16悪役令嬢、作戦成功?作戦失敗?
殿下を怒らせてしまった。
私が彼女にキツい言い方をしたせいか、それとも無視して立ち去ろうとしたからか。どちらにしても殿下からは今まで感じたことのない怒りが滲み出ている。
私は本能的に距離をとろうとしたが、なぜか殿下に右腕をがっしりと掴まれた。・・・どうやら逃してはもらえないらしい。
「・・・クレア男爵令嬢といったかな?」
殿下がご令嬢に声をかけた。口調はいつも通り穏やかで甘い。彼女はぽっと顔を赤らめる。
「はい、ジオ様!ぜひローズとお呼びください!」
「・・・父親の男爵はどちらに?」
殿下は愛称で呼ばれることを特に咎めることはなかったが、彼女が愛称で呼んでくれといった部分も特に触れることなく尋ねた。
「お父様とはさっきはぐれてしまって・・・。あ、いました!お父様ー!」
彼女が大きく手をふる。その方向から1人の男性がやってきた。
おそらくこの場にいる誰もが思っていたことだろう。父親よ、どうかまともであれと。
こちらにやってきたクレア男爵は黒髪に小さな目、そしてとてもふっくらとした体型で少し歩くだけで息があがっているようだった。どうやらご令嬢は完全に母親似らしい。
「ローズ!ここにいたのか!だめじゃないか、勝手に移動したりしたら。」
「ごめんなさい、お父様。でもジオ様の姿が見えて挨拶しなきゃって思って・・・。」
「え・・・?」
クレア男爵はそこでようやく殿下が目の前にいることに気付いたらしい。一瞬動きがぴたりと止まり小さな目を見開いたがすぐに礼をした。さすがに娘とは違い、殿下への挨拶の仕方は心得ているようで周囲もほっとする。
「クレア男爵、先日そちらのご令嬢を家に迎え入れたそうだね。」
「は・・・はい、そうなんです!実は少々事情がありまして今までどこにいるかわからなかったのですが、先日ようやく見つかりまして・・・!娘のローズマリーです!」
「さっき本人から聞いたよ。」
私は今殿下の半歩後ろにいるのでその表情は見えない。声だけではよくわからないが、まだ怒りの空気がただよっている気がする。・・・とりあえず腕を離してもらえると嬉しいのだが。
「以前より是非とも殿下に娘を紹介したいと思っておりましたので、この度はこのような機会をいただきまして感謝しております!」
王家からの招待状ではあるが、今回クレア男爵とご令嬢を招待客リストにこっそり追加したのはイヴたちだ。だが、クレア男爵はそんなことを知るはずもないので王家から目をかけてもらったと思っているようだ。
「実は娘は特別な存在なのです!必ずや王家に繁栄をもたらすでしょう!」
見ていなかったから仕方がないにしても娘があれだけ無礼をはたらいたというのによくそんなことを言えるものだと周囲は呆れていたが、私は心の中で万歳をした。クレア男爵はきっと娘の固有魔法について話すつもりだ。いろいろとあり一度は諦めかけたお兄様の作戦だったが、ここにきて急展開でなんとかなりそうだ。私は意気揚々と語り出すクレア男爵をこっそり応援する。
「我がクレア家の固有魔法は低級の風魔法でして、魔力も少ないので代々軍人になることも叶わないのですが・・・我が娘は突然変異なのか風魔法は受け継いでおりません!なんと娘の固有魔法は・・・治癒魔法なのです!」
クレア男爵は周囲にも聞かせるようにかなり大きな声でそう言った。ざわめきがいっきに大きくなる。
「治癒魔法!?」
「存在するのか、本当に!」
「まさか・・・そんなことあるはずない!」
全員の視線がご令嬢に注がれる。彼女は恥ずかしそうにしながらも自信に溢れているようにみえた。きっと父親から自分がどれだけ希少で特別な存在なのか説明されてきたのだろう。
うんうん、あなたは殿下に愛されてさらに特別な存在になるんだから自信満々で大丈夫。
「魔力の保有量もかなり多いようですし、娘は神に選ばれた存在です!殿下のお側においていただければ必ずやお役に立てるかと!」
クレア男爵の声量のおかげで会場の半分以上に伝わったのではないだろうか。しかもあれこれと騒いでいたので人だかりができ始め注目度が増しているようだ。
良い感じである。私はこっそりお兄様の方を確認した。お兄様もこちらに気付き満足そうに頷いている。
「そろそろ殿下もご結婚を決められなければならないと思いますが・・・治癒魔法を持つ妃を迎え、さらにその治癒魔法が殿下の御子に受け継がれれば民たちもますます王家を尊崇することでしょう!」
おっと。クレア男爵はずいぶんと野心家のようだ。婚約者である私がいる場で自身の娘を妃に推してくるとは。彼女の膨大な魔力と希少な固有魔法は確実に私を凌駕するので強気に出ていただいて私としてはまったく問題ないが。
「治癒魔法か・・・。実在するとは思わなかった。希少な固有魔法だね。」
「で・・・では!殿下のお側に・・・・!」
殿下のお言葉にクレア男爵とご令嬢の顔がぱっと輝く。
私も心の中で喜ぶ・・・が、少し首を傾げた。なんだか掴まれている腕が痛い。掴まれる力が強くなっている。
「たしかに怪我をしても医者いらずだし便利だね。」
「はい!ですからあたしをジオ様の」
「だからどうした。」
殿下の声がご令嬢の言葉を鋭く遮った。
うん?急に風向きが・・・変わった?




