第44話 波乱の初戦(2)
「――おい、あいつ結構やるじゃないか」
「たまたまだろ。すぐにやられるさ」
「お前だったらあんなに戦えるか?」
「無理無理」
「ていうか、風紀委員長と当たるってわかった段階で棄権するっての」
「そもそも怖すぎて参加すらしねーわ」
「大した技使ってないじゃん」
「お前何を見てたんだよ。問題はあの射出速度だろ」
「いや、あの防御障壁の方がやばいだろ」
「一瞬で何枚か出してた気がするけど」
「四枚?」
「いや、五枚だった!」
「いやー、観客席もざわついてるねー。
どう思う? オレガノ」
「……あのマルヌスって子、すごいね。
確かに、攻撃は当てれていないけど、逆にガントの攻撃も避け続けている。
それを可能にしているのは、彼の反射神経もさることながら、なんといっても防御障壁を形成するスピード。
それがなきゃ、剣士相手にあれだけの接近戦はまず無理だ。
――それでも、ガントが凄すぎる。
あの速度の魔法攻撃を全部いなしてるんだから。
やっぱり、ガントが優勢だと思うよ」
「なるほどねー。
以上、実況解説のオレガノさんでしたー、なんてね」
「ッ!?」
「マイクあるの忘れてた? 全部拾ってるからねー?
……なんだかんだで、ノリノリですなー?」
「そっ、そんなことは――ッ!」
「まあまあ、いいじゃないの!
それよりさ! 彼、これからどうするのかな?」
会場中に響き渡るマリーさんとオレガノさんの会話を聞き流しながら、俺はガントの攻撃をかろうじて避け続けていた。
これが試合中でなければ、二人のキャッキャウフフな会話をじっくり楽しみたいところなのだが、生憎そんな余裕はなかった。
ガントの繰り出す素早い追撃。
それに対して、防御障壁をクッションにして勢いを殺す事で、なんとか紙一重で躱しているものの、これでは一向に攻撃に転じれない。
なにより、俺の運動能力が限界だ。じりじりと追い詰められて、いつか捉えられてしまうだろう。
くそ、もう少し体を鍛えておくんだった。と言っても、多少鍛えたところでガント相手には無駄だっただろうが。
何はともあれ、現状を打破するためには、一度距離を取らないと。
手のひらで、球体状に魔力を溜め込んでから放つ。
手をかざした方向に凄まじい風が射出される。
それと同時に俺の体は、射出された風と逆方向に吹っ飛ぶ。
これぞ、風属性の初級魔法を応用した高速移動だ。
これでうまいこと距離が取れる――はずだった。
俺の風魔法による高速移動に対して、ガントは地面をグッと踏み込むと、力強く蹴り、たった一歩で俺に追いついて来た。
嘘だろ。いくらなんでも、身体能力が化け物すぎる。
俺は吹っ飛ぶ勢いそのままに、片足でかろうじて地面を蹴りながら、再度風魔法を放つ。
少し減速していた体が、再び勢いを取り戻して吹っ飛ぶ。
しかし、まるで同じことの再現だった。
ガントは再び力強く地を蹴り、あっという間に俺に追いつく。
くそっ! 俺のは無理やり吹っ飛んでいるから、体への負担も大きい。
一方で、ガントはたった二歩、強く踏み込んだだけ。
――神よ。こんな不公平な世の中で良いのですか。
ええい、こうなったら、一か八かだ。
俺は再び魔法射出準備をとる。しかし今度は風魔法ではない。
二度の吹っ飛びにより体勢は崩れ、もはや、めちゃくちゃな姿勢で宙に浮いている俺の体。
しかし、それは二の次だ。どうせ、あまり関係がない。
ガントの次の着地点と思われる地面に目掛けて魔法を放つ。今度は――火属性だ。
それは地面に着弾すると同時に、小規模の爆発を起こした。
小規模と言っても、至近距離で食らえば、その威力は強大で。
巻き起こった爆風で、俺の体は再び宙高く吹っ飛ばされた。
「……けほっ!」
空中でなんとか体勢を立て直して着地した俺は、爆発で立ち上った砂煙に、思わず小さな咳を漏らした。
そんな砂煙の中に、ゆらりと立つ一人の男の影。
あの様子だと、ガントはほとんどダメージを負っていないだろう。フィジカルモンスターめ。
俺の起こした爆発だが、おそらく、俺の方が受けたダメージは大きそうだ。
ふと首に下げた魔石に目を移す。
砕けてしまうような様子は見受けられない。まだ大丈夫だな。
一方で、体に感じたダメージはきちんと残っている。
考えてみれば当たり前のことかもしれないが、自動魔法吸収といっても、本人が感じるダメージがゼロになるわけではない。
仮にダメージがゼロになってしまうのならば、捨て身の特攻みたいな事もできてしまう。
そうなると競技にならないからな。
あくまで、体の一部を欠損するようなダメージを負っても、実際には欠損しなくて済む、ぐらいのものなのかもしれない。
そう考えると改めて、出場者が少ないことにも頷ける。
うん。――ちゃんと痛い。
ともあれ、半ば捨て身の爆発のおかげで、ガントとの距離は取れた。
このチャンスを活かさなければ、俺の勝ちはないだろう。
徐々に晴れていく砂煙の向こうに立つガントに向かって、俺はゆっくりと手をかざした。




