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七話 美少女怪盗様にご依頼を。なお、盗んでもらうお宝は俺な模様

ギリギリセーフッ!

更新です!

「それでそれで? アイちゃんって、プレイヤー……えとえと、『漂流の使徒』だよネ? なーんで教会にいるの? そう言う趣味かー?」


「…………俺にもよく分からん」



 不思議そうに聞いてくるキャロルに、憮然としてそう返す。なお、依然として膝枕は継続中である。


 いやもうほんと、なんでだろうね? よくよく考えれば……や、よくよく考えなくてもおかしいと気付け、俺。 


 強いて言うなら、コミュ力不足で『言いくるめ』と『信用』に失敗したからじゃないかな? 『隠れる』とかなら自動成功しそうなんだけど……。


 取り合えず、ぽつりぽつりとキャロルへこの一週間のこと、ついでにこのゲームを始めるた理由なんかを話した。


 ふんふん、と相槌を打っていたキャロルは、話が進むにつれてどんどん笑いをこらえているような表情になっていった。……うん、まぁ。馬鹿なことをしている自覚はありますよ、ええ。


 理解していても納得はしがたい気分になりつつも、最後まで話し切ったその直後。



「ぷっ、くくっ……にゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」



 キャロル、大爆笑。


 遠慮とか気遣いとか、そんなものは何処にも感じられない、いっそ清々しいほどの笑いっぷりだった。腹を抱えて、目尻に涙まで浮かべていやがる。



「…………そんなに笑わなくてもいいだろ」 


「ぷっ、くく……いやぁ、アイちゃん。それは無理だネ! だってだって、コミュ力低すぎで強制天使様ルートに突入トカ、オモシロすぎてお腹よじれそうですしー? ……ハッ、まさか! アイちゃんこそが、ボクと笑いの頂点の座を競い合うライバルエンターテイナーだったり!? な、なんだってー!? 先手を取ってくるとはやるじゃねぇか! いようし、ここはボクもとっておきのネタを……!」


「…………やらんでいい。あと、心外が過ぎる」



 誰がエンターテイナーだ。名乗ったことも呼ばれたこともないわ。俺に出来ることなんて、精々己の道化っぷりで失笑を買うくらいだな。代わりに、俺のメンタルが襤褸屑になるが。


 ひとしきり笑ったキャロルは、んー、と唇に伸ばした人差し指を当て、俺を見つめながら何かを考え始めた。じっと向けられる紫紺の瞳には、おふざけのない真剣な光が宿っている。


 こいつ……ふざけている時と真面目な時のギャップが凄いな。温度差で風邪引きそう。


 こういう顔してると、文句なしの超絶美少女なんだよなー……って、そんなこと考えたせいで、現在状況がくっそ恥ずかしく思えてきたんだが? 


 なんか雰囲気に流されてされるがままになっていたけど、膝まくらって……あっ! だめだ! 意識するともう……くっ……顔が熱くなるぅ……!


 

「んー……って、おやぁ? アイちゃん、なんでそんなに顔真っ赤なのカナ? カナ? もしかしてー……恥ずかしくなっちゃった? きゃっ!」


「…………ッ」



 くそっ、とっさに手で顔を隠そうとしたけど、間に合わなかった……っ!


 ぅう……み、見るなよぉ……! にやにやしながらわざとらしく「きゃっ!」とか言うなよぉ……! 頬っぺたに両手を添えるあざといポーズもやめろぉ……!!


 

「んふふー! アイちゃんかーわいい! 見た目もそうだけど、これで男トカ、完全に女の子に喧嘩売ってるネ! やっぱり女の子なのでは?」


「…………男って言ってんだろ、怒るぞ」


「きゃー! アイちゃんがおこったー!」



 か、完全に馬鹿にされてやがる……! キャロル、俺のこと小学生か何かだと思ってないか? いや、確かに身長はそんなに高くないけどさぁ! それでもお前よりはデカいんだぞ!?


