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07.5悪役令嬢の兄の独白

僕の名前はエドワード・リンスレット。リンスレット公爵家の嫡男だ。

僕には秘密がある。実は僕には前世の記憶というものがあるのだ。それに気が付いたのは可愛い妹のイヴがこの国の皇太子殿下の婚約者に決まった時だ。その瞬間まるで雷に打たれたかのような衝撃が走った。


前世の僕は日本という国で細々と生きていた。家族はいなくて施設で育ち、人付き合いが苦手で恋人も友人もいなかった。唯一の趣味がゲームで、ありとあらゆるタイプのゲームをやりこんでいた。そして最後に僕がやっていたゲームが『ローズロマンティックスレッド』。女性向けの恋愛シミュレーションゲームでさまざまなイケメン攻略対象と恋をするといういわゆる乙女ゲームというやつだ。なぜそれを男の僕がやっていたかというと、このゲームは登場人物たちが魔法を使ってバトルするというアクションゲームの要素があったからだ。そのバトルシーンは有名なアニメ映画と遜色ないクオリティで、ネットでもかなり評判だった。僕もそれを見てみたくて始めたのだが、結局いつの間にかはまってしまい、すべての攻略対象の全エンドをクリアした。そして、その祝杯をひとりであげるべくコンビニにチューハイでも買いに行こうとして事故に遭い死んでしまった。


神様がどんな慈悲の思いで僕を転生させてくれたかは知らないけれど、少なくとも大して目をかけてくれたわけではないと思う。転生先は僕がやっていた乙女ゲーム『ローズロマンティックスレッド』の舞台であるムーンダスト王国。こういうときってたいていの異世界転生ものだと主人公とかイケメン攻略対象のひとりとかになるはずだろう。だけど、僕は違った。ゲームでは名前すら出てきたかどうか怪しいモブキャラだった。しかも最悪なことにモブの中でも悪い側のモブだ。だって僕はヒロインをとにかくいじめて殺そうとする悪役令嬢の兄だったから。


でも前世で家族に恵まれなかった僕にとってはこの世界の両親も妹も命よりも大切な存在だ。なによりゲームと違って妹のイヴはとても可愛くて、僕にすごく懐いてくれていて、素直で良い子で・・・。とても悪役令嬢だとは思えなかった。殿下とイヴの婚約もいずれは解消される予定だと父上は言っていたから、もしかしたらこの世界はゲームと似た別の世界なのかなと僕は安心していた。


殿下と僕は同じ年だったし、公爵家を継いで将来は殿下の右腕として働くことを期待されていたから幼いころから殿下とよく遊んでいた。ゲームの通りの天使みたいな容姿の殿下はそのころからキラキラしていた。


イヴは婚約当初はまだ3歳だったので家から出ることはなかったから殿下を知らなかったが、いずれ恋をしたら大変なことになる。可愛い妹が悪役令嬢としていずれ断罪されるようなことはなんとしても阻止したかった。だから、念のためにイヴにはそれとなく殿下の変な癖や失敗談なんかを聞かせ続けて残念な男であると印象付け続けた。


少し成長して僕と殿下が10歳ほどになると殿下はイヴに手紙を送ってくるようになった。仮の婚約者である二人はなかなか会う機会がなかったからだろう。最初はひと月に1、2度程度のやり取りだったが、それが年々頻度が増えた。


忙しい殿下が私のために頻繁に手紙をくれるなんて・・・好き!


と、イヴが思ったら大変なので僕は殿下からの手紙をイヴには10通に1通くらいのペースで渡した(15通に1通くらいだったかも)。


そして殿下からの手紙にはプレゼントが付いていることもあった。最初は綺麗な花だとかハンカチだとかその程度だったが、次第に眩い宝石のついたジュエリーになっていった。


麗しい殿下が私のためにこんなに高価なジュエリーをくれるなんて・・・好き!


と、イヴが思ったら大変なので僕はそれらをすべて城下の民族商品店で購入した呪いでも込められていそうな不気味な木彫りの置物に交換してイヴに渡した(おかげでその民族商品店のお得意様に認定されている)。


その甲斐あってイヴは15歳の今でも殿下に恋をすることなく清く美しく可愛らしく育った。だけど、婚約は続いている。イヴは殿下が好きじゃないし、リンスレット公爵家も婚約解消を心待ちにしている。それなのになぜ、王家は婚約を破棄してくれないのか。まるでゲームのシナリオに沿うように補正されているかのようでぞっとした。


早く婚約を破棄してもらわなければ。

もうすぐゲームのヒロインが登場してしまう。

イヴの悪役令嬢人生がスタートしてしまう。


僕はついに両親とイヴに自分が転生者であることを告げ、イヴの脱・悪役令嬢計画を開始することにした。大丈夫、何年もかけて僕は計画を練ってきた。前世であれだけプレイしたのだから僕が知らないエピソードなど無い。



「坊ちゃま、城から遣いの者が来ております。」

老執事のトーマスが少し困惑の様子で言った。

「城から?」

「はい。ジオハルト殿下が至急坊ちゃまに登城するようにとおっしゃられているようです。」


殿下が?なんで?

あの方は今イヴが説得しているはずだろう。


「迎えの馬車が待機しております。お急ぎください。」


なんだろう。僕は脱・悪役令嬢計画のために準備しないといけないから忙しいんだが。



残念ながらこの時の僕は、前世の僕が知らないエピソードが追加されようとしていることに気が付けなかった。




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