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八話 世紀の大脱出劇開幕! 美少女怪盗VS欲深き聖女①

えー、更新間に合わなかったので、今日中にもう一話更新します。

「よぅし! それじゃ、いっくヨー!! 世紀の脱出劇を御覧じろっ! てネ!」


「…………準備とか、いいのか?」


「おお? アイちゃん、ボクの心配してくれるのー? もー! やぁさしいっ! でもでも、問題ナッシングのモーマンタイ! 怪盗は準備を怠らないモノなのだよん」


「…………そうか、ならいい。あと、別にお前の心配をしたわけじゃない」


「やーん、フラれちったぜ! てかさ、アイちゃんって……」


「…………なんだ?」


「もしかして、ツンデレさん?」


「…………なんでそうなる」



 とまぁ、そんなやり取りをキャロルとしつつ。


 キャロルが俺を盗む計画は、始まる。



「…………こんなに目立ってもいいのか?」


「うーん、目立ってもいいというか、目立たなくちゃいけないといいますかー? まっ、その辺はキャロルちゃんに任せとけー? なんせこっちはプロの怪盗だからねん」


「…………怪盗にプロもクソもないと思うが?」


「ふっ……心に独自の『美学』と『矜持』もっている者……それこそがプロの怪盗なのサ!」


「…………キャロルに、それがあると?」


「ボクの『美学』! 可愛いは正義! ボクの『矜持』! カワイコちゃんの笑顔を守ること!!」


「…………聞いた俺が馬鹿だったは」


「酷いっ!? うぇ~~ん、アイちゃんが虐める~」



 ……コイツに任せてもいいモノかと不安になる気分もあるが。


 わざとらしいウソ泣きをしながらこちらに抱き着こうとしてくるキャロルを押しとどめ……押しとどめ……られないので、諦めて抱き着かれながら、俺はそっとため息を吐いた。


 鳩尾あたりに感じるやわっこい感触とか、ふわりと鼻腔をくすぐる


 

「およ? アイちゃん、斥候職のボクよりもSTR低いんだー? もしかして魔法職かー?」


「…………多分?」



 その変はよく分からないというか、このゲームについてそこまで詳しくないので、自分がどういうスタンスのプレイヤーなのかは自分でも理解していない。


 だがまぁ、スキルに魔法が三つある時点で魔法職なのは間違いないだろう。


 キャロルに肯定の返事をしようとして……はたと、思いつく。


 そうだ、ここにいるじゃないか。明らかに俺よりもゲームに詳しいヤツが。


 キャロルに俺のステータスを見て貰えば、俺がこのゲームに置いてどの程度の存在なのかが分かるはずだ。……まっ、ランダムで全て選んだヤツが強いわけもないし、雑魚判定を食らって終わるかも……てか、十中八九そうだろう。


 メニューを開いて……えっと、自分のステータスを、他人にも閲覧可能にするには……おっ、これで出来たか。



「アイちゃん、何してるのカナ?」


「…………ほい、俺にはよく分からないから、お前が見てくれ」



 俺に抱き着いているキャロルに、可視化したウィンドウを見せる。


 突然現れたソレにぱちくりを目を瞬かせたキャロルが、首を動かして俺のステータスを上から下へ。下から上へ。もう一度、同じ動作をした。


 そして、ぱちぱちと何度も瞬きをしながら、キャロルは俺のステータスに向けていた視線をこちらに向け――



「ぇええええええええええええええええええええッ!!!!????? あ、あああああアイちゃんッ!!?? こ、こここここれはい、いいいい一体どういうことなのカナ!!!!?? カナぁああああああ!!!?」


「…………え、うるさ。……なんでそんなに驚いてるんだ?」



 めっちゃ叫ぶじゃん。鼓膜無くなったかと思ったわ。


 にしても、なんかおかしなところとかあったっけ? ……ああ、なるほど。



「…………教会にいた俺が、なんで装備品を持っているか、だろ? そう驚くことでもない、ただの貰い物だ」


「そっこじゃないんだナー! いや、そこもそうなんだけどさッ!! ツッコミポイントはもっといろんな場所にありまして!!?」


「…………戦闘してないのに種族進化してるのは、種族スキル『信仰』のおかげだ」


「んんんんんーー!!? ツッコミどころだらけで何処から突っ込んでいいのかわっかんない!? もー、驚きすぎて杉になりそうだゾ!? アイちゃんは、まるでびっくり箱みたいだナ! ……マァ、詳しい話は後で……聞いてもいい感じ?」


