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二つの依頼

 いつも読んで頂きありがとうございます。

 ブックマークも大変励みになります。

 読みにくいという意見がありましたので、過去の話も若干手なおしています。


 ブライと共に馬車に乗り、再び冒険者ギルドを運営している酒場兼宿屋の幻想の森へと向かった。


 目的は黒霊王(こくれいおう)を処理する依頼の為だが……。



「とりあえず奴がこの街で、()()やろうとしていたかは分かった」


「これだけ衛兵がいる街には、手を出さないかもしれんぞ」


 ブライは馬車の窓から街の様子を伺い、そんな事を口にしていた。


 確かに、此処まで衛兵が多い街も珍しいだろう。





 トリーニでは街のあちこちに、少人数の衛兵の詰め所があり、近くで問題を起こせばすぐに駆けつけてくる。


 金を握らせて手なずける方法は、今も昔も同じだし、貴族の知り合いがいれば多少の事は目を瞑ってくれる。



 各家の当主に顔が利く俺などを、新人の衛兵あたりが不審人物として詰め所に連れ帰れば、衛兵の隊長クラスが顔を真っ青にして平謝りし、場合によっては目的地まで護衛してくれる。



 俺を連行した衛兵は、運が良ければ隊長辺りにこってり絞られるだけで済むが、ゴールトンやリチャーズ辺りに知られれば、可哀想だが無事では済まないだろう。





「全部此処と同じ水準ならばな……」


「それ程差があるのか?」


「残念ながら」


 ロドウィック子爵家が手にしている税金などでは城壁の修復と街道の整備でほぼ無くなり、俺が買い取っている米の収入を入れてもそこまで余裕が無い。



 仮に俺が金を稼げる利権をフェデーリ辺りに売り渡したとしても、ロドウィック子爵家の管理区域が、他の二家の管理区域の状態まで良くなるには、最低でも十年はかかる。





 幻想の森に着いた時、昼を少し回っていた。


 遅い朝食をとった為、俺達は平気だったが腹を空かせた何人かの冒険者と入り口周辺ですれ違った。


 俺の顔を知っていた新入りの冒険者は挨拶をしてきたが、()()ではギルド内の酒場ででもない限り、()()をしないのが暗黙の了解なんだが……。







「お帰り、リューさん、何人か戻ってきてるよ」


「その事だが、依頼内容が変わるぞ」


「珍しいね……」



 俺は滅多に依頼内容を変えない。


 変える時は余程に手に負えぬ状況になったか、雇っていた冒険者を失った時だけだ。



「ブライ、嫌な事を思い出させて悪いが、黒霊王(こくれいおう)の話、ボンゼに聞かせてくれないか」


「……わかった」



 ブライは再び、魔法アカデミーで話した内容を口にした。


 殆ど笑顔を崩した事の無いボンゼが、珍しく顔を歪めていた。





「正に外道だね」


「同感だ、おそらく黒霊王(こくれいおう)はロドウィック子爵家の領内で騒ぎを起こすだろう。ハンカかその周辺の町や村が一番疑わしいが、トリーニである可能性も捨てがたい」



