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未定  作者: 悠木サキ
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第9話 『心』の消耗

「おい!さっさとしろ!!」

 『心』の注入に手間取るカウルに、シーナが容赦ない怒号を飛ばす。

(くそっ……)

──こっちの気も知らないで、ばかすか撃ちやがって。

 湯水のごとく弾薬を消費するシーナに、内心恨み言を言いながら、カウルは必死の思いで『心』を弾倉に込め、シーナに渡す。

「──もっと『心』込めろ、ボケ!!」

 弾倉を掴むやいなや、シーナが疲労困憊しているカウルに追撃の罵声を浴びせる。


(こんなんじゃ足りねえよ、馬鹿が)

 弾倉を手に取ったシーナは、弾倉に込められたカウルの『心』の質と量を感じ取っていた。

 これはある程度『鼓動』に長けた者なら備わっている『感覚』である。

 『鼓動』の能力は、習熟すればするほど、その者の心の感覚を常人より敏感にする。

 そのため、対象にどれだけの『心』が込められたかを感じとることができる。

 この訓練では射撃するのは曳航標的だが、実戦では敵の航空機や投下される爆弾、あるいは敵の艦船から発射された砲弾である。

 それらを大型であるとはいえ一発の銃弾で破壊するには、『心』は出来るだけ込めるに越したことはない。

 とりあえずカウルから受けとった弾倉を対装甲狙撃銃に挿したシーナは、引き続き射撃を行う。

 航空機と同じ速度──時速400キロ程度の高速で動く曳航標的に、シーナは何度も命中弾を浴びせていく。


 動く標的を射撃するとき──これは『未来位置予測射撃』と呼ばれるが──、これは動かない物体を射撃するのとは大きな違いがある。

 動く標的を撃つとき、射撃を行う者は標的までの距離と、発射した弾丸が対象に届くまでの時間、そしてその時間のうちに対象が移動しているであろう未来の位置、これらすべてを踏まえなければ射撃を命中させることはできない。

 これが『未来位置予測射撃』の要領であるが、対空迎撃要員であるシーナはこの複雑な射撃を、頭で計算して行っているのではない。

 『このように撃ったら当たるだろう』という『感覚』で射撃しているのである。


 このような当てずっぽうな射撃は本来、常人では命中しようがない。

 しかし、『鼓動』を操り、優れた『感性』を持つ兵士──特にシーナたち『対空迎撃要員』にはこれが可能であった。

 『鼓動』の能力に長ければ、『感覚』自体もより精度を増す。

 そのため、感覚的に──いわば勘で──射撃を行っても、その精度はまるで目視で正確に照準をつけているかのような高さになるのだった。



「ちっ!!」

 さらに次の弾倉をカウルから渡されたシーナであったが、弾薬に込められた『心』が不十分であると感じたシーナは、狙撃銃に挿入した弾倉に、自身の左手を当てた。

 シーナの左手から、力強く輝く光の粒子が発せられ、弾倉に吸い込まれていく。

 自身の『鼓動』の術により、弾薬に『心』を充填したシーナは、銃のボルトを苛ついた様子で乱暴に引き、引き金に指をかける。


「はあ……はあ……」

 一方、体のほうは一切動かしていないカウルであったが、『心』を消耗した疲労から、甲板に手をつき荒く息をした。

ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

 そんなカウルをよそに射撃を続けるシーナ。

 銃の爆発的な銃声が、カウルの頭を殴りつける。

 疲労したカウルは、その大音響に吐き気を覚えた。



「撃ち方やめ!!」

 『アマネ』甲板各所の分隊に、一斉に号令がかかる。

 ようやく訓練が終わった頃、カウルはまともに立つことすらできなくなっていた。

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