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何処にあろうと俺は俺 ~異世界転生者リュークの流儀~  作者: 朝倉牧師
思い出せばそれさえも平穏な日々
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夢の中の警告

 この話で閑話は終わり、次からは本編に戻ります。

 楽しんで頂ければ幸いです。

 初めて完全治癒(フォルコメン・クーア)を使ったその日、俺は奇妙な夢の中で得体のしれない何かと対面していた。


 全身が光に包まれていた為に、真っ白でわからなかったが、おそらく男だ。


 身長は俺と同じ位、つまり百八十センチ程だろう。


 大きなマントを羽織っているあたり、俺にセンスが似ているのかもしれんな。


 男はその手には大きな鎌を持っていた。


 死神、という表現が正しいのか、夢の中であっても目の前のこいつが只者では無い位、理解する事は出来た。



「お前は何者で、俺に何の用だ?」


 白い影の表情は分からない。



「俺が誰なのかは教えられない。今日こうして現れたのは、忠告する為だ」


「忠告?」


 若い男の声だ。


 まあ、あの姿から女だとは思わなかったが、これで確信できた。




「そう、忠告だ。いつかは失われた魔法(ロスト・マジック)に興味を持つかもしれないとは思っていたが、今の状態で完全治癒(フォルコメン・クーア)を使って見せるとはな。それは危険だ、もう二度と使うな」


「危険? 俺が死ぬとでもいうのか?」


 今の状態というフレーズが引っ掛かるが、状態が整えばもっと楽に完全治癒(フォルコメン・クーア)を使う事が出来るのか?




「広義ではな。お前が望まなかった未来へ向かう事だけは間違いない」


「未来か……。何故お前にそんな事が分かる? お前は未来から来たのか?」




「違う、今の俺には、こうして夢の中でお前に会うのが精いっぱいだ。それに、こうして会うのも避けたかった」


「そこまでして俺に完全治癒(フォルコメン・クーア)を使わせたくなかったのか?」


 アレは便利な魔法だ。


 失われた魔法(ロスト・マジック)のレプリカとはいえ、失われた四肢の再生まで可能な治癒魔法など、他ではヴィオーラ教の本拠地か、トリーニにある二つの大教会の大聖堂でもない限り無理だ。



失われた魔法(ロスト・マジック)に関わる事の全て…、当然、使う事は論外だ」


失われた魔法(ロスト・マジック)に何か秘密があるのか?」


 アルバート子爵家の管理地区にある魔法アカデミーの、ブルームという奴が、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトという、失われた魔法(ロスト・マジック)の解析に成功している。


 トリーニに戻ったら、一度話を聞いてみるか。



「お前が知りたくなかった秘密がある。知れば確実に後悔するぞ」


「面白い忠告の仕方だな。だが、後悔するかどうかは俺が決める」



「お前らしいな。一応、忠告はした。もう会う事も無いだろう」


 呆れたような声を出しやがった。


 こうなるのが分かっていたかのようだ。



「ご苦労だったな。碌なもてなしも出来なかったが、中々面白い話だったぜ」



「じゃあな」




 夢は其処で途切れ、目を覚ますと別にいつもと何ひとつ変わる事の無い朝だった。


 俺はいつもと違う環境で寝ただけで、()()()()を見るほど繊細な人間じゃねえからな。


 完全治癒(フォルコメン・クーア)、いや、失われた魔法(ロスト・マジック)に何か秘密がある事は間違いない。


 ゼーマンには素人でも詠唱と展開用魔法陣の脳内描写が可能と言われていた、完全治癒(フォルコメン・クーア)が使えただけとは考えにくい。


 何かを恐れている?


 俺が失われた魔法(ロスト・マジック)に関わる事で、何かが起こる事は間違いないのだろう。


 まあ、なんにせよ完全治癒(フォルコメン・クーア)は俺が手にした便利な魔法だ。


 毎回金貨三百枚は厳しいが、状況次第では使わせて貰うさ……。





 三日後の夜、二度目の完全治癒(フォルコメン・クーア)、それも()()()()()を使った夜。


 そいつは再び、俺の夢の前に現れた。



 前回よりも、姿がはっきりしてきた。


 まだ若いな、二十前後位の年齢に見える。


 しかし、こいつが纏う雰囲気というか、ひと目でわかる程の氣の力は、到底そんな歳だとは思えない。 


 一体こいつは何者なんだ?




「あれだけ忠告したにもかかわらず、一週間も経たない内に完全治癒(フォルコメン・クーア)、それも()()()()()を使うとはな」


 呆れたというよりは、驚いているという感じだな。


 まあ俺も()()()()()を使えるとは思っていなかった。



「仕方がないだろう。あのままヒューイを見殺しにしたら、俺は俺じゃない。命の恩人を見殺しになんてできるか」


「ヒューイが庇わなくても、死にはしなかった。それどころか、そのマントのおかげで軽傷で済んでいた筈だ」



「解した鋼蔓(はがねつる)と、岩獄蜘蛛(カルケル・アラーネア)の糸、それに竜の血を吸わせて作り出した魔法蔦を加工して織られた布で作ったこのマント、そう簡単には破れはしないからな」