 貴族に事の詳細を話して介入させる手もあるが、今回は相手がロドウィック子爵家であるが為、俺もボンゼもその事を口に出そうとはしなかった。


 ハッキリ言えば足手纏いで、質の悪い衛兵や冒険者を出動させて、最悪、被害を拡大させかねない。



「依頼内容だが、ブライをリーダーとして、黒霊王(こくれいおう)を討伐して欲しい。所在を特定する為、奴の探索も含めてな」



 最低でもこの街の護衛、ハンカの街周辺の探索、連絡係と三組の冒険者が必要だ。


 しかも全員信頼できる冒険者で揃えると、森で起こっている事件に依頼する冒険者は此処では雇えないだろう。



「いや、俺は一人でも……」


 確かにこいつひとりでも、そこらにいる冒険者数人分の戦力にはなる。


 しかし此奴の身体が三つに増える訳じゃないんだ、組織力と個人の武勇はまた別問題だ。



「この街で好き勝手されて見逃せるほど、俺は人格者じゃなくてな。奴が何処にいるか分からない以上、人手は必要だ」


「そうだね、どの位冒険者が必要だい?」



 俺は懐の特殊な皮袋から、和紙に包まれた金貨の束を四つ取り出した。


 紙に包まれた金貨の束は俗に切り飴と呼ばれ、金貨二十五枚をセットにして、和紙で包んだ物だ。

 これは各家直属の両替商で発行しており、証明として上と下に各家の家紋を象った朱印が施されている。


 悪意の有る無しに関わらず、これを偽造した場合は、確実に死刑になる。



「トリーニの護衛に二組、ハンカ周辺の探索に二組、連絡係をそちらが必要な数で。依頼料は前金でこれだけ出す」


 カウンターの上に並べられた切り飴の数を目にしたボンゼが驚いていた。


 一日に二度もこいつの笑顔を崩せる日が来るとはな……。



「前金で金貨百枚って、いいのかい?」


「ああ、必要ならこの五倍まで支払ってもいい」


 黒霊王(こくれいおう)には金貨五百枚もの懸賞金が懸けられているが、それは国元に帰ったブライが受け取ればいい。


 俺も奴の国と同じ位には、腹に据えかねているって事だ。


「分かったよ、僕もそいつを野放しにはできないからね」



「ブライ、これは依頼料とは別に俺からの駄賃だ」


 もう一本切り飴を取り出し、それをブライに握らせた。


「これ…こんな金は……」


 切り飴を乗せた手が震えていた、流石にこれだけの金貨を一度に手にした事は無いのだろう。



「奴の首を取るまでお前に死なれちゃ困るんだ。それで必要な物を揃えてくれ」


「すまない、恩に着る」


 ブライは切り飴を懐に仕舞い、ボンゼと依頼の事で話し始めた。



 これでとりあえず黒霊王(こくれいおう)の事は任せておけばいい。


 問題は、ハンカの先にある国境近くの森の方だが、秘宝の夢へ行くしかないだろう。


 あそこは大手だからあまり好きではないんだが、同じ大手でも、管理地区にある冒険者ギルドに頼むよりはマシだからな……。





 流石に此処でこれ以上冒険者を雇うのは無理な為、馬車に乗り込んでアルバート子爵家の管理区域にある冒険者ギルド【秘宝の夢】へと向かった。


 面倒な関門もレナード子爵家の管理区域から、アルバート子爵家の管理区域へ向かう場合はそこまで時間はかからない。


 これがロドウィック子爵家の領内からの移動の場合、担当している衛兵によっては、要らぬ手間をかけさせられる事もある。



 アルバート子爵家の管理区域の目抜き通りに面した一等地、其処に幻想の森など比べものにならない、大きな建物が聳えている。


 酒場と宿屋が別棟にも存在し、登録している冒険者の数は、幻想の森の十倍を軽く超える。


 それだけ冒険者がいるにも拘らず、ブライと同レベルの冒険者はひとりもいない。





 入り口のドアを開けると、十人ほど受付担当がカウンターに横一列に並んで待ち構えている。


 薄暗い幻想の森とは違い、明かりの魔法を使った照明が常に室内を照らし、いつ訪れても昼間の様な明るさになっていた。



「いらっしゃいませ、依頼ですか? 登録ですか?」


 立ち止まっていると案内担当の女性が声を掛けてきた。


 俺は素人目にも冒険者には見えないだろうが、一応決まりであるらしく、訪れた者には必ず同じ質問をするようだ。



「カーマインに用があるんだが、取り次いでもらえるか?」


 いきなり責任者の名前を出され、案内担当の女性は動揺していた。



「失礼ですが、お名前は?」


「アーク商会のリュークだ」


 此処では俺の顔を知っている者も、ごく一部だけだし仕方は無いだろう。


「アーク商会……、何処かで………、あっ!!」



 流石に冒険者ギルドの職員であれば、アーク商会の名前位は知っていたようで、彼女はその名を思い出して、ようやく自分の失態に気が付いた。


「失礼しました。直ぐに取り次ぎます」


 深々と頭を下げ、急いで責任者が控える執務室へ、足早に向かっていた。





