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石像と貴族

 此処まで読んで頂きありがとうございます、この話でおおよそこの事件が解決します。

 いろいろ読みにくい部分もありますが、ご容赦ください。

 楽しんで頂ければ幸いです。


 渡された許可証を使い、俺を含める七人が乗り込んだ馬車がフェデーリの私邸に着いたのは、約束した三日目の昼間だった。


 奴に言わせれば人目に付かない夜間の方が都合が良かったようだが、ネルソン達が進言し、万が一に石像がガーゴイルだった場合に太陽が出ている時間であれば外に逃がす危険度が低い、という理由でこの時間となった。



 案内された私邸の地下にある倉庫は広く、前の世界で高校の時に使っていた体育館程の広さがあった。


 私邸の真下に作られていない点や位置や大きさから考えて状況から推測しただけだが、此処はおそらく元々は倉庫ではなく、別の目的で使われていたに違いない。


 壁や床に剣や槍で斬り付けた跡があるし、石が敷き詰められた床のあちこちに妙にすり減っている部分がある、此処で兵士が訓練していたか、もしくは戦いがあったかどちらだろう。


 となると多少はここで派手な戦いをしても大丈夫だろう。


 ゼーマンに魔法を使わせた瞬間、天井が崩れ落ちてきましたとか言われると流石にシャレにならないからな……。


「これが問題の石像ですか?」


「ええ、この四体がそうです」


 だだっ広い倉庫に四体の石像が置かれており、それぞれに白い布がかけられていた。


 俺達はこの中の二体は元が人間だと知っているが奴はその事を知らない為、一体一体の間隔が五メートルほど開けられており、最悪四体が全部ガーゴイルだとしても即座に囲まれる事が無いよう配慮されていた。


 ついでに鎖か何かで石像の足を床に括り付けてくれていれば更に楽になったのだが、鎖を付ける際に動き出されても困る上に、元が人間だった少女の足に傷でも付けられてはたまらないのでそれは遠慮してもらった。


「それでは調べます」


 フロイスが手前の石像から鑑定を始めた。


 何やらブツブツと言葉を紡いだ瞬間、突然灯った淡い光が石像を包み、一分ほどでその光が消えた。





 フロイスが鼻の頭を軽くひとさし指で小突きながら、「リューさん…」と呟いた。


 これは事前に決めていたサインで、その石像が元は人だった物、つまりビリー商会から購入した二体の石像のうちのひとつだと判明した。


「後三つか……、このまま何事も無けりゃ楽なんだが……」


 ネルソン達に視線を向けると、この部屋に入った時のまま警戒態勢を微塵も緩めてはいなかった、流石は冒険者、酒場で飲んだくれている時とはまるで別人のようだ。



 倉庫が広かった事もありネルソンとホークスは用意してきた二メートルほどの長さの槍を構え、ロイドは大きな鉄の塊の付いたハンマーを握っていた。


 もしもガーゴイルだった場合は二人がガーゴイルの動きを封じ、ロイドがあのハンマーで殴り倒す算段になっている。



 ガーゴイルは背中から羽根を生やして空を飛ぶ場合もあるという事なので、その場合はゼーマンが魔法で対処する手筈となっていた。


 なお、セシリアはフェデーリの横に陣取って貞淑なシスターを装って微笑み、あの女の本性を知らないフェデーリの奴はいい気になって鼻の下を伸ばしていた。


 まあ、そこいらの冒険者より貴族の三男坊から金を巻き上げた方が手っ取り早いだろうからな……。





 二つ目の石像もビリー商会から購入した元は人間であった少女だと判明し、三体目を調べ終わったフロイスがやや緊張した面持ちで右耳の耳たぶを軽く摘まんだ。


 これは事前に決めていたサインのうち、魔法の力を宿した何か、もしくは魔物だった時のモノだ。


「ネルソン……」


「下がっていてください」


 フロイスがゆっくりと後ろに下がって石像から距離を取り、万が一に備えてセシリアの誘導でフェデーリを倉庫の外に避難させた後、足手纏いにならない様に俺も入り口近くまで下がった。


 ガーゴイルと思われる石像の左右からネルソンとホークスが徐々に距離を詰め、ロイドも直ぐに殴りかかれるようにハンマーを肩に担いで石像に近づいた。



 フェデーリを倉庫の外に避難させたセシリアは直ぐに倉庫に戻って来て、誰かが怪我をした時の為に駆けつける準備をしていた。


 セシリアが戻ってきた事を確認し、ネルソンとホークスが石像を床に押さえつけようと槍を構えた瞬間、空気を切り裂く様な咆哮をあげて先に動き出したのは()()()の石像の方だった。



