06悪役令嬢、なんとか粘る
今、なんだか状況が悪化した気がする。
いや、聞き間違いかな。
気を取り直してもう一度進言する。
「殿下、わたくしたちももう十分な年齢になりましたしそろそろ本当に結婚について考えなければいけない時期になりましたわ。もう露払いの必要もないでしょう。わたくしのお役目は終了でございます。ですから早急にわたくしとの婚約を破棄してくださいませ。」
先程よりもゆっくりと申し上げてみた。これなら殿下にもしっかりと聞こえたことだろう。
「愛しい婚約者殿の可愛いおねがいでもそれは聞いてあげられないなぁ。だって君は僕の妃になるんだから。」
うん、やっぱり聞き間違いじゃなかった。
婚約破棄どころか勝手に結婚しようとしてるんですけど、この人。
お兄様、助けてください。
お兄様はいくつか手はあるとおっしゃられていたけれど、このまま帰るわけにはいかない。このまま帰ったら私が結婚を了承したととらえられる可能性があるからだ。
私は必死に食い下がる。
「お話が違いますわ、殿下。わたくしたちの婚約は解消前提のものだったはずです。それに、リンスレット公爵家の者が王家に嫁ぐわけにはまいりません。殿下もそれはおわかりのはずでしょう。」
「リンスレット公爵家はこの国で今や一番力があるからね。王家と縁戚関係ができたらほかの貴族から不満の声があがるね、きっと。リンスレット公爵家を疎ましく思っている連中もいるだろうし、これ以上力を持ちすぎると国家転覆を企んでるんじゃないかって疑われたちゃうかもね。」
私は少しほっとした。殿下はちゃんと王城内の状況を正しく理解されているようだ。
「そう・・・そうなのです、殿下。わたくしたちは争いごとを望みません。リンスレット公爵家は意図して力を得たわけだはありませんので、ほかの貴族の方々とも調和をはかってこの国をお支えしたいのです。ですから、殿下・・・わたくしたちの婚約を破棄していただいて、別のご令嬢とご結婚を・・・。」
「だからそれは無理だよ、愛しい婚約者殿。」
またふりだしに戻る。
「婚約を破棄してください。」
「ダメだよ。」
「解消してください。」
「できないねぇ。」
「別の方をお探しください。」
「考えられないなぁ。」
美しい天使がだんだんと悪魔のように見えてきた。これだけ言ってもまったく聞き入れてもらえない。私がギリギリし始めていると、天使改め悪魔が何かを思いついたようで完璧な笑顔を向けてきた。
「あ、そうだ。もしかしたら僕の気が変わるかもしれないからちょっと上目遣いで言ってみてくれる?」
「・・・婚約破棄・・・してください。」
「もっとおねだりする感じで。」
「・・・婚約破棄してほしいな。」
「小首をかしげて両手を顎の下に添えて語尾はにゃんにして。」
「・・・婚約破棄してほしいにゃん。」
「うん可愛い。」
私は何をやらされたんだ。なにか人として大切なものを失った気がする。ちなみに目の前の悪魔はものすごく満足そうにお茶を飲んでいる。
「こ・・・これで婚約破棄はしていただけるんですよね?」
「まさか。残念だけど僕の気持ちは変わらなかったな。」
この人は本当に私の知る殿下か・・・!!もっと優しくて穏やかでキラキラしていたはずなのに!!不敬を承知で全力で殴りたい。
私は怒りで震えていた。
「お願いですから婚約を破棄してくださいませ、殿下!」
「嫌だ。」
誰でもいい。
お願いだから誰かこの人をなんとかしてください。




