第20 生存本能の反撃
「ハートクレア准尉!」
セーグネルに指示を仰ぎたかったカウルは当惑した。
その場に放置されたカウルはセーグネルに呼び掛けるも、彼女は銃座の機銃で応戦を開始し、自分たちのことなど眼中にない。
(どうすれば──)
セーグネルから「ここにいろ」と言われただけで、他に明確な指示もなく、シーナは眼下で気を失ったままだ。
「スレヴィアス上等兵!」
とにかくシーナを起こさなければ、と彼の肩を叩きながらカウルはシーナに呼び掛ける。
ブロロロロ。
しかし、そんなカウルの声をかき消して、敵の戦闘機のプロペラ音が辺りを覆う。
「っ!?」
上空を見上げたカウルの目に、『アマネ』の周囲をまるでたかるように旋回する無数の敵機の機影が映る。
(来る──!)
『アマネ』の対空砲火、そしてセーグネルの機銃が敵機を打ち落とすべく火を吹いているが、敵を撃退できていない。
バババババッ!
「わあっ!」
すると、カウルの右手側──『アマネ』の艦首から、破裂音とともに火花が散った。敵の銃撃である。
敵の機銃掃射の流れ弾が、そのまま右舷前方の海面に水柱の列を立て続けに上げる。
その衝撃に驚き、身を伏せるカウル。握っていた小銃が放り出され甲板の上を滑る。
(し、死ぬ……)
ばくばくと脈打つ心臓の音が耳元に聞こえる。
「ハア──ハア──」
手足に力が入らないカウルは、甲板に四つん這いになりながら、乱れる呼吸を落ち着かせようと試みる。
(こ、『鼓動』を──)
カウルは胴体の防弾装具に両の手のひらをあて、目をぎゅっと瞑り自分の両手に意識を集中させた。
ぱあ、とカウルの手のひらが光り、防弾装具にカウルの『心』がこもる。
生存可能性を高めるには、自身の身に纏うものに出来る限り『心』を込めて、その『存在』を他のものより優位にさせておく──つまり防御力を上げておくしかない。
次いでカウルは、頭に被る鉄帽や戦闘服に手を当てて、これらにも『心』を注入した。
『鼓動』に習熟した者なら、体表全体から『心』を放出することが出来るのだが、まだ新兵で『鼓動』が未熟なカウルは、自分の手からしか『心』を放出できなかった。
「ハア……ハア……」
なんとか精一杯、装備に『心』を込めたカウルであったが、
──ブウウン!
右舷の上空から、敵戦闘機が機首をこちらに向けて降下してきた。
「っ──!」
息を飲むカウル。
敵機は狙いを定めたように、カウルたちをいる右舷に真っ直ぐ突っ込んでくる。
──逃げ……
身を隠そうととっさに辺りを見たカウルであったが、掩体はすでに半壊し、その陰にはシーナがいる。
──このままでは、自分も、倒れたシーナもやられてしまう。
バッ!
生存本能か──とっさにカウルの手が甲板に転がっていた小銃に伸びた。
小銃を掴んだカウルは銃把を握り、すでに小銃に挿入されていた弾倉に左手を当てる。
カウルの手のひらから光が漏れ、弾薬に『心』が注入された。
そしてカウルは、ガシャン!と小銃の槓桿を引いて小銃を構えた。
銃口にある照星に敵機の機影が重なる。
「──ぉおおおおおっ!!」
無意識のうちに腹の底から発せられた雄叫びとともに、カウルは接近する敵戦闘機に向けて、小銃を連射した。




