禁忌の状況確認
少し投稿期間が開きましたが此処から新章突入になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
ボンゼから連絡が入ったその日、俺は馬車で冒険者ギルドを運営している酒場兼宿屋の【幻想の森】へと向かった。
アルバート子爵家の領内にある、ザカイ村、その村人二百人余りの大量石化事件。
依頼をする際、ボンゼにはロドウィック子爵領内の可能性が高いが、アルバート子爵家の領内の可能性もあると伝え、それだけの依頼料を渡してある。
にも拘らず、こんな事態に陥った現在の状況をボンゼに確認をする必要があった。
しかし、本来、こうして依頼の進捗状況を確認する事はタブーにあたる。
なぜならば、それは金を支払って冒険者ギルドに依頼し、全てを任せたにも拘らず、その冒険者ギルドを疑う行為に他ならないからだ。
幻想の森のドアを開け、受付に視線を向けると、いつもと変わらぬ顔でボンゼが立っていた。
「やあ、リューさん。新しい依頼かい? それとも……」
「悪いとは思ったが、例の依頼の確認だ。どうなってる?」
「ちょっと面倒な事になってる。奥で良いかな?」
受付の奥のドア、そのうちのひとつはこいつの執務室になっている。
「ああ、詳しい話をな」
ボンゼと共に執務室に進む。
当然、この規模の冒険ギルドにカーマインの様に氷入りのウイスキーなどを振る舞う余裕などなく、木のカップに注がれたワインが目の前におかれた。
「何を確認したいんだい?」
「とりあえずザカイ村の一件、後、現状の確認だ」
黒霊王が処理されていれば、その報告は来る。
つまり、まだ黒霊王を倒せていない事だけは間違いない。
「アルバート子爵家の領内にある、ザカイ村が例の黒霊王と思われる者に襲われ、村人二百五十八人全員が石に変えられるという事件が起きた。五日前の事だよ」
「全員? 例の爪タイプに殺された者や、黒霊王という奴に殺された者はいないのか?」
五日前といえば、俺が森で蜥蜴を退治した頃か……。
ブライの話では家屋や家畜にまで被害が出ていた筈だ、ザカイ村だけ無事というのはあり得ないだろう、それに全員石化というのは妙だな。
あの黒霊王という腐れ外道が、人を切り刻む事を止めたとでもいうのか?
「一人残らず全員だよ。もしかしたら旅人がいたかもしれないけど、流石にあの村はロドウィック子爵領に近すぎるから、可能性は低いね」
「死人が出て無けりゃマシな方か。元に戻すのにどれくらい奇跡の力が必要かは知らねえが」
「それは教会で聞いてみないと分からないね。ただ、膨大な量なのは間違いないと思うけど」
前回、十人の少女達を石化から元に戻す為に三日もかかったのは、直前に奇跡の力を使っていたという話だった。
それを考えても、ほぼゼロの状態からわずか三人の石化を解除するだけで三日。
二百五十八人の石化を解除するとなると、まともに貯めれば何年かかるか想像も出来んな。
「人死にが出なかったのは不幸中の幸いだが、村を一つ潰されりゃ、ゴールトンも黙っていないだろう?」
昔ならばともかく、今のゴールトンであればただでは済ますまい。
しかし、ゴールトンが抱えれている衛兵の中に、奴や石の魔物と戦って勝てる奴がいるのか?
「アルバート子爵家は事件の二日後に衛兵を向かわせたよ。それと今日、ザカイ村に衛兵の第二陣を向かわせてるね。秘蔵子のラベンダーっている女魔法使いまで出したって話だから、相当頭に来てるんだと思うよ」
「ラベンダーって、女だったのか?」
切った張ったするよりは魔法の方が向いているからだろうが、確かに女の魔法使いは多い。
しかし、レプリカを使える奴なんて聞いた事も無い。
「男の名前じゃないと思うよ、まあ、これでもし黒霊王が見つかれば、生きてないだろうね」
「確か、その女は神聖な光の剣が使えるそうだな。まあ、出会えば終わりか」
「あれを防ぐ手段なんて殆ど無いからね。ザカイ村の状況はもういいかな?」
レプリカとはいえ、神聖な光の剣は防御不能な上に追撃機能付きだ。
石の魔物を盾にすれば助かるかもしれんが、魔法を使う方もそれは十分に想定しているだろうから、外す事などあるまい。
「ああ、気になるんだが、何故奴は爪タイプを使わなかったんだ?」
「それなんだけど、奴が連れていた、爪タイプの石の魔物。全部失ったみたいだよ」
「全部失った?」
「何でも、偶然出会った冒険者に殆ど倒されて、更に、最後の一体は探索に出していたうちの冒険者が仕留めたって話だ」
あの勇者の一件か。
最後の一匹という情報の出所は気になるが……。
「あれと戦って、倒せたのか?」
「四人がかりで、重傷者二名、軽傷者一名、無傷だったのは、僅かにひとりだけだよ。善戦したとはいえるけど」
ネルソンクラスで事前に十分な準備ができれば楽勝だが、出会い頭に戦闘となれば、それは仕方が無いか。
「重傷、どの程度だ?」
「ひとりは右腕と背中、もうひとりは倒れた石の魔物に油断して爪を食らって左足を失った」
あれか……。
頭を失っても、最後の一撃が来る可能性がある。
あの情報はフェデーリの一件もある為、話す訳にはいかんからな。
しかし、その情報を同じ様に持っていなかったネルソン達は油断しなかったが、そいつらはそうではなかった。
熟練の冒険者であるかないかの差、そういう事だな。
「冒険者としては終わりだな、まだ若いのか?」
「まだ十五歳そこそこだけど。経験を積めばいい冒険者に育つと思ったんだけどね」
駆け出しの新人……。
十五といえば、俺が記憶を取り戻した頃と同じ歳か、まあ、無茶をしやすい年頃ではあるな。