「やはり()()もか……」


 四体目の石像……、少女の姿を模したガーゴイルは両手の指先から延びた鋭い爪でかけられていた布を切り裂き、背中から生えた小さな翼を広げ天井スレスレまで飛び上がった。


 経験の浅い駆け出しの冒険者ならばその動きに気を取られ、もう一体のガーゴイルの攻撃で手傷を負っていただろう。


 しかし、ネルソン達はもう一匹のガーゴイルをゼーマンに任せ、当初の予定通り目の前の石像をネルソンとホークスが槍で床に縫い付け、その頭部に向かってロイドが担いでいた鋼鉄のハンマーを振り下ろした。


 不意を突かれた形になったのは、がら空きになったネルソン達の背中に切りかかろうとしていたガーゴイルの方で、最後の抵抗として爪でロイドの足を切り裂こうとしたが、振り下ろされたハンマーはその動きより早く、元は美しい女性の顔をしていたその頭を鋼鉄のハンマーで粉々に打ち砕かれた。



神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアト


 ゼーマンが唱えた魔法の呪文で生み出された光の剣がガーゴイルの胴体を光速で貫いて天井に縫い付け、身動きの取れなくなったガーゴイルごと激しい光と共に爆散した。


 一瞬、爆散の衝撃で天井が崩れるかと思ったが元々ダンジョンで使う事を想定された呪文らしく、爆発の規模に比べて周りの被害はそれほどでもなかった。



 二体のガーゴイルのうち一体は粉々に四散し、もう一体は頭部を失って床に転がっていた。


 一応念の為なのか、ロイドが手にしていたハンマーを動かなくなったガーゴイルの胴体にもう一度振り下ろそうとしたところ、その動きに気が付いたのかネルソン達がガーゴイルを床に縫い付けていた槍を掴み、激しく暴れてそこから抜け出そうとした。



 しかし、勢い良く振り下ろされた鋼鉄のハンマーはガーゴイルの胸部を粉々に砕き、石の身体を周囲に飛び散らせて完全に動きを止めた。


「流石だ、迷いが無いな」


 頭部を失ってなお生きている魔物という存在にも驚いたが、油断せずガーゴイルの動きを封じ続けたネルソンやホークスと、トドメを刺しに行ったロイドに感心した……。


 今のやり取り、一瞬でも仲間を疑って隙が出来ていれば、この倉庫の中でガーゴイル二体を同時に相手にしなければならない状況に陥っていた。


 おそらく二体のガーゴイルは今まで何度か同じ様な状況に陥っていたのだろう、そして今回の様な攻撃を必勝パターンとし、その危機を脱して来たに違いない。


 このガーゴイルたちの運が悪かったのは、今回俺が雇ったネルソン達が腕利きの冒険者だって事だ。


「リューさんのおかげですよ。普通の依頼主ならゼーマンの爺さんまで声を掛けませんからね」


 確かにゼーマンがいなければ二体目のガーゴイルが飛び上がった時点で最低でも三人のうち一人がそちらに対応する必要があり、今回の様に簡単にはいかなかっただろう。



「おいおい、儂はまだ六十五じゃぞ。爺さん呼ばわりは早すぎるわ」


「充分だろ?」


「ちげえねぇや」



 戦闘が終わって弛緩した空気が流れ、ネルソン達の雰囲気が酒場にいた時のそれと同じになっていた。


「ご苦労さん、これは約束した後金だ。受け取ってくれ」


 小さな革袋を五つ用意していた俺は全員に一つずつそれを手渡した。



「すみませんって……リューさん、これ……」


「受け取っておけ」



 皮袋の中には金貨がそれぞれ()()ずつ入れてある。


 正規の追加料金は四枚、多目に入れられている二枚が何の為か、説明しなきゃならない奴はここには居ない。


「セシリア、すまないがフェデーリを呼んで貰えるか?」


「は~い。リューさん」


 依頼料に満足したのか上機嫌なセシリアは文句も言わずに倉庫の外に逃がしたフェデーリを迎えに行った。


 とりあえずこれでネルソン達の役目は終わりだ、俺から言わせれば問題はこの後の処理の方だが……。





「おお、おわりましたか?!」


 セシリアが呼びに行ったフェデーリが戦闘が終わった倉庫に姿を現した、かなり鼻の下が伸びているように見えるのは、背中に押し付けられた柔らかく豊かな膨らみのせいだろう……。


