005 0.5%の
前回までのあらすじ
1人目の来訪者、梅守こはく。彼女は二年前にこの世界に降り立ち、一年間の冒険を経た後にこの世界に帰属することを選び、アストレア邸に住まいながら中古屋の査定士としての生活を満喫していた。
メトの方はアタシの腕から脱出し、アインパパに構ってもらいにいった。母親譲りの毒っ気はあれど、あれはあれで素直な子だ。
「で、自分はいつまでこうしていればいいのさ、小児性愛者」
アタシの腕に残っているアルはむすっとしながら本を呼んでいる。なんだかんだ、受け取った本の一冊みたい。
「そんな歳離れ取らんやろがい、これはとても健全なスキンシップ」
「性犯罪者の多くは、相手も喜んでると思ってた、って言うんだってね」
口ではそう言うが、アルは自らの意思で振りほどこうとはしない。憎まれ口を叩いてくれているウチはそんなに嫌がってないというのが、幾度ものスキンシップの果てに得た結論だ。
アタシの度が過ぎて本気で抵抗をされたことがあるから分かるけど、彼がその気になればアタシの細っこい腕なんぞ簡単に振りほどける。
ちなみに、本気で怒らせたときはその場で土下座して謝り倒したが、一週間くらい口を聞いてくれなかった。
以来アタシは双子から完全に嫌われないよう一線を見極めるようにしている。
二人から嫌われたら、流石に生きてけない。
「前みたいにまさぐってこなくなっただけ、成長はしてるか……」
本を呼んでる割には口数多めだな。
「お気に召さなかった感じ?」
「メトなら好きなんじゃないかな、自分はそこまで面白いとは思わないかな」
後頭部から軽く覗き込むと全然ページが進んでない。
「そんな序盤で結論つけるのは早くない? とりあえず一冊読み切って判断したまえよ」
「今時、小説なんて冒頭で読者を掴めないとダメらしいよ。今の読み手はタイムパフォーマンスを重視するんだって」
「いつの世も娯楽が多様になると、喫するのではなく、消費するようになってしまうものか……いと忙しない世の中よ」
嫌な風習まで日本と似てなくていいのに。
「いいんじゃない、娯楽が溢れているってのは、この世界はまだ余力があるってこと。終末の足音が聞こえている割には、ね」
「……」
0.5%──この数字はこの世界の人類の生存が許されている星の地表の面積を表している。
この世界はアタシが暮らしていた現代日本と比較しても文明が発展しているように見えるのに、人口が増えない理由がここにある。
この世界には十二の国が存在しているが、その規模はアタシが知る国と言う人間の集合体とは比べ物にならない。
国々の細かい人口内訳や社会制度などは語り出すとそれだけで、教科書になってしまうので割愛させてもらうが『都市国家』くらいの規模感と言えばなんとなく想像は出来るだろうか。
99.5%の人類の未開拓地域。
なぜ人々はそれらを開拓しないのか。答えは簡単──フェイタルの占領区域、特大の禁域に指定されているからだ。
今ほどフェイタルの脅威が表面化するより以前に、何回か開拓団が派遣されたらしいけど、誰一人として帰って来ず、長らくその未踏地域は『魔界』と呼ばれ、禁忌のように見て見ぬふりをされていた歴史があるらしい。
そして、技術が進み、フェイタルが周知された現在、その実態が明るみになったのはアタシがこの世界に降り立つ少し前の事らしい。
航空機によって上空から撮影された写真を見たとき、末法だの最後の審判だのラグナロクだのの意味を見せつけられたような気がした。
陰謀論めいているけど、かつてアタシはその写真の撮影に同行し自らの目で見てしまってるので、ある種のお約束である外の世界にも人類が生きているみたいなのは期待が出来ない。
ワンチャン観測可能範囲外にこの小規模な都市国家群の他にも似たような集合体があるかも知れないが、あったとしても、もはや交流を望むべくもない、というのがこの世界の結論らしい。
人類の生存域はこの0.5%が限界で、いずれ、それすらも飲み込まれつつある。
この世界の終末は現在進行中。
「いずれ来たる終末が目に見えている距離にあると逆に落ち着くんだね。不思議な感覚、アタシはまだ実感がない」
「多分、皆おんなじ、実感はない。ただ昨日今日の話じゃないから慣れてるだけなんだ。きっと明日世界が滅びますってなったら、ちゃんと慌てふためくよ」
その明日を先延ばしにするために、フォルトがいる。
たった0.5%を死守するために。
「今は言ってしまえば……アニメのCパートのような……いや、なんか違うな……」
「上手いことを言おうと頑張らなくていいよ」
あえて、無理やりにでも例えるなら……そう、この世界はもうエンドロールを迎えている。
アーカイブファイル 003
記石
「歩むべき運命の輪郭を捉えた時、人々がその手に握る原石に大地の記憶が刻まれる」
この世界で採掘される特殊な鉱石。
一見するとただの石ころだが、ある条件を満たしたこの世界の人々が直接触れることで、大地が記録した記憶を読み取り、特定の鉱石の姿へと形を変える不思議な石。
姿を変える前の記石を『原石』、石が変化した後は便宜上、変化後の石の名前で呼ばれる。
また、原石が別の石に姿に変わる現象を『輝く』と形容したりする。
記石を輝かせた者は、記石を仲介し超自然的な能力を発現させることができるようになり、この理由を哲学者は『常人よりも深くこの世界に足跡を残す存在になるためだ』と語る。
記石は単純に高効率のエネルギー資源として広く知られ、キログラム単位の量で都市一年分のエネルギーを賄えるほどである。
能力とは別に、記石からエネルギーを抽出して、様々な現象を引き起こす専門技術を『魔術』と呼んでいる。(科学技術の一つだが、使っている姿があまりにもそれっぽいので、そう名付けられたと言う説がある)
魔術は能力と異なり、技術であり体系化された学問であるため、一定の学習能力があれば能力を持たない人間でもある程度扱うことができる。