「リューさん、久しぶりだな」


 全身筋肉質でガタイの良い男が俺を出迎えてくれた。


 こいつがカーマイン、元腕利きの冒険者で、今はこの秘宝の夢の責任者をしている。


「此処は遠いからな、俺も歳だし、億劫になって、つい近場で済ます事が多いのさ」



「まだあっちの方も現役だろうに」


 カーマインは棚から取り出したグラスに、小型冷蔵箱を開けて氷を入れ、横に置いている樽からウイスキーを注ぎ始めた。


 流石は大手の冒険者ギルド、あんな贅沢な飲み方を日常的にする程、金回りが良いという事か。



「で、依頼は何だ?」


 テーブルの上に二つのグラスを置き、立派な椅子の上に腰を下ろした。


 ()()を来客に簡単に振る舞えるギルドは、レナード子爵家の管理区域にある大手の冒険者ギルド【深海の館】位だろう。


 あそこも腕利きの冒険者はいるが、ちょっと融通が利かないお堅い面が強く、俺が懇意にしている幻想の森との兼ね合いもあって、敬遠させて貰う事が多い。



「遠征に必要な腕利きを貸してほしい」


「遠征って事は、ロドウィック子爵領か……、最近、 ()()()()噂が多いからな」


 遠征と聞いて、ロドウィック子爵領と考えるのは誰も同じだな。


 しかし、きな臭い噂か…。



「何か情報(じけん)が?」


「人攫いや、行商人が襲撃された話、あちこちで噂が色々とな」


 人攫いはおそらくビリー商会の一件だろう。


 行商人の件も、もしかしたらあの馬車が襲われた件が、間違った形で伝わったのかもしれない。



「二月ほど前からか?」


「知っていたのか? まあ、あそこは元から治安が悪い。あの領主や分家どもが大切にしているのは、財を生み出す麦畑だけだ」


 麦畑はロドウィック子爵家を支える命綱だからな。


 あの広大な麦畑を失えば、ロドウィック子爵家にはもう、他にまともな財源は無い。



「あの麦畑を支えているのは村人達なんだが、任されてる分家どもは、麦が勝手に育つとでも思っているのか」


 それだけ重要な産業でありながら、堆肥ひとつ改良しようとはしない。


 アルバート子爵家の領内では大量の家畜を飼育し、毎日大量に発生する家畜の糞の処理に苦労している。


 その有り余る糞に手を加え、堆肥にすれば両家がお互いに助かるのだが、貴族の領主って人種は、相手に頭を下げるのが嫌いらしい。

 


「まったくだ、村人に優しいのは、連中の中だとハンカの街を治めるルフ家位だ」


「ルフ家は国境に近いからマシなんだろう。俺の依頼もルフ家がらみなんだが、噂ってのはそれ位か?」


 依頼の話に移りたかったが、奴の顔を見るに、まだとっておきのネタがあるんだろう。



「いや、まだある。物好きな冒険者が、新種の魔物を見かけたそうだ」


 実入りが少なく、魔物も強いロドウィック子爵領内には殆ど冒険者がいない。


 冒険者達にも生活がある、腕試しで魔物に挑む酔狂な奴は、ここ最近見かける事は無かったが。



「あそこで活動する冒険者か、確かに物好きだな。で、その新種の魔物ってやつは?」



「新種のガーゴイルらしい」


「新種のガーゴイルか……」


 嫌な予感しかしないが、あの石の魔物の事だろうな。



「ダンジョン以外の場所でガーゴイルを見かける事も珍しいんだが、真昼間でも活動してたってのが驚きだった」


 ガーゴイル…、石の魔物の腕をゼロスに渡した時、奴も同じことを言っていたな。


 何でも普通のガーゴイルは夜間しか活動せず、太陽の光を浴びると反射的に石像に擬態するそうだ。



「その話、詳しく聞けるか?」



「何でもその物好きが、十匹の群れを成してバナバ村を襲おうとしていた新種のガーゴイルに、バナバ村の近くでいきなり取り囲まれたそうだ」


 もしかしたら近くに、黒霊王(こくれいおう)と名乗る奴も、居たのかもしれないな。


「いたのはガーゴイルだけだったのか?」


「他の魔物はいなかったみたいだな」



 奴の場合、魔物ではなく、冒険者に間違えられる可能性の方が高いか。


 しかし、バナバ村といえばビリー商会が縄張りにしていた、ボンゾの街のすぐ隣だ。


 奴は最初にそこを殺戮劇の舞台に選んでいたのか…。



「で、その物好きは? その情報があるって事は、生きてたんだろう?」


 その殆どが爪タイプだとしても、並みの冒険者なら膾切(なますぎ)りにされ、生きているとは思えないが……。


 あのブライでさえ、十体が限界と言っていたしな。



「聞いて驚くなよ、その物好きは、()()、神聖な十の剣ハイリヒ・ツェーン・シュヴェーアトを使ったそうだ」


()()()()()の方か?! あのゼーマンでさえ神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアト()()()って話だが」



