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第65話 後日談(3)

「マルヌス先輩ですよね!?」


 不意に目の前に飛び出してきたのは、二人の女の子。


「あ、ああ。そうだけど」


 戸惑いながらもそう返す。

 当然だ。目の前の女の子達と俺は初対面なのだから。



 そんな俺とは別の意味で、彼女たちも落ち着きのない様子だった。

 あからさまにそわそわとしているのが見て取れる。

 そんな中、片方の女の子が意を決したように口を開いた。


「……あの、握手してもらってもいいですか!?」


()()()()、って……握手?」


 俺は恐る恐る右手を前に出す。

 すると、彼女たちは「はいッ!」と、思わずこちらが縮み上がってしまうほどのボリュームで返事をした。


 かと思えば、俺の差し出した右手を力強く握った。



 一人ずつ順に握手を交わすと、彼女たちは満足そうに笑う。

 そして「ありがとうございました!」と言って踵を返し、勢いよく走り去ってしまった。



 俺に敬語を使ってくる辺り、彼女たちは一年生なのだろうか。

 予期せぬ突風に吹かれた後のように唖然とする俺。

 そんな後ろ姿が面白かったのか、くすくすと言う笑い声が後方から聞こえてきた。



「あらあら! モテ期か?

 モテ期なのか少年!?」


 うっ。なんだこの、人を小馬鹿にしたような言い回しは……。

 ゆっくりと振り返ってみると、口元を手で抑えながらもにんまりと笑うシエルの姿があった。



「なんだかんだで知名度抜群になったもんね!

 昨日もかなりの人たちが応援してくれてたし、こうなっちゃってもしょうがないよね?

 いやはや、人気者は辛いですなあ!」



 相変わらずの調子でそう茶化してくるシエル。

 もうお前が『好きとかわからない』とか言ってたのは忘れることにするよ。

 めちゃくちゃわかってるじゃん。

 まあでも、この場合は所謂()()とはちょっと違うか。


 それにしても。

 さっきの女の子達はシエルの言う通り、俺に憧れを抱いてる的な事だったりするわけ?

 まさかあ!

 いや、まさか……。


 俺は改めて、あの女の子たちと握手した右手をまじまじと見つめた。



 小さくて、柔らかくて、暖かいあの感触。

 思えば、いい匂いもした気がする。

 ――まさか、この手にもあの匂いが……ッ!



 俺は無意識に、ゆっくりと右手を上げ、鼻の近くに近づけていく。

 そんな様子を見ていたシエルの「やめなさい馬鹿!」と言う声に、ハッと我に帰った俺は慌てて右手を下げた。



「全くもう。鼻の下伸びてるよ?

 ポポロミート杯準優勝者がそれじゃ、格好つかないよ?」


 それもそうか、と少し焦った。


 確かに今の顔をガントとかに見られたら、あっという間に叩き伏せられそうだ。

 仮にも勝者として、ガントたちに恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。



 ――と、心ではわかっているものの、まだ名残惜しい。

 とりあえずしばらく手は洗わないでおこう。


 なんて事を考えているとは露とも思わないであろうシエルは、くるりと軽やかに身を(ひるがえ)しながらも口を開く。



「あーあ。いつの間にかマルヌスはみんなに認められちゃったわけだね。

 なんか寂しいなあ……なんてね!」


 そう言って振り返りざまに笑うシエルの言葉に俺は首を傾げた。


 多分シエルが思っているほど俺はみんなに認められてはいないと思うぞ。

 現に今日一日浴び続けた周りからの視線は、決して好意的なものだけではなかったはずだ。



 しかし、シエルはそんな俺の怪訝な顔など気にせずに、先ほどまでの溌剌(はつらつ)とした声のボリュームを少しだけ落として訊ねてくる。


「――そんなことよりさ。この後、時間ある?」



 少しだけしおらしくそう問いかけてくる彼女に、トクンと俺の脈が力強く跳ねた気がした。


 予期せぬお誘いが飛び出した彼女の口元に視線を向ければ、そこにあるのは彼女の健康的でハリのあるピンク色の唇。

 その上下が少しだけ隙間を作っており、絶妙な色気を醸し出している。



 出会った時から確かに美少女だとは思っていた。

 思っていたのだが――。

 シエルって、こんなだったっけ?



 自らにそう問いかけ、まるで笑い話のように誤魔化そうとするが、それでも誤魔化しきれない色気が確かにそこにあった。



「べ、別に平気だけど……?」


 先程の一年生と思われる女の子達を目の前にした時とは比べものにならないほどに動揺している。

 しかし、その動揺を悟られまいと必死に冷静を装って、精一杯強がった返事をした。



***



「委員長ー! 連れてきたよー!」


 前方に見える委員長に向かって手を振るシエル。その後をついていくように、とぼとぼと歩く俺。

 ここは学園の敷地内の広場。

 よく中級魔法の実習の時間に訪れる、自動魔法吸収の魔法がかけられた芝生が生い茂る広場だ。



 ――わかってた。どうせこんなことだろうと。


 自嘲的に笑う俺を見て「どうしたのこいつ?」とシエルに訊ねる委員長。

 それに対して、投げられたボールをそのまま横にパスするかの如く「どうしたのマルヌス?」と聞いてくるシエル。



「なんでもないよ。……なんでも」


 そう、シエル。君は悪くない。委員長も。

 悪いのは俺の(よこしま)な心なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ディックの魔法を貫いたマルヌの魔法が気になるところだけど、マルヌの男子的なスケベ心が笑えますなぁwww 仕方ないよね!健全な男子だし!www
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