「とりあえず鑑定とこいつらの処理も終わりです。この事で少し話がしたいのですが……」


 俺はバラバラになったガーゴイルの腕をフェデーリの目の前に投げ、ネルソン達に視線を流した。


「少し遅いですが昼食を用意しましょう。おい、誰かいないか?」


 事情を察したフェデーリがすこし階段を上がって使用人を呼びつけ、何やら説明をした後で再び戻ってきた。


「ネルソン、先に食べててくれるか? 俺は少し話がある……」



「了解ですリューさん、また仕事があればいつでも声を掛けてください」


「儂にもな、さて、どんな飯が出るか楽しみじゃわい」



 ネルソン達は階段を上がり、倉庫の中には俺と奴だけが残された。




「魔物でなかったこの二つの石像も手放した方が良いと思いますが、それより問題はあの二体のガー…石像の入手先です」


「あの石像もですか!! その石像は……ハンカにあるクレオ商会から買ったものです……」


 ハンカは城塞都市トリーニ周辺にあるロドウィック子爵家が治める所領の中でも比較的大きな街だ。


 しかし、あの街にクレオという商会があるなど聞いた事も無い。



 ビリー商会の様な新参者でも俺にはすぐに情報として伝わってくる、こいつが石像を買ったのが昨日今日でもない限りそんな事はあり得ない。


「ハンカというとトリーニから馬車を使って三日程の距離にある街でしたな。長年この商売を続けている私でも、クレオ商会など聞いた事もありませんが……」


「本当です、兄上の代わりにハンカ周辺の畑などの視察に赴いた時、偶然あの石像を見つけて購入しました」



 優先順位が高い仕事やどうしても変われない仕事にはロドウィック子爵家の当主であるモンフォールや長男のヨーゼフ、もしくは二男のウィンザーが直接出向く。



 しかし、それほど重要ではなく内容が簡単な視察程度の仕事であれば、三男坊であるこいつでも仕事が回ってくる。


 そのクレオ商会とやがその事を知ってこの石像を押し付けて来たのか、それとも偶然なのかは知らないが……。


「それで、あの石像はいったい幾らで購入されたのですか?」


「き……金貨、五枚です……」


「五枚? その値段で怪しいと思わなかったのですか?」


「先日の展示会に参加するまであんな値段で売っているとは知らなかったんです。石像ひとつに金貨百枚など出せる訳がありません」



 クレオ商会とやらが売った石像が金貨五枚で、ビリー商会が売りつけた石像が金貨五枚……。


 こいつは偶然か?



 そういえば、少女達を運んでいたビリー商会の馬車を襲ったという魔物が、退治されたという話も聞いていないな……。


「理由はどうあれ、城塞都市トリーニにガーゴイル(あんな物)を運び込むのがどれくらいの罪になるかご存知ですか?」


「いや…どれほどなのですか?」


 セシリアに呼びに行かせた時、鼻の下を伸ばしていたからまさかと思ったが、こいつはその事を知らんからいまだに平気でいられる訳か……。


「どんな形であれ、魔物を二体もこの城塞都市トリーニに運び込んだ場合、正式な裁判になれば確実に死刑です。もし貴族である事を理由に裁判を逃れても、御父上に知られれば確実に勘当でしょうな」


「死刑……勘当……」



 血の気が引いているのだろう、フェデーリの顔がどんどん青ざめていく。


 裁判になれば確実に死ぬが、勘当されてもこいつは碌な職にも着けず、遠くない将来にやはり死ぬだろうからな……。



「わ…私は知らなかったのです。()()があんな物とは……」


 領内の事なのでおそらく裁判にはならないだろうが、それでも今回の一件がアルバート子爵家やレナード子爵家に知られれば、城塞都市トリーニでのロドウィック子爵家の立場が一層悪くなる、勘当は確実だろう。



 まあこいつの状況が悪くなればなるほど、この先の交渉がやり易くなって結構な事だが……。



「確かに知らなかったのでしょうな。もう二体の石像の素性さえも……」


「あの二体も何か問題が?」


「失礼ですがあの二体の石像の出所は調べさせていただきました。アルバの街にあるビリー商会で入手したという事ですが、あの石像、誘拐した少女を石に変えた違法な品でしてな……」