「間違いない、光の剣に貫かれたガーゴイルの群れが、一瞬で爆散したそうだ」





 あのガーゴイル事件の後、俺も少しは魔法の知識を勉強する事にした。


 ゼーマンや魔法アカデミーの連中に話を聞いたが、三千年前に世界を救ったとか言われている勇者が使っていた魔法がある。


 失われた魔法(ロスト・マジック)や、()()()()()と呼ばれ、トリーニの魔法アカデミーだけではなく、世界中で研究が続けられているという事だ。


 断片的に解析し、使用魔力や術式の展開をなんとか使える形にした、()()()()と呼ばれる魔法が幾つか存在する。


 ゼーマンが使っていた、神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアト()()()()の一つで、ゼーマンが全盛期であれば、あの魔法で竜種すら一撃だったと聞いている。





「他にも幾つかオリジナルを使えるらしい。中にはその物好きが、()()なんじゃないか、って奴も居る」


「魔法剣士とか言う、()()か? 馬鹿馬鹿しい」


 三千年前、世界を救ったという勇者は、魔法剣士と名乗ったらしい。


 魔法剣士は今でも多くの伝承に残され、吟遊詩人の歌う英雄譚の主人公とされ、度々それらしい人間が見かけられては、()()などという噂が広がる。



「まあ、噂に尾ひれが付く事は珍しくない。助けられた村人も話を盛るだろうしな」


「どうあれ、バナバ村が無事であったのは何よりだ」



 取り合えず、行動を起こそうとした黒霊王(こくれいおう)の手駒は、あっさり壊滅された訳か。


 その物好きな冒険者、出来れば伝手(つて)が欲しい所だ。



「その物好きとは話が出来ないか? 依頼の場所が同じ方角だ、できれば力を貸してほしいんだが」


「うちの冒険者ギルドに登録されてはいない。調べさせてもいいが」


「今回の依頼とは別件で頼む」



「依頼の話なんだが、ルフ家が管理する、国境を跨いだ森があるだろう、其処に出没するエルフとの交渉、もしくは排除なんだが」


「排除の方向でやると、最悪、エルフとの全面戦争になる。交渉が妥当だろうな」


 一度や二度は小競り合いになるかもしれないが、やり過ぎなければ問題無いだろう。



「交渉には俺が直接出向く、道中、それと現地での護衛として、腕利きの冒険者を貸して欲しい。ハロルドはいないのか?」


「残念ながら一週間前から氷晶の魔窟を探索中。バナージやリック達も一緒だ」


 ハロルドはバナージやリック達と組んで、度々氷晶の魔窟を探索している。


 腕はいいし、冷静な判断が出来るので、いれば有り難かったんだが。



「当てが外れたが、他にいい奴はいるか?」


「問題を起こさない様に、血の気が少ない奴が良いか」


「ああ、エルフに喧嘩を売られても困る」



 全面戦争といかなくても、今以上にエルフとの仲が拗れれば、フェデーリからの依頼を失敗した事になる。


 出来るだけ穏便に済ませ、こちらが求める物を手に入れなければ意味が無い。



「腕利きとまではいかないが、ヒューイという信頼できる冒険者がいる」


 今回は荒事にはなりそうもないが、だからといって戦力を少なくする必要も無い。



「魔法が使える奴と、治癒の術が使える冒険者は居ないか?」


「ヒューイの仲間にハインドという魔法使いと、スリックって僧侶がいる」



 とりあえず魔法使いと僧侶がいれば保険にはなる。


 道中の事もあるしな。



「依頼料は全部で金貨十枚、道中の移動手段は馬車を手配済みで、手形も頼んである」


「用意が良いな。奴らの取り分は前金で金貨一枚、後金でもう一枚になるぞ」


 此処の取り分は四割か。


 昔は七割ピンハネした冒険ギルドも存在したし、規模から考えれば良心的と言えなくもない。



「それでいい、早ければ出発は明日の予定だ」


「急だな、分かった、奴らに準備させておく」



 グラスに残ったウイスキーを飲み干し、テーブルに十二枚の金貨を並べた。


「この二枚は例の冒険者の探索依頼料だ」


「任せておけ」



 これで後はカーマインに任せておけば間違いないだろう。



 さて、あの森で一体何が起きている?


 今までも何度かあったとはいえ、この所、急に慌ただしくなってきたな……。


 厄介事が増えなければいいが……。






 読んで頂きましてありがとうございます。

 三千年前の勇者や魔法剣士については、他の作品に出て来ていた彼らです。

 感想等もいただけるとうれしいです、

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