たことが無い」
国外の情報がまるで入ってこない人民統制委員会とはいえ、革命前に士官教育を受けている艦委員長は既存の海軍旗は軒並み頭に入っているし、(革命前までの)各国艦型はある程度頭に入っている。
それに照らし合わせると、6000トン級とみられるほどの大型艦でありながら主砲が前後の単装砲2門というのは異常であり、よくわからない装置も多数ついている潜望鏡で見える艦は謎であった。
「浮上完了」
「上がるぞ」
「艦委員長あがられます」
艦委員長は梯子を登り、ハッチを開けて露天艦橋に出る。
「砲塔が大きいわりに貧相な砲ですね」
勝手についてきた革命管理委員が並走する水上艦を見て感想を述べる。
やがて、水上艦から何やら拡声器で呼びかけが始まった。
「何を言っているのですか!」
「さあ・・・」
艦委員長は相手が何を言っているかわからずわからずキレている革命管理委員を冷ややかな目で見ている。
外国語を話せる人材は全てインテリだということで粛清の対象になったので、人民統制委員会で外国語を理解できる人材は極端に少ないうえ、その人材も粛清を恐れてわからないふりをするのでつまるところ、公式には外国語をわかる人間がいない。
ちなみに、革命前に士官教育を受けた艦委員長は、呼びかけがアズガルド語によるもので、その内容は「海軍旗を掲げ所属を明らかにせよ、掲示が無い場合、海賊船とみなし拿捕する」というものだとわかっていたが、拿捕されたら亡命しようと思っている艦委員長にしてみればそれを教えてやる義理はないのである。
「艦長、あれは!?」
上がってきた見張り員が驚愕に声を張り上げる。
「オートジャイロ、にしてはデカいし操縦性もよさそうだなぁ」
人民統制委員会には存在しない機械の名前をボソッと呟き、2機飛来したうちの1機から垂らされたロープで人が降りてくるのを艦長は呑気に眺めるのだった。
新世界暦1年10月18日 ラストール近海 海上自衛隊 特別警備隊
黒いボディアーマーやヘルメットに身を包んだSBUがひゅうがを発進した対潜機材を下したSH-60Kのサイドドアから眼下を眺めている。
「SBSはさすがに手馴れてますね」
「まぁ、年季が違うわな」
次々と降下し、艦橋とハッチを抑えるSBSの鮮やかな手際を眺めながら彼らを乗せたSH-60Kは潜水艦の周囲を旋回する。
「抵抗しませんね」
「いや、1人下に降りたぞ」
艦橋にいた士官の1人と思われる人間が、SBSが降下を始めるのと同時にハッチから中に戻った。
SBSがそれを見逃すわけもなく、艦橋に残った人間に詰め寄っているが、艦橋に残ったもう1人の士官は、手ぶりなどから他の乗員に抵抗しないように指示を出しているように見える。
「上は制圧できたみたいですし、我々も降りますか」
拿捕はSBSがメインでSBUはバックアップである。
「そういえば、隊長はアズガルド語の研修受けたんでしたっけ?」
「ロシア語くらいには使えるぞ!」
「・・・ダメみたいですね」
SBUの隊長が曲がりなりにも話せる言語は英語、北京語、ハングル、そしてあと日本語だということを思い出した部下達は、誰が事情聴取するんだよ、と思いながら降下を開始した。
新世界暦1年10月18日 ラストール近海 海上自衛隊 護衛艦「まや」CIC
「目標艦より発信される電波を探知。通信波と思われます」
ESMの探知情報を見ていた隊員が報告をあげる。
「通信波か・・・位置を通報されたかな?」
由々しき事態なのに報告を受けた砲雷長がのほほんとしているのは、発信を止めるには撃沈するしかないからである。
護衛艦はECM能力を持っていても、それは基本的に敵の航空機や艦船、ミサイルのレーダーを妨害するためのものであって、通信を妨害するためのものではないからである。
まぁ、そもそもまや型ではそれすらオミットされ、ジャミングは投射式の使い捨てジャマーによっているのだが。
「ひゅうがに連絡、目標艦の通信設備を至急押さえるよう」
「発信、止まりました」
こちらからどうこうする前に臨検チームが艦内を制圧したのだろう。
目標艦からの電波発信は停止したのだった。
「さて、面倒なことになりそうだな」
そう言って砲雷長は艦長を呼び出すために艦内電話に手をかけたのだった。
次は土曜日




