14悪役令嬢、この場をなんとかおさめようと努力する
無礼に無礼を重ねるピンクの塊を誰もが息を殺してただただ見つめていた。
私はお兄様に助けを求めて視線を移したが、お兄様も予想していない状況だったのか呆然としている。こうなったら私がなんとかするしかない。
とりあえず私が一番にしなければならないことは・・・。
「殿下、非常時とはいえ殿下の御前に出てしまいました非礼をお詫び申し上げます。」
私は殿下に最敬礼をとり、先程殿下の前に飛び出してしまったことを詫びた。基本的に護衛をする騎士でもないのに王族の視界を妨げるようなことはあってはならない。
・・・ましてや、お兄様の前世の記憶の通りなら殿下は彼女に一目で恋に落ちたはずなのだ。そんな彼女が差し出した手を私が拒み、さらには彼女を責めるような口調をしてしまった。私としては彼女の評価が下がらないようにしたかっただけだが、きっと殿下は私が邪魔をしたと思ったことだろう。
「殿下の寛大なお心で先程の非礼と・・・できましたらこの場をわたくしにお預けいただくことをお許しいただけないでしょうか?」
私は顔を下げたままなので殿下がどのような表情をされているかはわからないが、あまりいい気分ではないだろう。殿下に非礼をはたらいたうえに、さらに身勝手な要求をしているのだから。だが、私もここで引くわけにはいかないのだ。殿下が彼女を不敬罪で処刑することは絶対にないが(恋に落ちているので)、私はこの先処刑されるかもしれない。万が一このまま殿下が彼女に愛を伝えるようなことになってはこの場にいる貴族の方々は猛反対し、私を妃に推すに違いない。それではダメだ。まずは私がなんとしてでも周囲の彼女に対する評価を上げておかなければ。
「・・・いいよ、許そう。」
「・・・感謝いたします。」
殿下は私の身勝手を許してくださった。きっと私のことなんて突き飛ばして彼女を抱きしめたいだろうに。
待っていてください、殿下。邪魔者はきちんとお役に立ってからお暇しますので!
殿下の表情は見ないようにして私は彼女に向き直った。彼女は私がとった一連の行動がよくわからなかったようで不思議そうにしている。
改めて彼女を観察してみるとたしかに大変可愛らしい女性だ。淡いピンクの髪はふわふわと揺れていて甘い香りがする。濃いピンクの瞳はおいしそうな果実のようだ。小首をかしげるしぐさも小動物のようで庇護欲をそそられる。同性の私から見ても守ってあげたくなるようなご令嬢だ。無礼な振る舞いもよく言えば天真爛漫で愛らしいと思えなくもない。
なるほど、殿下はこういう女性がお好きだったのか。・・・私とは違いすぎる。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくしイヴ・リンスレットと申します。お名前を伺ってもよろしいかしら?」
「ローズマリーです!ローズって呼んでください。」
・・・なぜ家名を名乗らない?愛称なんて聞いてないんですけど。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて再び問いかける。
「お名前は家名もお教えいただけますか?」
「あ!ごめんなさい!クレアです!ローズマリー・クレア!実は最近この名前になったばかりでまだ慣れてなくって・・・。」
顔を赤らめた彼女は可愛らしさが増した。物語の主人公である彼女はどんなことをしても可愛くなるような魔法がかけられているらしい。まあ、可愛いだけではどうにもならないことの方が多いだろうが。
にしても今の会話は使えそうだ。とにかく彼女は貴族の一員のなって日が浅く、知識がなかったので多少の無礼は仕方がなかったと印象付けよう。もちろんそれだけで最悪な第一印象は消すことはできないので、さっさと彼女が治癒魔法を使えることを公表してもらおう。唯一無二の固有魔法を持つとなれば一気に周囲の見る目が変わるはずだ。
「まあ!クレア男爵家のご令嬢でしたか。先日、市井で暮らしていらしたご令嬢をクレア男爵が迎え入れられたと伺いましたわ。きっと本日が初めての社交場でしょう。ご存じないことばかりで大変ですね。マナーなどもいろいろ複雑ですからこれからしっかり学んでいってくださいね。」
周囲からため息がもれる。私の言葉の意図が正しく伝わったようだ。元庶民、マナー教育は受けていない、無礼な態度は悪気があったわけではないのだということが。理解の早い貴族の方々には感謝しかない。あとは固有魔法の話題にどうやってもっていこうかと考えながら彼女を見てぎょっとした。
淡いピンクの瞳からは大粒の涙がこぼれていたのだ。
「ひどい・・・!あたしが庶民だって馬鹿にしているんですよね!あたしはお父様の実の娘です!あたしはあなたと同じ貴族です!」
なんと。周囲の理解を得るために市井育ちだということを強調したのがいけなかったらしい。私が彼女を侮辱したように聞こえたのか。
「いえ、そういうことではなくてですね・・・。今までのあなたの常識が必ずしも貴族社会での常識と一致しないと思うのできちんとこれから学んで行かれた方がいいですよという助言ですわ。」
「それってあたしは貴族社会に向いてないからさっさと庶民の生活に戻れっていう意味ですよね!ひどい!」
「いえいえ、言葉の通りの意味ですわ・・・。」
なぜこんなに被害妄想が激しいのだ。私はなんとか彼女をなだめようとする。だが彼女はますます言葉を強くした。
「本当に貴族の人たちってひどい!そのドレスだって食事だって全部領民が必死で働いたお金でしょ!民が苦しんでいるのに自分たちは贅沢にのうのうと生きていて・・・!民がどんな思いで生活しているか知らないでしょう!それなのに馬鹿にして見下して・・・!」
・・・この言葉にはさすがにカチンときた。
私はすうっと目を細めた。




