第29話 久々のギルド(1)
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週末を迎え、俺は久しぶりにロータスの城下町にあるギルドに向かうことにした。
最後に行ったのはいつだったろうか。それこそ12年前の魔王討伐の時が最後だったかもしれない。
ブロル山に住んでいる間は、ロータスとは逆の麓に降り、そちらの最寄りのギルドで依頼をこなして、収入を得ていた。
そこはあまり人の出入りが無い小さなギルドで、こじんまりと落ち着いた雰囲気が気に入っていた。
賑わう城下町を抜けた先にあるロータスのギルドは、俺が通っていたギルドよりも遥かに大きな建物。
木製のスイングドアを押し開き中に入ると、途端に香るアルコールの匂いに、思わず鼻をつまむ。
真昼間だというのに、ビール片手に樽の机を囲む屈強な男達。
幼い記憶が蘇る。そうだった。こんなだった。
ロータスのギルドは、さながら酒場のような雰囲気だった。
「よう小僧。見ねえ顔だな。おじさんと一緒にドラゴン退治でも行くかい? へへへ」
酒臭い男の呼びかけを無視して進む。
あんたが幻獣種のドラゴンを退治するだって? 笑わせるな。
只でさえ、飲酒した者は酒が抜けるまでクエストには出れないって決まりがある。この男は端からクエストに出る気なんか無い、ただの飲兵衛だ。
酒を提供しているカウンターの反対側にある、クエストの受付カウンター。
その横に設置された掲示板に貼り出されているクエスト一覧を眺める。
クエストは貼り紙としてこの掲示板に貼り出されており、受注したいものがあったら、その貼り紙を剥がして受付に持っていく。
そこで、ギルドライセンスを提示。クエストの難易度と実力が釣り合っているか判定され、認められれば晴れて『受注』となる。
まずは肩慣らしだな。
かといって、簡単すぎても意味がない。
……おっ! このイービルボアの討伐なんてのは丁度いいかもしれない。
俺はそのクエストの貼り紙に手を伸ばす。
すると、貼り紙に触れる直前で、別の誰かの手とぶつかった。
驚きながらその手の主を見ると、俺とそう変わらない歳であろう男だった。
相手の表情を見るに、彼も俺と同じように驚いている様子だ。
「……お前も、これ狙いか?」
先に声を上げたのは相手の男。
俺とは対照的に、鍛え上げられた筋肉と、背負っている大きな剣が特徴的で、歳のわりに素人臭さの無い男だ。
俺は両手を広げて、ゆっくりと首を横に振る。
「いや、俺は別にこれじゃなくてもいいんだ」
「んー? どうした少年達?」
そんな俺らの後ろから、不意に別の男の声が聞こえてきた。
顔だけそちらに向けて見ると、こちらに向かってくる五人の男達。その先頭に立つ男が先程の声の主のようだ。
皆、三十代くらいだろうか。熟練のハンターを思わせる出立ちの彼らは、俺らの元まで来ると、掲示板に目を向けて、代わる代わる口を開く。
「ふむ。君たち、イービルボアの狩りに行こうとしているのだな」
「やめた方がいい。あいつら、新人狩りの異名を持つ荒くれ者だからな」
「お前らだけで行って返り討ちにあっても、誰も助けてくれねーぞ?」
わはは、と声高く笑う男達。こいつら、完全に舐めきってるな。
すると、リーダーと思われる先頭の男が、笑う仲間達を静止する。
「こら。若者の勇気ある挑戦を笑うんじゃない。
そうだ。君たち、我々と一緒に行こうではないか。
ベテランの技を直々に見せてあげよう!」
……こいつのこの表情、マジだ。
こいつだけは、マジで親切のつもりで言ってる。
そんな俺達の様子を見ていた受付の女性が、カウンターから身を乗り出して声を上げる。
「それは認められません!
彼等がイービルボアに挑めるだけの実力を持っているか、きちんとライセンスタグを確認させてもらわないと!」
「そう固い事言わないでくれよ。僕の名前に免じてさ!」
「そういう訳には……!」
妙にキザったらしい言動は鼻につくが、受付嬢とのやりとりを見るに、この男、ある程度は名の知れたハンターのようだな。
そうした押し問答の最中、困った様子の受付嬢の奥から、一人の高齢な男性が出てきた。
「いいじゃないか。彼等からすれば、さほど難しい標的でも無い」
「ですが、マスター!」
にこやかに微笑む高齢の男性。
どうやら彼はロータスのギルドの『ギルドマスター』らしい。
「ギルドマスターのお許しが出たんだから、問題ないね?」
ハンターの男は、俺と大剣を背負った若者との間に入ると、強引に肩を組んでくる。
あれよあれよと流されるまま、俺らは一言も発する事なく、ハンターの男に引きずられていく事となってしまった。
***
――マルヌ達の後ろ姿を見送りながら、受付嬢は口を開く。
「……いいんですか? 行かせてしまって」
そんな彼女の様子とは対照的に、にこやかな表情を崩さないままのギルドマスター。
「君、ここに来てどれくらいだったっけ?」
「まだ十日目ですね」
「そうか。なら知らなくてもしょうがない」
ギルドマスターはククッと小さく笑う。
「彼等……あの二人ならば、イービルボアの単独討伐も容易いという事だよ」
「あの二人……? ――まさか!?」
何かを察した受付嬢の様子に、小さく頷くギルドマスター。
「それにしても一人、懐かしい顔があったなぁ……」
ギルドマスターはポツリと呟き、昔を懐かしむように遠くを仰ぎ見るのだった。




