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始まり

はじめまして、Tanish Bhatです。

『THE VOID』を読んでいただき、ありがとうございます。

この物語は、平凡な高校生・ルヨコ・ナミネの日常から始まる、異世界・超常現象・戦いを描いた物語です。

最初は少し静かな始まりですが、物語が進むにつれて、ルヨコの世界は大きく変わっていきます。

それでは――

の物語をお楽しみください。


目覚まし時計のけたたましい音が、静寂を切り裂いた。

ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ!

絡まった毛布の中から白い手が伸び、目覚まし時計を勢いよく叩く。

静寂が戻った。

「……あと五分……」

ルヨコ・ナミネは、再び枕に顔を埋めた。

五秒後――

ゆっくりと目を開ける。

「……ん?」

ベッド脇のデジタル時計に目を向けた。

午前8時43分。

「……え?」

「……ええっ!?」

ルヨコは飛び起きた。

毛布が足に絡まり、そのまま顔から床に倒れ込む。

「痛ってぇ……」

額をさすりながら、慌てて立ち上がる。

「遅刻だ!」

まただ。

部屋は静かだった。

――静かすぎるほどに。

声もない。

テレビの音もない。

テーブルの上に朝食が用意されている気配もない。

ルヨコは、しわの寄った白いシャツを着て、緩んだネクタイを首にかけたままキッチンへ向かった。

冷蔵庫を開ける。

卵が一個。

牛乳が半分。

インスタント麺。

「……豪華だな」

卵をフライパンに割り入れる。

ジュッ――

数分後。

ルヨコは一人、食卓についていた。

皿には炒飯と目玉焼き。

「……食べられそうだな」

一口食べる。

「……悪くない」

部屋には再び静寂が戻った。

ルヨコの視線が、向かい側にある二つの空いた椅子へ向く。

「……まだ海外なんだろうな」

両親が仕事のために海外へ行ってから、もうすぐ三か月になる。

最初は毎晩、電話をくれた。

次第に、一週間に一度になった。

そして今は――

「……思い出した時だけ、か」

ルヨコは両親を責めなかった。

もう、責める気にもなれなかった。

彼はずっと前に、あることを学んでいた。

人は、いつかいなくなる。

それが本人の望みだったとしても――

そうでなかったとしても。

「……まあ、人生なんてそんなもんか」

無理やり笑顔を作り、もう一口食べる。

その時、スマートフォンが震えた。

一瞬だけ、ルヨコの顔に期待が浮かぶ。

急いでスマホを手に取る。

『電気料金のお支払いについてのお知らせ』

「……マジかよ」

ため息をつき、スマホをポケットへ戻す。

「家族なし」

「友達なし」

「楽しい学校生活なし」

椅子にもたれかかる。

「昔は……友達、いたんだけどな」

かすかな笑みが浮かぶ。

「……ずっと昔に」

最後に誰かから遊びに誘われたのがいつだったのか。

もう思い出せない。

いつの間にか――

誰も誘わなくなった。

そしてルヨコも、期待しなくなった。

キッチンの時計の音だけが、部屋に響く。

カチッ。

カチッ。

カチッ。

ルヨコは時計を見る。

午前9時。

「……って、待てええええ!?」

手にしていたスプーンが飛んだ。

「一時間目、九時からじゃん!」

スクールバッグを掴む。

靴を忘れる。

戻る。

靴を掴む。

スマホを忘れる。

また戻る。

「なんで俺、こんなに忘れっぽいんだよ!?」

玄関のドアが勢いよく閉まった。

朝の街は、学校へ向かう生徒たちで賑わっていた。

ルヨコはコンビニの前を駆け抜け、信号が変わる寸前の交差点を渡り、犬を連れた老人とぶつかりそうになる。

「す、すみません!」

「前を見て走れ!」

「こっちだって必死なんですよ!」

そのまま走り続ける。

ネクタイが風に激しくなびく。

額には汗が浮かぶ。

「絶対……」

「……いつか……」

「……早起きしてやる……」

「……たぶん」

やがて学校の門が見えてきた。

生徒たちがルヨコを見る。

「また遅刻だ」

「ナミネじゃん」

「あいつ、時間通りに来たことあるの?」

ルヨコは気まずそうに笑った。

「……おはよう」

返事はなかった。

ルヨコは後頭部をかきながら、静かに教室へ向かった。

――いつもと変わらない一日。

教室の扉を開ける。

クラス中の生徒が笑いながらこちらを見る。

教師は眉間を押さえた。

