表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/34

08悪役令嬢、健闘むなしく帰宅する

「お帰りなさいませ、お嬢様。」


老執事のトーマスを筆頭に屋敷の使用人たちが私を迎えてくれた。


「ただいま戻りました。お兄様はお部屋にいらっしゃるかしら?」

「いえ、お坊ちゃまは先程お出かけになられました。」

「あら、そうなの・・・。」


殿下とのやりとりについて相談したかったのだが、不在ならば仕方がない。さて、どうしたものかと考えていると階段を降りてくるお母様を見つけた。


「お母様ただいま戻りました。」

「お帰りなさい、イヴ。待っていたわ、こちらへいらっしゃい。」

「はい。」

「ドレスの最終調整をしようと思って職人を呼んでいるの。」

「ドレス・・・・?」


貴族の女性はパーティーで二度と同じドレスを着ない。そのため年に何十着もドレスを仕立てる。もちろん既製品のドレスを購入したほうが早いのだが、本人に合わせたドレスを一から仕立てるのが上流階級では当たり前なのだ。


「・・・たとえ婚約の件がどうなろうとあなたの誕生日は間違いなくきますからね。誕生日パーティー用のドレスよ。」


お母様がにこりと笑った。

昨日のお兄様のお話のせいですっかり忘れていたが、もう何か月も前から私の誕生日パーティーの開催は決まっている。毎年多くの貴族の方々が参加してくださるので私もそのためにいろいろと準備をしてきていた。ドレスもその一つだった。


「殿下とのお話は・・・その顔を見るかぎりあまりうまくいかなかったようね。」

「ええ・・・。婚約破棄は了承いただけなくて。それどころか・・・私を妃にするつもりだと言い出されて・・・。」

「まあ!殿下がそんなことを?」


お母様も驚いた様子だ。そして私と同じはちみつ色の瞳が怒りの光をともす。


「ほかの貴族の家柄ならこれは大変喜ばしいことでしょうけどね。我が家にとっては悪報でしかないわ。陛下も了承済みなのかしら?だとしたらとんだ嫌がらせね。まだあの時のことを根に持っていらっしゃるのかしら。」

「あの時のこと?」

「ええ、もう20年近く前のことよ。わたしとリッキーがあの方の反対を押し切って結婚したの。さんざん文句を言われたわ!今思い出しても腹が立つわ!」


リッキーというのはお父様の愛称だ、本名はリチャード。ちなみにお母様の名前はイザベラ。お父様は時々愛称でベラと呼んでいる。二人は政略結婚がほとんどの貴族社会ではめずらしく恋愛結婚だと昔聞いたことがある。そのせいか今でもとにかく仲が良い。


「お母様たちの結婚は王家から反対されていたの?初めて聞いたわ・・・。」

「王家からではなくてあの方からよ。当時の陛下からは・・・今は前陛下ね、許可をいただいていたわ。だけどあの方ときたら、リッキーにわたしとの結婚がいかに面倒な事態を引き起こすかとか、わたしよりもっと良い令嬢を紹介するとかなんとか。最後の最後まで反対してきたの。あまりに口うるさいものだから熱々の紅茶でもかけてやろうかしらと思ったわ。」


私は先程殿下にお茶をかけてやろうかと思ったことを思い出した。どうやらあの発想は遺伝だったらしい。お互いに踏みとどまったが。


「反対されていたのはやはり・・・お母様の生家が原因?」

「そうね・・・。少なくともあの方以外で反対をしていた貴族の方々はそうだったと思うわ。」


お母様の表情は当時を思い出してか不機嫌そうになる。


いつの間にか私たちは部屋に着き、付き従っていた侍女が扉を開けた。部屋の中には完成間近のドレスが何着か飾られており、テーブルにはさまざまな布が広げられていた。


「お待たせしてごめんなさいね、マダム・シェリー。娘が今戻ってきたわ。」

「ご無沙汰しております、イヴ様。」

「こんにちは、マダム。」


リンスレット公爵家御用達のデザイナーであるマダム・シェリーに私も挨拶を返す。

お母様は結婚する前からずっとマダムのドレスを着ていたそうで、私の持っているドレスもほぼマダムの作品だ。マダムは人気のデザイナーで通常では仕立ててもらうには何か月も予約待ちしなければならず、お店にある既製品のドレスすら即完売してしまうそうだ。ありがたいことに我が家ではこうして希望の日程でドレスを仕立ててもらっている。


「ドレスは間もなく完成いたしますよ。本日は最終的な装飾についてご相談させてください。」

「このドレスの裾周りが少し寂しい気がしてね。色味を変えてみるのはどうかしら?」

「そうね、素敵。お母様とマダムにお任せするわ。」

「あなたが着るドレスなのよ?もっと真剣に考えてちょうだいな。」

「でも私よりお二人の方が私に似合うものを知っているんだもの。信頼してお任せしてるのよ。」

「まあ、この子ったら。」


怒るそぶりを見せながらもお母様は嬉しそうだ。社交界の大輪の花と呼ばれるお母様は流行にとても詳しい。むしろお母様が流行を作り出していると私は思っている。そのセンスに任せておけば間違いはない。私が下手に口をだすよりよっぽどいいだろう。現にお母様とマダムはさっそく私抜きで話を進めている。


私は侍女が用意してくれたお茶に口をつけながら先程のお母様の話を頭に浮かべていた。


お父様とお母様の結婚。

それは当時世間をかなり騒がせたと聞く。

なぜなら代々宰相を務めるリンスレット公爵家の子息と代々国軍の最高責任者を務めるアヴァンス伯爵家の令嬢との結婚だったからである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