プロローグ
剣聖の最期
燃えていた。
人類最後の砦――王都。
石造りの街並みは黒煙に包まれ、崩れ落ちた城壁の向こうでは、数え切れないほどの魔物たちが雄叫びを上げていた。
血の臭い。
焦げた肉の臭い。
そして、人々の悲鳴。
その全てが混ざり合い、この世の終わりを告げているようだった。
「……姉さん!」
青年が叫ぶ。
銀色の髪。
黒い瞳。
まだ二十三歳。
名は――カイル・ウォーカー。
彼の目の前には、一人の女性が立っていた。
純白の鎧。
風になびく長い金髪。
背中まで届く聖剣。
その姿を見ただけで、人々は希望を抱く。
英雄序列――
序列外。
“歴代最強”
“剣聖”
数々の異名を持つ、人類最後の希望。
マリス・ウォーカー。
「カイル。」
マリスは振り返り、いつもと変わらない優しい笑顔を見せた。
「大丈夫。お姉ちゃんが守るから。」
その笑顔を見た瞬間。
カイルは、子供の頃を思い出していた。
泣けば頭を撫でてくれた。
怪我をすれば抱きしめてくれた。
世界中が敵でも、この人だけは味方だった。
だからこそ。
「……嫌だ。」
声が震える。
「もう戦わなくていい!」
「帰ろうよ!」
「俺が戦う!」
「だから……!」
マリスは首を横に振った。
「ごめんね。」
「でも、お姉ちゃんは剣聖だから。」
その瞬間。
空が割れた。
漆黒の魔力。
天地を飲み込むような圧力。
誰もが膝をつく。
英雄ですら息ができない。
ゆっくりと、一人の男が歩いてきた。
黒い外套。
二本の角。
紅い瞳。
それだけで世界が悲鳴を上げているようだった。
「……魔王。」
誰かが呟いた。
魔王は無表情のままマリスを見る。
「貴様だけは認めよう。」
「人間にしては強かった。」
次の瞬間。
視界からマリスの姿が消えた。
速い。
カイルには見えなかった。
剣戟が響く。
大地が裂ける。
山が崩れる。
空間が歪む。
たった数秒。
それだけで王都は半壊していた。
「はぁ……はぁ……」
マリスの肩から血が滴る。
それでも彼女は立っていた。
最後の一歩も引かず。
「さすが剣聖。」
魔王が初めて笑う。
「だが、終わりだ。」
黒い剣が振り下ろされた。
「――ッ!!」
鮮血。
世界が赤く染まる。
「姉……さん?」
マリスの胸を、黒い剣が貫いていた。
「……カイル。」
震える声。
それでも彼女は笑っていた。
「生きて。」
「お願い。」
「強く……なって。」
「そして……」
「幸せに――」
言葉は最後まで続かなかった。
マリスの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「姉さんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
世界が止まった。
その瞬間。
カイルの視界に、今まで見たことのない文字が浮かび上がる。
⸻
《条件を達成しました》
《ユニーク個体を確認》
《スキル未所持個体を確認》
《適合率100%》
《EXTRA SKILL》
《──運命の蒐集者──》
《覚醒しますか?》
⸻
カイルは涙を流したまま、震える拳を握り締める。
「……全員殺す。」
「魔王も。」
「四天王も。」
「十二魔人も。」
「一匹残らず。」
その瞳から、弱さは消えていた。
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