「ナミネ君」

「……はい?」

「学校は何時から始まる?」

ルヨコは頬をかく。

「……九時?」

「では、今何時だ?」

ゆっくりと教室の時計を見る。

午前9時27分。

「……まだ朝ですよね?」

教室中が笑いに包まれた。

教師でさえ、小さな笑みを隠せない。

「席につきなさい」

「はい、先生」

ルヨコは何度も頭を下げながら、教室の後ろへ急いだ。

いつもの席。

窓際。

そして――

誰も座りたがらない席。

バッグを机の横に置き、窓の外を見る。

青い空。

白い雲。

自由に飛ぶ鳥。

「……いいな」

教師が黒板に数式を書き始める。

「今日の授業では――」

ルヨコは聞いていなかった。

別に勉強が嫌いなわけじゃない。

ただ――

いつも、考え事をしてしまう。

もし両親がもっと家にいてくれたら。

昔の友達は、今でも自分の名前を覚えているだろうか。

そして――

明日は何か変わるのだろうか。

答えはいつも同じだった。

――変わらない。

昼休みになる。

教室は一瞬で騒がしくなった。

机がくっつけられ、手作りの弁当を囲んで笑い声が飛び交う。

誰かが教室の反対側から叫ぶ。

別のグループではゲームの話で盛り上がっている。

教室の隅々まで、楽しそうな日常が広がっていく。

――ただ一人を除いて。

ルヨコはコンビニで買ったサンドイッチと牛乳を持って、屋上へ向かった。

屋上には誰もいない。

――ルヨコにとっては、そのほうがよかった。

涼しい風が、乱れた黒髪を撫でる。

フェンスにもたれかかり、街を見下ろす。

眼下を走る車は、小さな虫のように見えた。

人々は横断歩道を急いで渡っている。

みんな、行く場所がある。

誰かと会う予定がある。

――待っていてくれる誰かがいる。

「……いいよな」

サンドイッチの包みを開く。

ハム。

チーズ。

特別なものは何もない。

それでも――

誰にも自分がいるのか、いないのか気にされない教室で食べるよりは、ずっと美味しく感じた。

スマートフォンが震える。

ほんの一瞬――

胸が高鳴った。

ポケットからスマホを取り出す。

また通知だった。

『天気警報』

《本日夕方、雨が降る可能性があります》

ルヨコは小さく笑った。

「……俺のスマホまで寂しがってるよ」

やがて授業が終わった。

気づけば、最後のチャイムが校内に響いていた。

生徒たちは荷物をまとめていく。

「また明日!」

「ゲーセン寄っていかない?」

「いや、部活あるから」

一人、また一人と声が消えていく。

数分後――

教室には誰もいなくなった。

残っているのは、ルヨコだけ。

ゆっくりと立ち上がる。

「……帰るか」

バッグを肩にかけ、教室を出る。

廊下を歩いていると、いたるところにポスターが貼られていることに気づいた。

錬金術研究会

どの部活も楽しそうだった。

どのポスターにも、仲間たちと笑う生徒たちが描かれている。

ルヨコは足を止めた。

「……もしかしたら」

手を伸ばす。

しかし――

途中で止まった。

「……いや」

「俺みたいなの、入れてくれるわけないか」

そのまま歩き出す。

夕日が学校の廊下をオレンジ色に染めていた。

長い影が床へ伸びていく。

そして、ルヨコが校門へたどり着いた頃――

街はすでに静まり始めていた。

だが、ルヨコは知らなかった。

――誰かが、彼を見ていた。

屋上から。

一人の人物が双眼鏡を下ろす。

「……なるほど」

「彼がターゲットだ」

イヤホンから別の声が返ってくる。

「確認は?」

人物は頷いた。

「確認した」

「観察を開始しろ」

――その頃。

ルヨコは一人で帰路についていた。

だが――

もう、完全に一人ではなかった。

夕焼けに染まった空の下、ルヨコが学校を離れる。

日が沈み始めると、街の雰囲気は変わっていった。

さっきまで通りを埋めていた子供たちは家へ帰り、店主たちはシャッターを下ろし始める。

昼間の明るい声は消え、遠くから聞こえる車の音と、時折響くカラスの鳴き声だけが残った。

ルヨコはバッグを背負い直す。

「……コンビニ、寄るか」

ポケットに手を入れる。

「……って」

財布を確認する。

三百八十七円。

「……」

ため息。

「インスタント麺でいいか」

苦笑しながら歩き続ける。

家への近道は、古い住宅街を通る道だった。

家々は静まり返っている。

カーテンは閉じられ、街灯が一つ、また一つと点いていく。

闇が少しずつ道を飲み込んでいく。

その時――

