第28話 情報収集(4)
「あー! 居候くんだ! やっほー!」
リブの後ろから、昨日の紫ショートボブ先輩がひょっこり顔を出した。
悪戯っぽい笑みを浮かべながらヒラヒラと手を振っている。
その横で、同じく昨日のグレーポニテ先輩が手を上げ、「よ!」と軽い挨拶をしてくる。
そんな先輩達の唐突な登場に驚きつつも、俺はリブを見据えて口を開く。
「聞いたよ。ポポロミート杯、二年連続優勝者なんだってな、リブ」
「何かと思ったらその話?
当然よ。ギルドランキング9位を舐めないでよね」
その事自体を特に鼻にかけるでもなくそう言い切るリブ。
確かに、ギルドランキング9位のリブが、学園の行事の、とりわけ『戦闘』という分野で、1位をとれない訳がない。
「……マルヌス。
あんた、リブ・ステイクスと知り合いなの?」
「まあ、ちょっとね」
コソコソと耳打ちしてきた委員長に、一切を省いた手短な返事をする。
そんな俺らの様子に、リブは不機嫌そうに口を開いた。
「なによ。編入早々、楽しそうじゃない?
女の子達に囲まれて、いい御身分だこと」
「そ、そんなんじゃねーよ!」
――と言いつつも、確かに、この状況だけ見ればその通りなのか。
「えー、なになにー?
みんな、居候くんの事好きなのー?」
紫ショートボブ先輩が嫌らしい笑顔で、シエル、レビィ、委員長の顔を伺う。
その歯にきぬ着せぬ物言いに、一瞬ドキッとした俺。
他方で、それに対するみんなの反応は、俺が思うよりも遥かに冷ややかなものだった。
委員長は「はぁ?」とでも言わんばかりの呆れた顔を浮かべている。
レビィは無表情で、ただただ首を左右に振る。
シエルは「そんな訳ないじゃないですかー」と軽くいなす。
「なんだー。つまんない……」
そう言ってぶー垂れる紫ショートボブ先輩。
なんだよ。あんたの気まぐれのせいで、ただ俺が寂しい思いをしただけじゃないか。
見かねたグレーポニテ先輩が、俺の肩にポンと手を置く。
「ごめんな。ああいう奴なんだ」
「何がっすか? 平気っすよ?」
くそう。なんだか変な反応になっちまった。
「っていうか、居候ってなんの事?」
不思議そうに俺に訊ねてくるシエル。
それを聞くなり、再び嫌らしく口角を上げる紫ショートボブ先輩。
「ふふ。この子ねー、リブちゃんの家に住んでるんだってー」
「ちょっと、マリー!?」
その言葉に、リブは慌ててそう返した。
――どうやらこの紫ショートボブ先輩は『マリー』さんと言うらしい。
「ええ!?」
「……不純な……関係?」
「ねーよ!」
「ないわよ!」
反論がリブと被ってしまった。
それにしてもレビィ、無表情のままサラッと爆弾を放り投げてくるな。
シエルは顔を赤らめて驚嘆の声を上げていたが、一瞬で変な勘繰りをするんじゃない。
そもそもお前、『好き』とかわからないんじゃなかったのか?
「ちょっと事情があって、ロータス城の部屋を借りてるだけだ!」
「……それ、もっとすごい事なんじゃ……?」
俺の弁明に、何かを呟き首を傾げる委員長。
よく聞こえなかった。無視しよう。
掘り下げて余計に面倒なことになっても嫌だし。
「――というか、あなたも出るつもりなの?
ポポロミート杯」
「そうだけど」
俺の返事を聞くと、リブは「そう」と小さく呟き、ニヤリと笑う。
「あなたは必ず私が倒すわ。
だから絶対、私に当たる前に負けるんじゃないわよ。
……マルヌス」
リブはそれだけ言い放つと、颯爽と去っていった。
俺の偽名はサーロンから聞いたのだろうか?
皆の手前、俺を偽名で呼ぶリブだったが、その呼び掛けには何か別の意味があるような気がした。
ギルドランキング10位、マルヌ・スターヴィンとしての実力を見せてみろと言う事だろうか。
そして、何だか妙に嬉しそうな表情が気にかかる。
そんなに俺を打ち負かしたいのだろうか?
……少し、寒気がしてきた。
「えーもう行っちゃうのー?
まだマルヌス君達と話したいー!」
「ほら、いくよ!」
「離してよーオレガノー!」
グレーポニテ先輩――『オレガノ』さんに引っ張られていくマリーさん。
――なんだか、嵐が去った後のように、どっと疲れた気がする。
「……あんた、とんでもないのに目をつけられてるわね」
俺と同じように疲れた顔で、去っていく先輩達の姿を見送りながら、委員長がポツリと溢す。
「何の事?」
「あの人達、剣術科でも有名な三人組よ。
ほら、周りを見てごらんなさいよ」
そう言われて辺りを見回すと、食堂にいる生徒達が目に入るが、彼らの反応は様々だった。
ただただ見惚れている者。
頬を赤らめて呆けている者。
反対に、青ざめた顔で固まっている者。
両肩を抱き、ガタガタと震えている者までいる。
「……いろんな意味で、怖い人達」
レビィの言う通りだ。
委員長なら細かい事情も知っているかもしれないが、怖いのでこれ以上は聞かない事にする。
「あ、そろそろお昼休み終わっちゃうよ! 戻ろっか!」
時計に目をやったシエルがそう言うのに合わせて、俺らも教室に戻ることにした。
***
放課後、委員長の手も借りながら、なんとかポポロミート杯の出場手続きを終えた。
出場資格として、担任の先生からの推薦状が必要と言われたので、ダーリィ先生の教授室に行ってみると、二つ返事で了承してくれた。
普通に考えれば、編入二日目でこんなお願いをする奴なんか、門前払いを喰らうのがいいところだろう。
あらかじめ俺の素性について、サーロンから話がいっていたのが幸いしたのだと思う。
さて、これでいよいよ俺も、学園の強者が集う戦いに参加することとなった訳だ。
いざそうなると、祭りの前のようにソワソワしてくる。
同世代の人間と実力を競う真剣勝負。そんな経験は初めてだからだろうか。
恐怖、不安、焦り。それらがないわけではないが、それだけではない。
先程のリブの言葉を思い出す。
『あなたは必ず私が倒すわ。
だから絶対、私に当たる前に負けるんじゃないわよ。
……マルヌス』
……そうだよな。
ギルドランキング9位のリブがこの学園で二年連続の優勝者なのだ。
だったら俺はランキング10位として、少なくとも、学園で2位にはなっとかないといけないよな。
いずれにしても、万全な状態で臨まねば。
戦いの勘を高めるための準備をしておきたいところだ。
週末は久しぶりに、ギルドにでも顔を出してみようか。
以上で第二章が終了となります。
面白い、続きが気になると感じていただけましたら、以下の☆☆☆☆☆にて評価をいただけると嬉しいです。
執筆のモチベーションになります!