「ゆ…誘拐?」



 借金の形として身柄を押さえられた場合や、専門の業者に身体を売った場合でなければ、誘拐や人身売買は死刑まで有り得る重犯罪だ。


「ええ、入手も販売も違法だらけの品で、所持している事が知られれば確実に衛兵に捕まります。先程の一件もありますし、そうなればもう言い逃れできない状況です」



 石像に変えられた人間に関してはグレーゾーンではあるが、俺がしているように冒険者ギルドや家族を訪ね、誰も身請けする人間がいない場合に限り罪に問われる事が無い。



 この一連の作業を処理と呼んでいるのだが、もぐりの商会には鑑定技能持ちに依頼して鑑定させれば問題無いと思っている奴も少なくは無い。 



 ビリー商会の連中はそれすらしていなかったが……。



「な…何とかなりませんか?」


「此処まで状況が揃えば……、と言いたい所ですが、ひとつだけ方法があります。纏まった金とちょっとした協力が必要ですが……」


「金……、幾らですか?」



 今まで調査に掛かった金やネルソン達を雇った依頼料、その他を含めれば経費は金貨百枚といった所なんだが……。



「金貨で二百枚、それとあそこにある石像二体です」


「き…金貨二百枚!!」



「先日の展示会に参加して頂いたから分かると思いますが、()()は本来であれば一体金貨百枚の代物です。あそこにあった二体の代金だと思えば安い物でしょう」



 その石像は粉々に砕いたし、手元に残る訳じゃないがな。



 本来であれば石像四体分で金貨四百枚ほど請求したい所を、こんな事を仕出かした上で命が助かるのに金貨二百枚程度で済ましているんだ。



 人払いをさせた上にネルソン達に金貨を二枚も多目に払った事を、無駄にさせないでほしいものだな。


「しかしですな……」


「このままであれば苦労して手に入れた石像と金貨を失っただけと思うかもしれませんが、この話には続きがあります」


「続き?」



「あの二体の石像、いえ、攫われた二人の少女と私がビリー商会の倉庫から回収した八人の少女の石像。この十人を教会に運び込んで元に戻し、家族の元に帰します」


 少女の姉の石像と、もう一人は誰だか知らないがそれを指し、「その上で、この石像を購入したのは少女達の保護、そして様々な犯罪に手を染めたビリー商会を摘発する為、そう証言していただきたいのです」と続けた。



「な…なるほど」


「領内の犯罪行為を秘密裏に捜査し、事件を解決したかった為にアーク商会に依頼し、事件の解決に金貨二百枚が必要だった……。この内容でしたら御父上から後で金貨を回収できるうえに、うまくいけば覚えも良くなりましょう」



 城塞都市トリーニにおいても、領内で違法行為を繰り返す商会や犯罪者の摘発等は領主の仕事だ。



 特に今回の様にビリー商会に誘拐され、石像に変えられるといった悲惨な事件に、貴族であるフェデーリが解決に尽力したとなれば、税を取り立てて民の生活を守っているという体面上、この上ない実績になる事だろう。



 死刑囚から英雄に早変わりという訳だ、こいつにしてみれば良い事ずくめだろう。



「ビリー商会には今から踏み込むのですか?」


「いえ、奴らは六日ほど前に捕まえて別の場所で監禁しています。野放しにするには危険すぎましたのでね」


 でなければ倉庫に監禁されていた石像に変えられている少女の数など知り得る訳も無いだろうに……。



「それと辻褄を合わせる為ですが、二体の少女像を馬車に積んであります。もっとも、それは普通の石像ですがね。代わりにその石像に布でも被せて置けば、使用人たちも石像が消えたとは思わないでしょう」



 足元に転がっているガーゴイルの手を足で軽く蹴り、「万が一の為に()()の残骸は樽にでも詰めて引き取りましょう。こんな物は最初から存在しなかった、いいですかな?」と持ちかけた。