コツ。

足音。

ルヨコは眉をひそめた。

足を止める。

静寂。

「……気のせいか」

再び歩き始める。

コツ。

今度は――

さっきより近い。

ルヨコは振り返った。

誰もいない。

遠くまで続く、誰もいない道だけ。

冷たい風が首筋を撫でる。

「……変だな」

緊張をごまかすように笑う。

「俺、怖がりすぎだろ」

両手をポケットに突っ込み、歩く速度を上げる。

――数軒先の屋根の上。

三人の人物が、ルヨコを見下ろしていた。

全員、顔を隠す黒いフードを被っている。

「ターゲットがこちらに気づいた」

「そんなはずはない」

「本能的に察知しただけだろう」

最も背の高い人物が腕を組む。

「……面白い」

その時、ローブの下に隠された通信機から声が響いた。

『監視を続けろ』

『接触は禁止』

『観察だけに徹しろ』

「了解」

三人の姿が、音もなく闇へ溶けていく。

ルヨコは歩き続ける。

だが、その感覚は消えなかった。

誰かが――

自分を見ている。

鼓動が速くなる。

首筋の毛が逆立つ。

「いや……」

「……疲れてるだけだ」

無理やり笑う。

その瞬間――

道路を影が横切った。

ルヨコの目が見開かれる。

誰かが道を渡った。

――だが。

そこには誰もいなかった。

「……何だ?」

頭上の街灯が点滅する。

一度。

二度。

そして――

消えた。

闇が道路を飲み込む。

全身に寒気が走る。

「……もういい」

ルヨコは走り出した。

背後から――

足音。

一つじゃない。

二つでもない。

――いくつも。

静かな道路に響き渡る。

コツ……

コツ……

コツ……

呼吸が乱れる。

「何なんだよ、これ!?」

角を曲がる。

足音もついてくる。

また角を曲がる。

――まだいる。

今度ははっきり聞こえる。

速い。

一定のリズム。

なのに――

近づいてこない。

離れてもいかない。

まるで――

遊ばれているかのようだった。

汗が顔を伝う。

「俺、今日死ぬ気ないからな!」

ルヨコは見知らぬ道を全力で駆け抜けた。

肺が焼けるように苦しい。

脚が悲鳴を上げる。

それでも止まらない。

――止まれない。

気づかないうちに――

街を離れていた。

舗装された道路が消える。

足元が土に変わる。

周囲を木々が取り囲む。

――森。

「俺……」

「……どうやってここまで来たんだ?」

息を切らしながら腰を曲げる。

森は静まり返っていた。

――静かすぎる。

虫の声もない。

鳥の声もない。

風の音すらない。

聞こえるのは、自分の呼吸だけ。

「……いなくなった?」

振り返る。

何もない。

足音も。

人影も。

影さえも。

安堵が押し寄せる。

「……どうやら撒いたみたいだな」

その時――

鼻を突く臭いがした。

鉄。

腐敗。

何か――

ひどく不快な臭い。

ルヨコは鼻を覆う。

「……何だ、この臭い?」

好奇心が恐怖に勝った。

逃げろと告げる本能に逆らい――

一歩。

さらに一歩。

奥へ進む。

臭いはどんどん強くなっていく。

枝が靴の下で折れる。

森の奥へ進むほど――

気温が下がっていく。

そして、ついに――

小さな開けた場所へ出た。

ルヨコの身体が固まった。

一本の歪んだ木の下。

一人の男が倒れていた。

服は引き裂かれている。

目は虚ろに空を見つめていた。

地面には黒く乾いた血が広がっている。

周囲にはハエが飛び交っていた。

ルヨコの口が乾く。

「……な」

「……嘘だろ」

バッグが肩から滑り落ちる。

「こ、これ……」

「……死んでるのか?」

脚が動かない。

心臓が激しく鼓動し、今にも胸を突き破りそうだった。

叫びたい。

逃げたい。

それなのに――

ただ、見つめることしかできなかった。

そして――

死んだ男の目が――

動いた。

――CRACK!

最後までを読んでいただき、本当にありがとうございます。

は、僕が頭の中で考えていた物語を形にした作品です。

ルヨコの物語は、ここからさらに大きく動き始めます。まだ明かされていない謎や、新しいキャラクター、そして数々の戦いが待っています。

この作品を読んでくださった皆さんに、少しでも「次が気になる」と思ってもらえたら嬉しいです。

これからも をよろしくお願いします。

Tanish Bhat

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