 特注で拵えたこいつの存在を知っているとはな。


 着ている服も、同じ様な材質で作られている。


 まああの爪でもダメージは殆ど無かっただろう、身体に当たってりゃな。



「多少は痛かっただろうけど、その程度だ。それなのに彼を助けたのか?」


「そんな物は結果論だ。頭にあの爪が当たれば、俺は死んでいた。それに、ヒューイは命懸けで俺を助けようとした。その思いだけでも十分だ」


 護衛の任務であったとはいえ、ヒューイは自分を犠牲にして俺を救おうとしたんだ、助けるのが筋ってもんだろう。




「義理堅いな。まあ、らしいといえばらしいんだが」


「俺の身に付けているマントの事まで知っている、お前は一体誰だ? 話せない理由があるのか?」


 このマントの事を知っている奴は殆どいない。


 何せこのマント、アルバート子爵家の領内にある、小さな村でしか作られていないのだから。


 加工し辛い素材を一年かけて加工し、織り、裁断して仕立てる完全オーダーメイドで、一着金貨五十枚。


 俺以外に客がいるとは聞いていない。



「知らない方がいい事も多い。特に俺の事はな」


「またそれか……。しかしお前、歳の割には落ち着いた話し方をするんだな」



「話し方なんて、人それぞれ。カマをかけても無駄だ」



「そうだろうな。引っかかるとは思って無かったが、大した奴だ」



「お前が何と言おうと、俺は使うべき時には完全治癒(フォルコメン・クーア)を使う。お前に忠告されたのが気にくわない訳でも、銭金の問題でもない。俺がそう判断したからだ」


 使う時と場は俺が選ぶが、使える物を使わないのはただの馬鹿だ。




「だろうな。だから忠告しかしていないだろう」


「お前の忠告の先にある物。それは何だ?」



「望まぬ未来、それだけだ」



「今の俺の状態が望んでいた世界みたいな言い草だな」


「どう考えるのも自由。望んでいたのは間違いないが」


 望んでいた?


 俺が?



「数十年前まで、魔物やならず者が蔓延っていたこんな世界が、俺の望んだ世界だっていうのか?」


「平和で良い世界だろ?」



「今はな。昔は酷かった、生き地獄とまでは言わんが」


 ならず者の巣窟、掃き溜めの様な街だったトリーニが、俺の理想だったとでもいうのか?



「あの時でも平和だ。此処には奴らも居ないしな」


「奴ら?」



「敵さ。面倒で厄介な……」


「世界レベルで考えれば、そういった奴も居たのかもしれんな」


 魔王がいるなら、それに近い奴らもいるだろう。


 誰も知らない内に、誰かに倒されているのかもしれんしな。



「このまま平和に、この世界で生きていたかったら、失われた魔法(ロスト・マジック)に関わるな」


「またそれか。俺は俺の流儀で生きる、誰の指図も受けねえ」


 完全治癒(フォルコメン・クーア)は俺の力だ。


 使いたい時に、使わせて貰う。



「好きにしろ。忠告はした」



 そう言い残し、男は姿を消した。


 奴が何者なのかは分からない。


 あれだけ詳しいんだ、俺と無関係という事は無いだろう。


 しかし、今まで出会った冒険者にあんな姿の奴はいない。


 例の勇者(本物)か?


 まあ、完全治癒(フォルコメン・クーア)を使った時に、夢に現れるだろう。  





 意外な事に、次に男が現れたのは、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトを詠唱した日の夜だった。


 発動までには至っていない。


 にもかからず、こいつは三度(みたび)、姿を現した。


輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトとはな、使えなかっただろ? あんな形じゃ」


「あの魔法も知っているのか?」



「ああ、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライト()()()()()は妖精界の女王が使ってたって話で、妖精力(フェアリカル)も身に付けていない人間には使えない代物だ」


 妖精力(フェアリカル)という言葉は初めて聞いたな。


 魔力と、奇跡の力、それに妖精力(フェアリカル)か……、それ以外にも何かあるのか?



「詳しいな、でも、三千年前の勇者は使ってたらしいぞ」


「あの人……、人って言えるかどうかは微妙だけど、あの人に使えない魔法なんて無い。それにあの人が使えば威力も桁外れだ」



「そんなにすごいのか?」


「ちょっと力加減を間違えただけで、大惨事になる位はね。ドラゴンネイル王国の北側にある山脈。そこに残されている、王国の名のもとになった三本の大渓谷、アレはあの人が使った魔法の傷痕だ」



「……一本一本の長さが数キロ、深さは計り知れないと言われる()()か?」


 アレは人力で作り出せる代物じゃない。


 何せ、王都オネストからでもその姿が確認できるんだ。



「そう。あの人の事だから犠牲者は出してない思うけど」

 

 そいつは良い性格をしてる。


 だが、あの傷痕のせいで気候は随分と変わったろうよ。


 まあいい、三千年前の奴の話だ。



「会えない奴の事はどうでもいい。俺には輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトは使えないのか?」


失われた魔法(ロスト・マジック)に関わるなと警告している者に、それを訪ねるのか?」


 この流れなら教えて貰えると思ったんだが。



「詳しそうだからな」


 もう一押ししておくか。



「条件次第だ。お前が望まぬ未来が確定した時、使える様になるだろうよ」



「使えるのか、あれを……」


 信じられないな。


 あんな複雑な起動用魔法陣など、何をどうすればいいのかさえさっぱりだ。



「ここまで来たらもはや忠告など無意味だろう。好きにすればいい」


「ああ、元から俺はそのつもりだ」



「後悔だけはするなよ」


「その時は、その時だ」



 男は何も言わずに姿を消した。


 今は奴が何者かは分からない。


 おそらく奴が言っていた、俺が望まぬ未来が確定した時、全てが分かるのだろう。






 この日の僅か二日後、ボンゼから黒霊王(こくれいおう)の件で情報が届いた。



 しかも、良くない内容だ。



「まさか、こんな事になるとはな……」


 どうやら、黒霊王(こくれいおう)は、俺が思っていた以上に厄介な相手だった。


 ボンゼに詳しい話を聞き、今後の対策を練り直さなけりゃいけないな……。



 アルバート子爵家の領内にある、ザカイ村、その村人二百人余りの大量石化事件。


 それが新しい事件の幕開けでもあった。






 読んで頂きましてありがとうございます。

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