「何から何まで……」



 証拠隠滅の為だけではなく、こいつは色々調べる必要がある。


 クレオ商会という奴の事もあるしな……。


「納得頂ければこの依頼書にサインしていただけますか? 依頼日は一か月前にしてあります」


 羊皮紙ではなく、レナード子爵家の特産品である和紙を使った契約書を差し出した。


 これはアーク商会の正式な依頼書で、今回の様に表だって動く時以外は使う事の無い代物だ。



 この和紙の生産や利権の売買に関しても昔ひと騒動あったのだが、今となっては良い思い出だ……。



「わ…わかった。金も直ぐに用意する」


 如何に貴族の三男坊とはいえ金貨二百枚位は手元に置いている。


 この後、その金を使って教会で少女達を元に戻し、親元に帰せばこの一件は良い形でモンフォールの耳に入るだろう。


 そうすればこいつにロドウィック子爵家内での発言権が増し、将来良い取引先になる可能性もある、今回の落とし所としては上々だろう。





 三日後、ようやく教会で石像に変えられた少女達を元に戻せるだけの奇跡の力が溜まったらしく、石化解除の儀式が行われる事となった。


 石像に変えられた少女達は全員裸で衣服を身に着けていなかった為、教会の中に彼女達のサイズに合わせた服一式を用意させた。


「これで依頼完了か。意外に時間が掛かったな……」


 純利益は依頼料で金貨百枚、それに今回の一件を解決した報奨金が金貨十枚。


 報奨金の方は他の市民や商会に向けた対外的な目的でロドウィック子爵家から出された物で、()()()()()()()()()()()()功績の報酬として、一般的にはこの程度だろう。


 石像に変えられている少女達は近くの街や村でビリー商会の連中に声を掛けられ、実入りいい仕事があると騙され連れ去られていたらしい。



 中には家族が病気で薬代を稼ぐ為、身体を売るつもりでビリー商会に接触した所、本当に身体が売られそうになる状況になった少女もいるが、代価が支払われて無かった為に全員誘拐されたという形で決着した。


 ビリー商会の連中には悪いが、今回の事件の罪の殆どを被せられ、商会に所属していた七人全員の死刑が確定している。


 これは誘拐という罪を犯した者を厳しく罰するという姿勢を知らしめる為のみせしめの処刑ではあるが、実際に誘拐に手を染めているのだから同情の余地は無かった。





 どうやら石化解除の儀式が終わったらしく、教会の中から十人の少女が次々と姿を現した。


 少女達を村や街に送り届ける為、ロドウィック子爵家がわざわざ馬車を手配したという話で、この際だから領民に散々宣伝しておこうという腹がみえみえだった。


「あの……ありがとう…ございました……」



 俺が助けた事を聞いたのか、少女達が俺に気付き、十人全員揃って頭を下げてきた。


 服も村で手に入る簡素な服に比べて見栄えの良い物を用意したしな……。


 助けたのは良いが、こいつらには言っておかなければならない事がある。



「ひとついいか? なかには騙された者もいるし、家族の薬を買う為に仕方なく奴らに声を掛けた者もいるだろう。しかしな、世の中はそんなにうまい話が転がっているほど甘くはない。安易に手を出せば家族を悲しませるだけだ」


 申し訳無さそうにしている少女がいるが、その中の一人があの妹から依頼があった少女だという事も知っている。


 妹の方は薬と銀貨二枚分相当の食糧を持たせ、既に村に送り届けてある。


「薬に関してはどうしても困っているなら教会を訪ねろ。毎週一日でいい、感謝の祈りを捧げに行っていれば教会も無下にはしない」



 教会の奇跡の力は信者や来訪者が感謝の祈りなどを捧げると少しずつ溜まっていくらしい。


 今回、少女達の石化を治す為、結構な数の人間が教会を訪れ、祈りを捧げていたって話だ。


「俺はとやかく言える程立派な人間でもないし、説教臭くて悪かったな。全員手を出せ、これは俺からの選別だ、いいか、今回の件を肝に銘じて二度と甘い話に乗るんじゃねえぞ」


「はい……」



 少女達の手に二十枚の硬貨が入った皮袋を乗せていく。


 そして皮袋の中身を確認し、殆どの少女が目を大きく見開いた。



「これ…全部銀貨……」


「銀貨が…こんなに……」


 皮袋の中身は銀貨二十枚、十人分で金貨二枚相当だ。



 街で暮らしている少女もいたが、銀貨が二十枚もあれば村で暮らしていた少女なら家族全員分の薬を買っても半年位は楽な生活が出来る筈だ。



「本当にありがとうございました……」


「あの……せめてお名前を……」


 まったく、裏事に手を染める悪党の名を聞くんじゃねえ。



「なに、名乗る程のもんじゃねえさ。じゃあな……」



 教会前の広場に馬車が到着したのを確認し、俺はその場を後にした。






 読んで頂きましてありがとうございます。

 ゼーマンが使っている魔法ですが、この世界ではその魔法を作り出した国での名前などがそのまま使われます。

 その為、日本語表記と様々な形の読みが混在したりしますが、そういった設定だと流していただければ幸いです。

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