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未定  作者: 悠木サキ
33/66

第33話 逃げ場のない場所で

 左舷前部に行くため、二人は艦首方向に向かって甲板を駆けていく。

 前を走るシーナが、『アマネ』の一番主砲と二番主砲の間を抜け、左舷側に回り込んだ。

 シーナの後を追うカウルも二番主砲の砲塔に差し掛かった。

 するとそのとき、

 ゴオ……ウウゥ……と重い駆動音を発しながら、一番、二番両砲塔が旋回しはじめた。

「!」

 カウルの頭上で二番主砲の重厚な二本の砲身が左へと志向していく。

(す、すごい……)

 家屋よりも巨大な構造物が──しかも鋼鉄の塊のものが──ゆっくりだが滑らかな動きで駆動する様に、カウルはぽかんと口を開け驚く。

 しかしすぐに、直面する現実に愕然とした思いも感じた。

──こんなもの造って、殺し合うなんて。

 この艦そのもの──ここにある全てのものが、これから行われる戦いのために造り出されたものだ。

 高度な技術を用い、資材を投入し、人手と金を費やして──そして何よりも、人の命を懸けて──その結果行われるのが殺し合いということに、カウルはわけがわからない気持ちだった。

(くそっ……くそっ!)

 カウルは奥歯を噛み締め、甲板を駆ける。

 自分は今まさに、死地に向かっている。

 強制された兵役。戦争になど、誰が望んで向かうだろう。

 しかし、海に囲まれたこの甲板の上には、カウルの逃げ道はどこにもなかった。




 二番主砲の砲塔を通りすぎ、左舷のほうへ出たカウルは、左舷前部の第四分隊の持ち場へ急ぐ。

 視線の先に、先に到着していたシーナの姿を見つけた。

 シーナはすでに、第四分隊の兵士──分隊長かもしれない誰か──と対面していた。

 カウルが息を切らしてシーナのもとにたどり着くと、すでにシーナはその兵士とのやりとりを済ませたのか、遅れてきたカウルを冷たい眼で睨み、

「来い」とだけ言って、艦の舷側に向けて進みだした。

 カウルはぐっと歯を食い縛り、シーナのあとに従う。


(ど、どこに行く気だ……?)

 甲板上を進んでいくシーナについていきながらカウルは不安になる。

 第四分隊が守備する左舷前部は、右舷前部を守備するカウルたち第二分隊と左右対象であるので、機銃や掩体の位置や数は同じである。

 しかし、それらは全ての第四分隊の兵士たちが使っており、カウルたちが身を置く場所は見当たらない。

──!

 シーナが歩みを止めたのは、左舷前部の甲板上の、銃座や掩体か近くにない、開けた空間のある位置だった。

(……ここで?)

 カウルはたじろいだ。

 そこは、前方に舷側のハンドレールがあるのみで、海と空を見渡せはするが、掩体や遮蔽物の類いの身を隠せるものがなにもなかった。

──嘘だろ……

 砲戦となれば、艦砲から放たれる巨大な砲弾が飛来する。

 もちろん、敵艦の主砲弾が直撃すれば、銃座に併設された防盾や、土嚢で組まれた掩体ごときでは身を守ることはできない。

 だが、戦いはまだ素人同然のカウルにとっては、心理的な面でせめて何か身を隠せるものが欲しかった。

 不安を抱くカウルが、ちらりとシーナのほうに目を向けるも、シーナは海のほうに顔を向けたままで、そわそわと落ち着かないカウルを見向きもしない。

「はぁ──はぁ──」

 死の恐怖に、カウルの呼吸が乱れ始める。

 頭がくらくらし、視界の焦点がぼやける。

(落ち着け)

 カウルは一度ぎゅっと目をつむり、拳を握りしめて平静を保とうとする。

 まだ、死ぬと決まったわけじゃない。

 意識的に呼吸を整え、周辺を見る。

 しかし──

「!」

 カウルの視線の先、遠い海の水平線に、敵艦の影が浮かび上がった。


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