「そいつらは今、どこにいる?」
「サンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会の治癒堂にいるよ。でも、流石に失った手足はそう簡単には元に戻らないから」
駆け出しの新人には、教会への寄付金も払えないだろう。
教会に失われた四肢の再生魔法を使える者が居たとしてもだが。
「再生魔法を使えるシスターの数が少ないのか?」
「元々そんなにいないよ。丁度運悪く再生魔法が使えるシスターたちが王都に出向いてるから、戻って来るのは早くてもひと月後だね」
そういえばシンシアもそんな事を以前から言っていたな。
完全治癒を使う者があまりいないとしても、再生の奇跡の魔法位であれば、サンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会クラスなら何人もいそうな気はするが、実際には再生の奇跡も習得が難しいらしく、サンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会クラスの治癒院ですら四~五人しかいないそうだ。
「怪我をした冒険者の名前は?」
「腕を失ったのがルル、足を失ったのがネリ―。女性だけの四人組さ」
「女冒険者? 此処に登録するなんて珍しいな」
最近は女性の冒険者は男の冒険者以上に減っている。
生活が安定してきた昨今では、親族から結婚しろと言われて早めに家庭に入る事が多いという事もあるが、普通に暮らしていてもそこそこ豊かな暮らしが出来るのに、好き好んで命懸けの職業に就く必要が無いからだ。
「まったくだよ。見どころはありそうだったから、僕も情報収集と連絡役位なら任せられると思って、四人ワンセットで動かしてたんだけど」
「情報収集と連絡任務中に敵と遭遇して交戦したのか?」
状況が分からないから断言はできないが、極力戦闘は避け、必要な情報を集めるのが普通の冒険者だ。
「ロドウィック子爵領からザカイ村に続く街道で、偶然黒霊王らしき男を見つけたそうでね。四人がかりで倒そうとしたら、『最後の一体だが仕方が無いな』と言って爪タイプを残して黒霊王には逃げられ、本人たちは大怪我ってていたらくさ」
「それで最後の一体だと分かったのか。しかし、そこで襲わず、後を追っていればザカイ村は襲われずに済んだかもしれんな」
ひとりを連絡係として走らせ、情報を伝えていれば、十分な対策が出来たかもしれない。
しかし、四人の冒険者に囲まれて即座に逃げ出すとは、黒霊王とやらも例の勇者の一件で、この辺りの冒険者をかなり警戒しているようだな。
「普通は情報を集めて報告すればいいのに、戦って余計な怪我を負ったのさ」
「高い授業料だが、冒険者を続けるにせよ、辞めるにせよ、可哀想ではあるな」
結果として黒霊王を逃がしはしたが、爪タイプの殲滅には貢献したんだ。
もし一体でも爪タイプが残っていれば、ザカイ村で死人が出ていた可能性もある。
「自業自得さ。依頼された事以外の行動をとる冒険者は信頼されないし、長続きしない」
ヒューイの様に、依頼主の目の前でも、それは依頼外の仕事だと断るのが正しい冒険者だ。
蜥蜴退治の場合、俺が先にエルフ達の手助けをした為、ヒューイ達が協力という形で申し出た形になる。
そうでなければ幾らヒューイでも、自分から「此処に冒険者がいますよ」などとは言い出せないからな。
「その為の依頼だしな。依頼主が俺で無けりゃ違約金が発生する所だ」
「違約金を請求しないのかい? 新しい連絡係を雇わないといけないのに?」
通常、今回の様に明らかに依頼内容に逸脱した行動をとれば違約金が発生する。
無事に黒霊王を倒していれば、不文律として追及される事は無いが、今回のケースであれば間違い無く違約金を請求される。
大体依頼料の倍が違約金として発生し、受け取っていた依頼料も含めて三倍返しが相場になる。
駆け出しの冒険者には今回の依頼料の三倍も払えまい。
しかも、そいつらは腕や足を失っている。
これから稼ぐことも、このままでは難しいしな。
「そこまで鬼じゃねえよ。追加で金が要るなら言ってくれ」
「まだ大丈夫だね。あと、衛兵が動き出したから、討伐の約束が果たせないかもしれないけど」
「それは結果次第だ。俺に言わせりゃブライには悪いが、一刻も早く黒霊王とやらが消えて欲しいんでな」
「同感だね」
このトリーニ周辺で此処までされりゃ、もうブライがどうだろうが関係は無い。
ゴールトンが動いた以上、もう時間の問題だろう。
「ゴールトンに黒霊王の情報は伝えたのか?」
「一応求められるだけ。多分全ての冒険者ギルドと盗賊ギルドも同じだと思うよ」
こういった時には各ギルドに情報の開示が求められる。
此処まで犠牲者がでれば、情報を渡さなかった場合、共犯とみなされる危険性すらあるからな。
「とりあえず状況は分かった。すまなかったな」
「良いよ。僕の方から連絡を入れた事だしね」
今回の様に依頼の状況確認など、本来であれば相互の信用問題になりかねない。
ボンゼはいつもと変わらぬ顔をしていたが、相手が俺でなければ依頼を破棄しているだろう。
冒険者ギルドが依頼者に連絡を入れる時は、依頼の失敗か成功の報告だけ。
それ以外は依頼者も冒険者ギルドも相互に連絡をしないきまりだ。
とりあえず怪我をした冒険者の見舞いでもしてやるか。
試したい事もあるしな……。
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