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第52話 魔法の杖(1)

***



「始まるね」


「!?」


 観客席で試合を見守るシエル、レビィ、委員長。

 そんな彼女たちに話しかけるような女性の声に、三人は顔を向ける。


「会長さん!?」


 そこにいたのは、生徒会会長のアルテア・スノウだった。


「一緒に見させてもらっていいかい?」


「それは別に、構わないですけど」


 怪訝な顔をしつつもそう返す委員長の言葉に、にこりと優しい笑みを浮かべたアルテアは、「ありがとう」と言って三人の隣の席に着いた。



「会長さんも二回戦進出ですよね? おめでとうございます!」


 少しだけ前のめり気味に上半身を倒し、目を輝かせながらそう言うシエル。

 そんな彼女の様子に、「ふふっ」と小さく笑うアルテア。


「ああ。先程の第八試合に出場していてね。

 なんとか勝ち進むことができたよ」


 その言葉とは裏腹に、アルテア自身には苦戦した様子も無く、()()が窺い知れる。

 流石は優勝候補の一人といったところか、と委員長は額に汗を滲ませた。



「試合が終わったばかりなので、急いでこちらに来たのだが、すぐに見知った顔が並んでいるのに気づいてね。

 席が空いていてよかったよ」


 アルテアの言葉に疑問を持った委員長は、隣のレビィの耳元に顔を近づけ、小さな声でコソッと訊ねる。



「アルテアさんと顔見知りなの?」


「……前に、マルヌスの事を生徒会に勧誘してて。

 そのときにちょっと話した」


 レビィの返事に驚いた様子の委員長だったが、すぐに呆れ顔になって呟く。


「……いつぞやのリブ・ステイクス達といい、あいつ、一体どんな人脈してるのよ」



***



「試合開始!」

 

 オレガノの合図で、会場中の視線がステージに立つ二人に注がれる。



「レタリーさんは生徒会で書記係なんですよね?

 どんな人なんですか?」


 シエルは試合に目を向けつつも、アルテアにそう訊ねた。

 それに対して、アルテアはゆっくりと口を開く。


「――彼女は、()()だよ」




 手にした本に何かを書き込んだレタリー。

 同時に、彼女の前に『一つの火球』が浮かび上がる。

 そしてそれは即座に、マルヌスに向かって真っ直ぐ飛んでいく。


 マルヌスは防御障壁を展開して迎え撃つ。



 それを見るや否や、レタリーは再び本に何かを書き込んだ。


 すると、レタリーの放った火球は防御障壁にぶつかる直前で動きを停止。

 かと思えば、火球はたちまち『六つの小さな火の玉』に分裂した。



 六つの火の玉は中央から放射状に広がる。

 マルヌスの防御障壁を中心に包み込むような軌道で、弧を描きながら進む。

 マルヌスの防御障壁を華麗に躱したのである。


 そうして六つの火の玉は、軌道はそのままに、再び中央に集まるようにしてマルヌスに向かっていく。




「あの魔法、持続型!?」


 委員長は思わず声を荒げた。




 ――魔法は、その性質によっていくつかのタイプに分けられる。

 その際、一番大きな分類として挙げられるのが、『放出型』と『持続型』である。



 『放出型』とは読んで字の如く、形成した魔法を放出するもの。

 放出された魔法は、その時点で術者の手を離れ、独立した物となる。

 マルヌスの魔法で言えば、氷の弾丸はこれに該当する。



 他方で『持続型』とは、一度形成した魔法を維持するために、絶えず魔力を流し込む必要があるものを指す。

 術者が魔力を流し込んでいる間、その魔法は形を保ち続け、術者が魔力を切るのに合わせて、魔法も消える。

 マルヌスの魔法で言うと、防御障壁がこれに当たる。



 そしてこの性質上、持続型の魔法には特有のメリット、デメリットが存在する。



 まず、デメリット。

 持続型は魔力を流し続ける必要があるため、必然的に術者はその魔法を維持する間、その属性の魔力を練り続ける必要がある、ということ。


 一回戦の試合中、観客席でシエルがガントに説明していたマルヌスの強さの秘密――『複数属性魔法の同時使用』には、これが深く関係する。


 光属性に分類される防御障壁を維持するため、光属性の魔力を練り続ける一方で、同時に氷属性の魔力を練って氷弾を放つ。

 マルヌスがガントにとどめを刺した技だが、一般的にはこれが難しいのである。



 次に、メリット。

 持続型魔法が形を保っている間は、術者と魔法との間で繋がりが切れていないため、術者による後天的なコントロールがある程度可能である、ということ。


 今しがたレタリーが見せた、火球のコントロールがまさにそれである。


 一般的に火球を発射する魔法は放出型に分類される。


 しかし、レタリーの火球は、防御障壁にぶつかる直前で動きを停止し、六つの火の玉に分裂し、進む軌道が変化した。

 これは、魔法が形成された時点ではインプットされていなかったはずの動き――すなわち、術者による後天的コントロールである。




「おお!?」


 マルヌスは、防御障壁を躱して自分に向かってくる六つの火の玉を避けるために、横に飛び退こうとする。

 ――が。


「ッ!?」


 彼はその場から動くことができなかった。

 地を蹴って横に飛び退くつもりだったのだが、その直前、彼の足元の地面がドロリと液体のようになったのだ。


 地面に沈み込む足。重たい泥がまとわりついて、思うように足が動かせない。

 これはレタリーによる土属性の魔法であった。


 避けることができないと悟ったマルヌスは、水属性の初級魔法――水の玉を六つ、即座に撃ち出す。


 それらが、迫り来る六つの火の玉に命中。

 ジュッ! という激しい音と白い蒸気を上げながら、火の玉と水の玉は互いに相殺されて消えた。




 観客席でその光景を見ていたシエルは驚きを隠せなかった。


(火属性と……土属性!?)


 持続型の六つの火の玉を維持しつつ、土属性の魔法でマルヌスの動きを制限する。


 これはまさに、マルヌスがやってみせたのと同様に『複数属性魔法の同時使用』であった。

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