第59話 劣勢
──どういう状況だよ!
敵の火線をくぐり抜け、第二分隊のところまでたどり着いたところであったが、すでに、味方が敵に攻め込まれている状況にシーナは焦りと苛立ちを覚えた。
ダダッ!ダダダッ!
シーナは右舷空中にいる敵に牽制の射撃をしながら前進する。
状況は厳しかった。駆けつけたばかりだが、目に入った限りでは、槍を構えるセーグネルと、おそらくノベルも──彼も刀を手にしている──が甲板に乗り込んできた敵兵にあたっていたようだ。
他の分隊員は掩体で、空中の敵に射撃をしている。しかし、人数は少ない。
(──あ?)
シーナは掩体の陰にしゃがみこんでいるアビィに気が付いた。
どこか負傷したのかと思ったが、外傷は見られない。しかし、怯えたようすで身を丸めている。
「おいっ!どうした!!」
掩体の裏まで来たシーナは、小銃を構え辺りを警戒したまま、しゃがみこんでいるアビィに向かって怒鳴った。
自分の前に現れたシーナに気が付いたアビィが顔を上げる。
泣いていたのか、彼女の目は赤く腫れぼったくなっていた。
──なにやってんだよ!
怪我をしているわけではない。彼女は単に怯えて泣いているだけだ。
(腰抜けがっ)
アビィが戦意を喪失し、任務を放棄していることを悟ったシーナは憤った。
「てめえも戦えっ!」
この状況で、いつからこうしていたのだろうか──?小銃を構えながら、シーナはしゃがんでいるアビィの肩を片足で押すように蹴った。
「きゃっ!」
突然シーナに蹴られたアビィは掩体に体をぶつけた。しかし、アビィはさらに怯えたように体を丸めて震えるだけだった。
「ちっ!」
ダメだこいつは──これ以上時間をかける暇はないと感じたシーナは、アビィを捨て置いて前に進む。
「シーナ!」
加勢にやってきたシーナに向かって、セーグネルが彼の名前を呼ぶ。その声は歓喜の色を帯びていた。
彼女に応じる余裕はない。隙を見せないよう、シーナは小銃を構えたまま状況を観察する。
(どうする…………!)
セーグネルのそばには通信士のセトが倒れていて、今セーグネルが彼のもとに駆け寄ったものの、セーグネルの向こうには先ほどシーナが射撃した敵がまだ健在であるために、セーグネルは敵を警戒したままセトを介抱できないでいる。
舷側のほう──海上の空中にも複数の敵がいて、こちらに射撃をしかけてくる。
二方面からの敵の攻勢──素早くあたりに目を走らせたシーナがはっとしてノベルに向かって叫んだ。
「うしろだ!」
「っ!」
後ろを振り向いたノベルは、先ほど『アマネ』から弾き出した少女の敵兵が、自分に向かって飛びかかってくるのに気づいた。
いつの間にか体勢を立て直したベルニカは、空戦機動で空中を駆けながら猛烈なスピードでノベルに迫る。
──はやい!!
敵のスピードは、さっきよりはるかに速い。
ノベルのまえに躍り出たベルニカが彼に向かって刃を振り下ろす。
キン!キン!キン!
ベルニカのすばやい斬擊をノベルが受ける。
しかし、
「──ぐっ!!」
ベルニカは、細剣による攻撃のなかに、体術を織りまぜてきた。
直線的な横蹴りがノベルの胴体を打つ。
防弾装具を以てしても内臓を揺らす威力の蹴りだった。
そして、ベルニカが脇のホルスターから、何かの銃器を抜き取って、体勢を崩しかけているノベルに向けた。
──長い銃身をもった大口径の自動拳銃だ。
まずい──ノベルがそれを避ける間もなく、
──ガァン!!
大型自動拳銃が火を吹いた。
「──っ!!」
とっさに、刀の刃を横にして銃弾を弾こうとしたノベルであったが──
パキィン!!
ノベルの刀が、細かい断片を散らして二つに折られた。
ビシッ!!
「ぐあっ!」
ノベルの刀を砕いた銃弾は、ノベルの体を直撃した。
衝撃を受けて、後ろに吹き飛ぶノベル。
「くそっ!!」
味方の危機に、シーナが小銃を撃ちながら果敢にベルニカに挑んでいった。




