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第30話 久々のギルド(2)

***



「――あらよっと!」


 ドスドスと駆けて来るイービルボアに対して、ハンターの男は、両手で握った大きなハンマーを盛大に振り抜いた。


 それはイービルボアの額を直撃。

 直後に、ドォン! という大きな音が響き渡る。

 その衝撃は振動となり、大気を揺らして、少し離れたところで見ていた俺の腹の底にも低く伝わってきた。



「ブオオォォッ!!」

「いってぇッ!」

 


 脳天をかち割られたイービルボアの悲鳴が響く。

 同時に、反動で思わずハンマーから手を離す男の叫びも。


 ハンマーが地に落ちた。続いて、イービルボアがその巨体を地に伏した。



「どうだい? 僕たちの連携にかかれば、あの凶暴なイービルボアもこの通り! ……ハァハァ……」


 リーダーと思われる男が、肩で息をしながら、それでも相変わらずのキザったらしい声色を崩さずに、フフンと鼻を鳴らす。



 彼らの戦法は至ってシンプルだった。

 囮となる一人が引きつける。その囮を追って駆けてくる魔物を、その先で準備している仲間が攻撃する。それの繰り返し。



 イービルボアは巨大な猪の魔物。

 その特性は、目の前にチラつく標的に向かって、ただただ突進してくるというもの。

 文字通りの()()()()だ。


 イービルボア自体の知能は低く、単純な行動パターン。

 だがそれでも、厳しい野生を生き抜くには十分なフィジカル。

 単純なる(ちから)の化身だ。


 しかしそんなイービルボアだからこそ、彼らの戦法は有効だったと言えるだろう。

 攻撃する者は、すぐに身を隠せばイービルボアに襲われることはない。

 しかもイービルボアの向かってくるパワーを利用して、少ない力で大ダメージを与えることも可能。

 


 しかし、まさかあれだけ気取っていたリーダーの男が囮役だとは思わなかった。

 彼は攻撃には一切参加せず、ひたすらに逃げ回っていた。


 ……いや、逆に一番危険で重要な役割と言えるか。



「お疲れっした」


 俺はリーダーの男に労いの言葉をかける。

 お世辞にもスマートとは言えないが、それでも結果は勝利だ。

 ただしリーダー含め、勝利に浮かれるハンターの達と俺との間に温度差がある事には目を瞑ってほしい。


 ――そしてどうやら、そんな彼らと温度差があるのは俺だけじゃないようだ。



 俺と共に強引に連れてこられた大剣の男。

 彼は倒されたイービルボアの亡骸に駆け寄ると、脇目も振らずに、一人で解体作業を始めた。



「おーい、少年! どうしたんだそんなに慌てて」

「勝利の余韻にくらいひたろうや!」


「うるさーーい!!」



 大剣の男はこちらに背を向けたまま一喝する。


「イービルボアが死んでから、刻一刻と時間は流れる! それと共に細胞が腐敗してゆく!

 早く解体しないとダメだろうが!」


「だから何をそんなに慌ててるんだ!?」


 その声色につられて語気を荒げるハンターの男。

 対して大剣の男は、間髪入れずに叫び声を上げた。



「肉は鮮度が命だろうがぁぁッ!!」


 肉ーーッ!?



 ――彼の言う通り、魔物は()()()

 魔物とは、体内に魔力を秘めてはいるものの、基本的には一般的な動物と同じだ。

 ちなみに、内蔵する魔力量には種族差もあるので、全ての魔物が必ずしも魔法が使えるとは限らない。


 なので、魔物だからといって食べても害はない。

 勿論、中には毒があるものもいるし、およそ自然界のものとは思えない(なり)をした例外的な奴もいるにはいるが。


 確かにイービルボアの肉は珍味として知られている。

 俺も山に住んでいる時にはお世話になった。

 このクエストは討伐依頼なので、魔物から取れる素材は受注者の好きにして良い。


 彼の狙いは初めから肉だったのか……。



 彼のあまりの気迫に押され、全員が口をつぐんだが、それも束の間。

 ハンターの男達はわらわらと彼の元に向かってゆく。

 


「お前、何言ってんだ!?」

「だいたい、俺らが狩った獲物だろうが!」

「俺たちより先に取るんじゃねぇよ!」

「そうだそうだ!」


「だまれ! そもそも、無理矢理俺を巻き込んだのはそっちだろうが!

 俺は(はな)から一人で狩りにくるつもりだったんだ!」


「それを俺らが助けてやったんだろうが!」

「ありがたく思うところだろうが!」

「そうだそうだ!」


「頼んでない!」

「まあまあ、君たち、落ち着きたまえ!」



 リーダーが嗜めようとするが、お互いに引く気は無いとばかりに睨み合う彼ら。

 そんな様子を離れたところで見ている俺。


 流石に皆、いい歳だ。話し合いで折り合いをつけるだろう。

 そう考えれば、先程までの命のやり取りに比べ、平和な光景だ。



 そんな事を考えていたのだが、不意に訪れた不穏な気配に、俺のその呑気な考えは吹き飛んだ。



 ガサガサと騒がしく揺れる草木。

 一斉に飛び立つ鳥達。

 地面を揺るがす様々な足音。


 何か、巨大な集団が近づいてくる――ッ!



 先程までの言い争いをやめ、皆一斉に構える。


 あの茂みから出てくるはずだ。


 ――来た!



 ファットラット、ブルヘッドオオクワガタ、キラービー、野ウサギ。

 ポイズンリザード、蛇、ホースディアー、フォレストシープ。

 猿、鳥、ワイルドウルフ、イービルボア……。



 無数の動物や魔物達が入り乱れて向かってくる。

 しかしそれらは、俺らを無視して駆け抜けていく。

 まるで、何かから逃げるように。



 ドシンッ! ドシンッ!


 続けて聞こえてくる、一際大きな足音。



「……う、嘘だろ……?」


 手にした剣をカランと落とし、力なく呟くハンターの男。


 俺らの前に現れたのは、幻獣種――グリーンドラゴンだった。

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