第80話 空と陸の覇者(1)
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街に散らばった数十匹のゴブリン達。
それら全てを氷弾で撃ち抜いた。
もちろん被害がゼロというわけではない。それでも怪我人が数人程度で収まっているはず。
俺は「ふう」と一息つくと、重力に従って落下していった。
あとは、再び防御障壁を駆使して足場を作りながら地上に戻るだけだ。
そんな気の抜けた俺を戒めるかの如く、突然俺の体にブルルッと悪寒が走る。
またしても、嫌な予感。
それもとびきり大きな――
次の瞬間、未だ遥か上空にいる俺よりもさらに高い所から、一つの巨大な影が降りてくる気配がした。
――上か!?
そう思い顔を上げようとするが、それよりも早く、その巨大な影は物凄いスピードで真っ直ぐ下に降りてきた。
まるで俺の頭頂部目掛けて降りて来たかのようなそいつの風圧に、無慈悲にも吹き飛ばされてしまう俺。
しかし、それは幸運だったのかもしれない。
そうでなければ、俺はたちまちそいつと接触し、跳ね飛ばされ、命を落としていたかもしれないのだから。
「くっ……!」
強烈な風圧に吹き飛ばされてしまった俺は、顔を歪めながらも、何もない空間に防御障壁を展開。
同時に、片腕から植物の蔓を生やし、その防御障壁に巻きつけた。
これ以上吹き飛ばされてはたまらない。
まるで風に揺れる柳の葉のように体をなびかせながらも、空間に固定した防御障壁と、それに巻きつけた植物の蔓で耐え忍ぶ。
――この組み合わせもまた、ポポロミート杯でやったな。
確か、二回戦。レタリーさんの土属性魔法の泥沼から抜け出す時に。
彼女の顔を思い出すと同時に、翌日「プププ」と笑われ、下位互換だと言われた事を思い出す。
……あー。やっぱり、振り返るのやめやめ。
今はそんな事よりも、大事な事がある。
そう。文字通りの『一大事』に、今まさに直面しているのだから。
――眼下に見える光景に、俺は初め、自らの目を疑った。
しかし、すぐに納得した。
納得せざるを得なかった。
その巨体が起こす風圧に吹き飛ばされたのは、何を隠そう俺自身なのだから。
「……まじかよ……」
思わず、そんな弱気な一言が漏れてしまう。
美しいロータスの街並みに不釣り合いな暴力の化身――『ワイバーン』の姿がそこにあったのだ。
***
『ワイバーン』はドラゴンの一種である。
先日、マルヌスとガントが討伐したグリーンドラゴンが強靭な四肢を持っていたのに対して、ワイバーンは二本の後脚で立つ。
そして前脚は翼と一体化しており、さながらコウモリの翼のようになっている。
そのため、背に生やした翼で飛ぶグリーンドラゴンよりも、精密に翼をコントロールして飛ぶことができるのがワイバーンの特徴。
空でワイバーンと相対したグリーンドラゴンは、脇目も振らずに逃げ出すというのだから驚きである。
そして、空はもちろんのこと、ワイバーンは陸においても類稀な強さを誇る。
グリーンドラゴンに劣らない強靭な後脚と鋭い爪。
なんと言っても、自身の巨体をたった二本の脚で支えているのだから、そのパワーがどれほどのものであるかは想像に難くない。
地上でグリーンドラゴンと縄張り争いになっても逃げることなく、互角に戦うという。
これらの事から、ワイバーンは別名――『空と陸の覇者』と呼ばれる。
――先程まで舞台が上映されていた劇場は無惨にも、地上に降りたワイバーンの強靭な後脚によって踏み潰されてしまった。
***
突如、地上に降り立ったワイバーン。
バキバキッと嫌な音を立て、あっという間に潰されてしまった劇場。
その光景を目の前で見ていたマルヌ役の男は、起こった出来事に対する理解が追いついていないように、ただただ呆けていた。
――そしてそれは、同様にこの光景を見ていた街の人々も同じだった。
次の瞬間、そんな彼らを一笑に伏すかのようなワイバーンの雄叫びが響き渡る。
「ガアアアアアアアッ!!」
ビリビリと空間を揺らすその雄叫びは、理不尽なまでの力の差を、周りの生物に一瞬で理解させる。
街の人々の顔は即座に凍りついた。
そして――
「キャーーーー!!」
「うわああああ!?」
平和な休日のロータスの街は、一瞬で大混乱に陥った。