「…………お前に教えることに、何か問題があるのか?」



 きょとん、としながらそう呟く。何故か、キャロルもきょとんとした表情になった。


 そんなにおかしなことを言ったつもりはないんだがなぁ……だって。



「――――…………キャロルなら大丈夫って、俺は信じてるから」



 俺がそう言うと、キャロルは驚いたように目を見開いた。パクパクと口を開けたり閉じたりと、餌を求める金魚みたい。絶句という言葉がよく似合う感じだった。


 ……まぁ、ガラでもないこと言ったからな。ちょっと恥ずかしい。さっと顔を逸らす。


 けれど、その言葉に、一切の嘘偽りはない。


 俺なんかの話を真面目に……まぁ、真面目だったかは議論の余地があるが、それでも聞いてくれた彼女のことを信じなくて、誰を信じると言うのか。


 このゲームの中では一番、リアルを換算しても家族以外では一番信用しているかもしれない。え? 家族以外に信用できるヤツがいないだけだろって? ほっとけ。


 てなわけで、キャロルが気になると言うなら、俺のステータスを見せる程度、これっぽっちも問題がなかったのだが……キャロルの反応的に、何かまずかったのね?


 俺が首を傾げていると、キャロルは「はぁ~~」と大きなため息を吐き、俺の胸にぐりぐりと頭を押し付けてきた。



「…………キャロル? どうした?」


「んー、あー、なんというかー……アイちゃんって、心臓に悪いにゃーって」


「…………意味が分からない」



 俺はトリカブトかなんかか。



「いーからっ!! さっ、そろそろ作戦を開始するヨっ! アイちゃんも準備準備っ!」


「…………お、おう」


 

 結局、キャロルは俺の発言の何処が心臓に悪かったのは教えてくれず、ヤケクソといった感じでテンションを上げながら作戦実行の時を迎えた。


 気になりはしたけど……まぁ、本人が言いたくない様子だったし、無理に聞き出すこともないな。


 ……それにしても。


 俺から離れた時、髪の隙間から見えた耳が真っ赤に染まってたのは、何だったのだろうか?










side:アリーゼ





「ふぅ……とりあえずはこれで良いでしょう。総本山に送る書類、貴族の手紙への返答……出世のためとは言え、やることが多いですわねぇ」



 ワタシ――アリーゼは長時間の書類仕事で凝り固まった肩を叩きながら、独り言ちました。


 夜も更けた時間に行っていたのは、業務外の私事……具体的に言えば、あの『天使様』を利用する計画に必要な書類の制作や、各方面へのコネクションを得るための下準備。


 とはいえ、天使様という強力で扱いやすい手札がありますので、ワタシの計画は成功したも同然と言っていいでしょう。


 まったく、望外の幸運でしたよ、天使の存在は。あれほど利用しやすく、各方面への影響力が大きい駒など、狙ったところで手に入らなかったでしょう。


 こちらのいうことを何でも聞き、文句一つ言わない。欲の一つも見せず、まるで意志がないように言われたことを淡々と行う。


 天使は神の使徒であると同時に傀儡でもあるという、異端視されていた説を耳にしたことがあるのですが……あながち間違っていなかった、ということでしょうか?


 彼女の存在は、まさしく神の奇跡と言ったところです。


 ええ、そうです。これは、神がワタシの行いを認めたということに他なりません。


 ワタシはこんな地方都市の聖女で終わるような、矮小な人間ではないのです。


 美貌も、能力も、まるで釣り合っていない。もっともっと高い地位にいて然るべきなのです。


 なのに、『経験が浅い』だの『信仰心が足りない』だの……何も分かっていない老害風情が、ワタシの邪魔をするんじゃない。



「くふふっ……しかし、それもここまでです。ワタシは天使を教会に招き、住民たちに加護を与えさせることによる信仰心の向上。さらには権力者との繋がりは教会の利となる……この功績を以て、私は今よりもずっと高いところに行ける」



 これから訪れるだろう薔薇色の未来を夢想すると、ふふっ、笑みが止まりませんね。



「さぁ、明日も早いですし、もう休みましょうか……って、あら?」



 ――――ひらり。


 天井から、一枚の紙片が落ちてきて、机に落ちる。天井――いえ、天窓からですか。


 慌てて上に視線も巡らしますが……ダメですね、気配を感じ取れません。とりあえず、魔道具を使って警備の神官騎士に侵入者在りとの報告をします。


 さて……手掛かりとなりそうなのは、この紙片だけですか。


 ……魔力は感じられません。魔道具の類ではないようです。


 机の上にあるそれを手に取って、裏返します。そこには文字の羅列が書かれていました。


 それに視線を通し――ドンッ! と、紙片を机に叩き付けました。



「ふざけているのですか……!?」



 震え声で、怒りの言葉を吐き出します。……侵入者は絶対に許しません。ええ、許しませんとも。



『欲深い聖女に告ぐ。今宵、教会に囚われし可憐にて清廉なる【秘宝】を頂戴しに参上いたします。――――美少女怪盗より』



 もう一度、ふざけた文面に目を通したその瞬間――遠くで、炸裂音が響き渡りました。

 

読んでくれてありがとうっ!! 


ブックマ、評価もありがとうございます!!

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