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4 女神の塔へ

 というわけで、私は女神?として旅に出ることになった。


 …いや、端折りすぎ。


 翌朝、色々と話したが、結局村長の親父さんは私が女神だと信じ切っているようだった。話によると、過去の「女神」も落ちてきた、もとい降臨したショックで女神としての記憶をなくしたことがあったとのこと。

 しかし、私は過去の記憶がないわけではなく、ちゃんと記憶がある。私が本当に女神で、過去の地球での記憶が全て頭を打ったことによる妄想、というのはちょっとありえない。


 「まて親父、それだけで女神と決めつけるのは…」

 「普通の女の子が空から落ちてくるとお前は言うのか?」


 「…」

 「言い伝えにもある。『魔王が現れ人の世に仇なすとき、女神降臨しこれを退ける』とな」


 「魔王が復活したと…?」

 「最近、魔物の様子がおかしいじゃろう?ここいらだけではない。大陸全体で魔物が活性化しているらしいのじゃ」


 「…」

 「それにじゃ。女神の塔を覆っていた霧が晴れたらしいぞ?」


 「こいつが女神であるか否かはともかく、女神の降臨自体は間違いないと…」

 「そういうことじゃ」


 そこで、親父さんは私のほうを向いて、

 「どうじゃろう、差し当たり女神の塔に向かってみては?」

と言った。


 「女神様が降臨されたのは間違いないですじゃ。わしはあなた様がその女神様だと思っておるが…もしそうでないのなら、本物の女神様が別にいるはずじゃ。そして、女神様は本来女神の塔に降臨なさるはず。あなた様が何らかの手違いでこの村に落ちてきた女神様なら、女神の塔に行くべきであろうし、女神様でないとしても本物の女神様に会えば天界に帰るために力を貸してくれるはずじゃ」

 「す、筋は通っているようですが、私一人でその女神の塔とやらに行くのは…。場所も分からないし、村の外には魔物もいるみたいだし」

 「いや、このアルスが女神…あなた様をお守りして一緒に行きますので」


 「なっ、親父!」

 「お前は女神様とともに魔王を倒して英雄になるのが夢じゃったのだろう?この方が女神であればそのまま仕えれば良いし、女神の塔に本物の女神様がいたらその女神様に仕えれば良い。どのみち、この方とともに女神の塔に行くことに問題はなかろうて」

 「…」


 と、いうような感じで、さらに次の日になったけど、半ば強制的に旅に出ることになったわけ。ちなみに私の格好は、用意してもらった動きやすい服の上に、ローブと赤い靴。そう、悪い魔女の装備だ。ちょっと気持ち悪かったけど、冒険用の装備としては高級で、特殊な機能もある(らしい)とのこと。とんがり帽子と木の杖は恥ずかしいので勘弁してもらった。


**********


 「はあ」


 と、私は今日何度目かの大きなため息をついた。こんな異世界で、モンスターが現れるようなところで、こんな男の人と二人旅。モンスターをばったばったと倒せるぐらい強くなければ、冒険なんて嫌過ぎる。


 「…何か勘違いしてるのかもしれないけど、女神の塔はすぐそこの森の中だぞ。まあ半日も掛からないだろうな」

 「え」


 なんというご都合主義。そもそも、「女神の塔」なんてのは、辺境の奥地の誰もたどり着けないようなところに建っているものではないのだろうか。


 「そもそも、俺の村が辺境なんだよ。それに、さすがに大陸の向こう側に女神の塔があったら、女神が間違えてこの辺に降臨するなんて親父も考えなかっただろうよ」


 なるほど。


 「まあ、たどり着けないってのは合ってるけどな。女神の塔は遠くからは良く見えるけど、森の中に入ると木が邪魔で見えない。近づくと霧が出て来て迷ってしまい、いつの間にか森の外に出てしまうって寸法だ」

 「へえ」


 「俺も子供のころ何度か女神様に会うんだー、とか行って塔に登ろうと考えたけど、登るどころか塔までたどり着けなかったよ」

 「ふーん」


 「…ってお前女神本人じゃないのかよ、やっぱり」

 「だから違うって」


 しかし、霧が晴れたから降臨したのだろう、ってのはなんか違う気がする。女神様はいつも塔にいて霧で魔物や人が来ないようにしているけど、いなくなったから霧が晴れた、という方が自然じゃないだろうか?


 「ま、行ってみれば色々分かるんじゃないの?」

 「でも、霧が晴れたって噂が出回ってるなら、たくさんの人が来たりしてないのかしら」


 「辺境だから、遠くの大きな町からまだ人は来てないだろうよ。それに近隣の村は女神っぽい人が倒してくださったウィッチのせいで大分壊されて、今のところ復興の真っ最中。今女神の塔に行こうとしてるのは、女神っぽい人ぐらいじゃないのかね」

 「はいはい」



 そんな話をしているうちにすぐに森に着いてしまった。森の外からは確かに大きな塔が見える。円筒形の「いかにも」な塔だ。すぐ近くにあるように見える。私たちは村から街道を来たのだけど、その街道は森を避けるように曲がっていて、森の中への道はない。


 「さて、じゃあ塔に向かってまっすぐ歩いてみるか」

 「すぐに着けそうに見えるけど」


 「ところが森に入って塔が見えなくなると、いつもはすぐ迷って森の外に出ちまうんだよ。とにかくはぐれないように慎重に行くぞ」

 「ふーん」


 …で、覚悟を決めてそろそろと歩いていくと、10分もしないうちに視界が開けて、広場のようなところに出た。目の前に塔が見える。


 「…すぐだったな」

 「何なのよ、もう…」


 肩透かしと呆れるべきか、今までの霧(の魔法?)がすごかったと感心すべきか。良く見ると、塔の入り口らしきところへ向かって石畳の道があり、如何にもな石の柱が整然と立っている。良くその手の話の挿絵やテレビゲームの宣伝で見るような風景だ。

 

 「…ふぇぇ」


 …と、景色に見とれている私を尻目にどんどん歩いていく、…えっと、アルス!


 「ほら、早く行くぞぉ!」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 「子供のころから登ってみたかったんだ!今なら一番乗りだぜ!」


 慌てて追いかけた私は、すぐにアルスの背中にぶつかった。何で急に止まるの。


 「…一番乗りじゃなかったみたいだな」


 言われて塔の入り口の階段を見ると、こちらを背にして二人組が立っているのが見えた。


 「…行くぞ」


 アルスは駆け出した。


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