十二魔人
――王都アルディア。
夜。
冒険者ギルドの地下には、一般の冒険者には公開されていない資料室が存在していた。
そこに、二人の男女がいた。
ダレン・クロウ。
ソフィア・ルーメル。
二人の前には、一枚の古びた資料が置かれている。
「……十二魔人。」
ダレンが低く呟く。
ソフィアは頷いた。
「五年前から存在が確認されている、魔王直属の十二体。」
「魔王軍の中でも別格の存在。」
「そのうち何体かは、単独で都市を滅ぼせると言われている。」
ダレンが資料をめくる。
そこには、十二個の空欄が並んでいた。
名前すら分からない者も多い。
「なのに……。」
ダレンが眉をひそめる。
「どうして今、動き始めた?」
「分からない。」
ソフィアは一枚の報告書を取り出す。
「でも、ここ数か月で魔物の活動が明らかに増えてる。」
「そして昨日。」
「魔人が一体、殺された。」
「カイルに。」
二人の間に沈黙が落ちた。
「……あいつ、十二魔人を探してるのか?」
「たぶん。」
「五年間ずっと?」
「そう考えるのが自然。」
ソフィアは目を伏せる。
「でも……。」
「何だ?」
「カイルが、どうしてそこまで強くなったのか。」
その答えを知る者は――
誰もいなかった。
⸻
同じ頃。
王都から数百キロ離れた場所。
荒野。
そこに一人の男が立っていた。
黒いローブ。
長い白髪。
そして――
胸元に刻まれた、魔族の紋章。
「……面白い。」
男の前には、巨大な魔法陣が浮かんでいる。
その中央に映っているのは――
カイル。
「五年前。」
「剣聖を失った少年が。」
「まさかここまで成長するとは。」
男の名は――
ゼルガ。
十二魔人の一人。
異名――
『死界』。
彼の周囲には、数百体の魔物が跪いていた。
「人間は弱い。」
ゼルガは笑う。
「だが。」
「一人だけ。」
「異常な存在がいる。」
魔法陣の中。
カイルが歩いている。
「カイル・ウォーカー。」
ゼルガは指を伸ばす。
「お前は――」
「一体、何を集めている?」
⸻
翌朝。
カイルは森の中を歩いていた。
目的地は一つ。
ゼルガのいる場所。
五年前から集め続けてきた情報。
魔人の出現地点。
魔物の移動。
不自然な魔力反応。
そして――
魔人たちの名前。
その全てを繋ぎ合わせた結果。
カイルは一つの場所へ辿り着いた。
「……ここか。」
目の前には巨大な渓谷。
その奥には、黒い霧が漂っている。
普通の人間なら近づいただけで身体が震えるほどの濃密な魔力。
だが。
カイルは歩く。
「……。」
黒い霧の中へ。
⸻
数分後。
カイルは立ち止まった。
「……来たか。」
声。
前方。
岩の上。
白髪の男が立っている。
「ゼルガ。」
カイルが名前を呼ぶ。
ゼルガは驚いた。
「……私の名を知っているのか。」
「五年間調べた。」
「なるほど。」
ゼルガが笑う。
「では、私が何者かも知っているな?」
「十二魔人。」
「正解だ。」
ゼルガは両手を広げる。
「そして――」
「お前を殺す者だ。」
次の瞬間。
地面から黒い腕が大量に伸びた。
「――ッ。」
カイルが跳ぶ。
ズガガガガッ!!
無数の腕が地面を突き破る。
「……。」
カイルは空中で身体を捻る。
着地。
同時に黒剣を抜く。
「遅い。」
一閃。
腕がまとめて切断される。
しかし。
切断された腕は地面へ落ちる前に再生した。
「……再生。」
「違う。」
ゼルガが笑う。
「これは死者だ。」
「私の能力――」
「《死界》。」
地面に転がっていた魔物の死体が立ち上がる。
一体。
十体。
百体。
さらに。
洞窟の奥から大量の魔物が姿を現す。
「私が殺した者は。」
「全て私の兵になる。」
カイルは無言。
魔物の群れが一斉に襲い掛かる。
「グァァァ!!」
「ギャアアア!!」
「――。」
カイルが消える。
一体。
二体。
十体。
二十体。
黒い斬撃が走る。
魔物が倒れる。
しかし。
倒れた魔物が再び立ち上がる。
「無駄だ!」
ゼルガが笑う。
「何度殺しても――」
「私の兵は蘇る!」
カイルは剣を止める。
そして。
「……なるほど。」
ゼルガが笑う。
「諦めたか?」
「違う。」
カイルは黒剣を構える。
「面倒なだけだ。」
「……何?」
次の瞬間。
カイルの姿が消えた。
ゼルガの背後。
「――ッ!?」
黒剣が振り下ろされる。
ギィィィン!!
ゼルガが腕で受け止めた。
「……!」
「私に近づくか。」
「なら――」
ゼルガの身体から黒い霧が噴き出す。
「死ね。」
霧に触れた木々が腐っていく。
地面が崩れる。
岩が朽ちる。
「《死界》。」
巨大な黒い領域が広がった。
「この中では――」
「生きている者ほど弱くなる。」
カイルの身体にも異変が起きる。
「……。」
腕が重い。
呼吸が苦しい。
身体能力が徐々に奪われていく。
「どうした?」
ゼルガが笑う。
「五年間、魔人を殺し続けたそうだな。」
「ならば分かるだろう。」
「十二魔人は――」
「今まで殺してきた魔人とは違う。」
カイルは俯く。
「……。」
「怖くなったか?」
「……いや。」
カイルが顔を上げる。
その瞳に。
初めて。
ほんの僅かな笑みが浮かんだ。
「ちょうどいい。」
「……?」
「強い奴を探してた。」
次の瞬間。
カイルの身体から――
膨大な魔力が溢れ出した。
「な――」
ゼルガの顔が引きつる。
「その魔力……?」
カイルの周囲に黒い光が集まる。
そして。
視界に文字が浮かぶ。
⸻
《EXスキル発動条件を確認》
《運命の蒐集者》
《新たな能力を解放します》
⸻
カイルは目を細める。
「……来たか。」
⸻
その頃。
王都。
ソフィアが突然立ち上がった。
「……え?」
魔力探知の魔導具が激しく震えている。
「どうした!?」
ダレンが駆け寄る。
ソフィアの顔から血の気が引く。
「……北東。」
「何がある?」
「とんでもない魔力。」
「魔王か?」
「違う。」
ソフィアが首を横に振る。
「もっと近い。」
そして。
震える声で呟いた。
「……十二魔人。」
⸻
再び渓谷。
ゼルガは目の前の男を見つめていた。
「お前……。」
「一体、何者だ?」
カイルは答えない。
ただ。
黒剣を握る。
そして――
「俺は。」
一歩踏み出す。
「お前たちを全部殺す。」
「魔王に辿り着くまで。」
ゼルガの顔から笑みが消えた。
「……そうか。」
「ならば。」
死者の軍勢が一斉に動き出す。
「ここで死ね。」
カイルも踏み込む。
「――お前がな。」
二人の姿が交差した。
そして。
渓谷を揺らすほどの轟音が響き渡った。
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