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25.5混沌の執務室(2)

「ジオハルト!!」


勢いよく飛び込んできたのは・・・エドワードだった。


「エド?急にどうしたのかな?今日は謁見の予定無かったと思うけど・・・。」


友人ではあるがジオハルトは公務で予定が詰まっていることも多いので、エドワードにも毎回謁見の申請を出すようにしてもらっている。だが、今日は申請が来ていないはずだ。そのうちこちらから呼び出すつもりだったのでちょうど良かったが。


「そんな悠長なことしてられなかったんだよ!事態は一刻を争う!」

「・・・うん?」

「まさかこんなことになるとは・・・!」

「ちょっと落ち着いて説明してくれる?とりあえず座ったら?」

「落ち着けるわけないだろ!このままだとイヴが・・・他の攻略対象のルートに入るかもしれないんだぞ!」


必死に力説するエドワードにジオハルトは怪訝そうな顔をする。何を言っているのか全くわからない。エドワードは伝わらないことがもどかしく、身振り手振りを交えてさらに言葉を重ねる。だが前世の知識が入り混じるエドワードの説明はさらに難解になっていく。


「だから!イヴはジオハルトルート限定の悪役令嬢なんだよ!本来他の攻略対象ルートにイヴは出てこない!まあ、よくある転生もので悪役令嬢逆ハーレムルートもただイヴがモテモテになるだけならいいかと思ってたけど・・・!イヴが他の攻略対象に恋をした場合のリスクまで考えてなかった!イヴが他の攻略対象ルートに割り込んだら、もともと存在するライバルキャラはどうなる?もしもヒロインとライバルキャラとイヴの三つ巴になったら?僕はそのストーリーを知らない!回避の仕方がわからない!イヴを守ってやれないかもしれない!」


一気にまくし立てたエドワードは肩で大きく息をする。その様子は鬼気迫るものがある。ジオハルトにはいくつかわからない言葉があったが、とりあえずイヴが自分以外の相手と恋をする可能性があること、それによってイヴがなにかしら危ない目にあうかもしれないということだけは理解した。


「ヒロインが他のルートを選んでイヴと関係のないところで勝手にくっついてくれれば別にいいけど、昨日の感じではあのヒロインは自分が特別であることを信じて疑わないタイプだ。下手したらヒロイン逆ハーレムルートを目指してるかも・・・。そうなるとイヴはさらにやっかいな悪役令嬢の立場になる。だったらもう一番シンプルで僕も回避方法がわかるジオハルトルートに戻したい!」


エドワードがずいっと身を乗り出す。


「ジオハルト!僕がサポートするからイヴを他の攻略対象者から引き離してくれないか!」

「ちょっと待ってくれる?少し話を整理したいんだけど・・・。」


とんとん、と指で机をたたく。その音にエドワードもはっとなり冷静さを取り戻したようで身を正した。


「・・・攻略対象というのがよくわからないんだけど、とにかくイヴのことを狙っている男たちがいるということだね?そして君はその男たちの素性を知っていると・・・。」

「ああ。名前も家柄もどういう性格かもほぼ把握してる。」

「なるほど・・・その情報を駆使して彼らを排除すると・・・。」

「排除・・・うーん・・・なんか言い方が怖いけど、まあそうだね。」

「いろいろと聞きたいことはあるけれど、イヴを他の男に取られるわけにはいかないからね。とりあえず君の提案に乗ろう。」


その笑顔の裏側を考えると恐ろしいが、エドワードには彼を頼るしかない。前世の話をしたところで信じてもらえないだろうが、ジオハルトはなんらかの理由でイヴを手放したくないと考えているようなので力を貸してくれるとは思っていた。見返りを求められるかもしれないが、今はそれは置いておこう。


「さっき一刻を争うと言っていたけれど・・・すでにその予兆があるのかな?」

「・・・ああ。もし今の状況でイヴを他の攻略対象と恋に落ちたら・・・過激な行動を起こす可能性もある。たとえば・・・駆け落ちとか。」

「駆け落ち?」


嫌な響きである。


「僕だってそんなことさせたくないんだ。だから、さりげなく、自然に、それでいて早急に、イヴの側から彼らを引き離して欲しい。言っておくけど理不尽な処罰とかはだめだ。イヴが君に反感を持てば、他の攻略対象者の方に行っちゃうからな。」


ジオハルトは深くため息をついた。イヴとの結婚を反対する者たちへの対応ももちろんだが、こちらの方が厄介な問題かもしれない。エドワードが味方なのはありがたい。


「・・・それにしても意外だね。君は僕とイヴの結婚には反対していると思っていたんだけど。」

「え?反対してるよ?許すわけないだろう。無事にジオハルトルートに戻ったら、なにがなんでも婚約破棄させるから。」


エドワードがあっさりと告げる。何を言っているんだ、と言いたげな表情だ。


「・・・は?」

「で、ジオハルトにはヒロインと結婚してもらうから。」

「・・・何度か出ているけど・・・ひろいんって何?」

「ヒロインっていうのは女主人公のこと。この世界のヒロインはローズマリー・クレアだよ。」


ジオハルトが思わずむせた。その名前は昨日から不快な思いをさせてくれているあの男爵令嬢ではないか。


「どうして俺が彼女と結婚しないといけないのかな?」

「どうしてって・・・彼女はヒロインでお前は攻略対象だから。」

「だからどういう意味なのか分からないんだけど。」

「どういう意味って言われてもそのままの意味だけど。」

「そもそもなんで昨日の帰還式典にあの親子が出席していたのかもわからない。アヴァンス伯爵は何を考えているのか・・・。」

「ああ、それなら僕たちがおじいさまに頼んだんだ。クレア男爵とご令嬢を招待客リストに入れてほしいって。どうしても早く彼女とお前を引き合わせたかったからさ。」


今レオンが最優先で確認しにいっていることがさらりと白状された。ジオハルトの肩が怒りに震える。


「エド・・・最初から全部説明しなおしてくれる?なにもかも。今すぐに。」


魔王が降臨した執務室は混沌を極めていった。




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