 そんな不満を視線に乗せて送ってみるが、キャロルは何処吹く風とにこやかに微笑んでやがる。無敵かよ、コイツ。


 はぁ、とため息を漏らす。これ以上何かを言っても無駄みたいだし、このまま話を続けよう。



「…………それで、お前はなんでここに来たんだ?」


「およ? 言ってなかったかー? 『教会の天使様』って、プレイヤーの間でも噂になってるんだゾ!」


「…………まじで?」


「マジのマジ!」


「…………まじかぁ」



 なんでも、掲示板とかで『教会に天使がいるらしい』とか『NPCだけに加護を与えているらしいけど、何かのクエストフラグか?』とか『ところでその天使って可愛いの?』みたいな感じで噂になっているんだとか……最後、ちょっと待てや。



「まぁ、噂の天使様の正体は、ちょっと抜けててコミュ障なだけのカワイコちゃんだったわけでー? クエスト期待してた人たちは残念賞! って感じだネ! 可愛さ期待してた人たちにとっては、大当たりだったけどネ!! あっ、ちなみにちなみに、ボクは可愛さ期待してた方だヨ!」


「…………外でそんなことが起きてるとは。あと、聞いてない」



 ずっと教会にいたから分からんかったなぁ……うぅ、見知らぬ人間から注目を集めてると聞いて、ちょっと胃が痛くなってきたぞ……?


 人の視線を避けて生きてきた日陰者に、いきなり無数の視線を浴びせるとか、ナメクジに塩を振りかけるようなもんだからな? 死ぬよ? あっけなく死んじゃうよ?


 俺ががっくりと肩を落としていると、キャロルがぐいっと目を覗き込んでくる。至近距離に紫紺の瞳が……って、後頭部にがっつりと柔らかいものががががが……! 


 やめて! 押し付けないで! 堕ちちゃう! 堕ちちゃうから! 俺の種族が《大天使》から《堕天使》になっちゃうからぁ!!


 こいつ……もしかして俺が男だってこと忘れてるんじゃねぇか!? てか、なんならこの身体でも女ではなかったよなぁ!!? 『性別:無性』だぞ俺は! 



「…………は、離れろ、リインディア」


「おおっ!? ああ、キャロルちゃんのおっきーおっぱいが当たっちゃってたネ! もっと堪能してもいいんだゾ? あと、キャロルって呼んで? てか、呼べー!」


「…………そ、そう言うことを平然と言うな……! あと、呼ばん……!」


「アイちゃん、ATフィールド固すぎなんだが?? もー、こうしてやるっ!!」


「ちょっ……ひゃっ、やめ……!!」


 

 わっ、脇をくすぐるなッ!! く、くすぐった……ま、マジでやめろぉ……! てか、脇腹に手を伸ばしたせいで、む、胸が完全に顔に乗っかって……もががががっ!


 ギブッ、ギブッ! とキャロルの腕をぺしぺしする。おらっ、離れろこの奔放女め!



「あっ、いっけなーい。アイちゃんが窒息しちゃう。因みにこのゲーム、窒息で普通に死ねるから、注意しとけー?」


「…………ぷはっ! ……いらんだろ、その豆知識……!」


「ねぇ、知ってる? ボクってEカップなんだヨ?」


「…………そ、その豆知識も必要ない……!」



 さっと顔を逸らした俺を、キャロルはにひひっ、と完全に面白がっている笑顔で見つめている。……なんだか、すっかり遊ばれてるな。


 ……けど、なんでだろうか。そんなに嫌な気分じゃなかった。


 誰かと話すのは怖いことだ。勇気がいることだ。精神を使うし、疲れる。


 何を言っていいのか分からなくなるし、自分の発言を相手がどうとらえるのかも分からない。


 自分の発言で相手が傷つくことも、相手の発言で自分が傷つくことだってある。


 会話とは、誰かと接するとはそう言うモノなのだ。


 俺は、誰かに何かを言おうとすると、言葉が出なくなる。ぐちゃぐちゃと頭の中でいろいろ考えすぎて、すぐに真っ白になってしまうのだ。


 けれど、キャロルとの会話は……どういうわけか、それが起きない。


 その軽い態度が原因なのか、道化じみた振舞いが原因なのか、衝撃的な登場に驚き感覚が麻痺しているのか。それははっきりしない。


 ただ一つ分かるのは――コミュ障で誰かと話すことが大の苦手で、それを恐れてすらいる俺が、彼女との会話を『楽しい』と感じていること。


 キャロルの顔をじっと見上げる。


 「ん? なーに?」ととても嬉しそうな、今を全力で楽しんでいますっ、ていう感情がこれでもかっ、と伝わってくる笑顔を浮かべるキャロル。


 そんな彼女を見た瞬間、俺の中に何かが湧き上がってきた。


 熱量、衝動、情動、欲求。名付けるとしたら、そんな言葉が当てはまりそうなソレを、そのままに口にする。



「…………なぁ、リインディア。頼みがあるんだ」


「んー? ボクに依頼ってことかナー? どんな芸が見たい? なんだってしてあげるよんっ!」


「…………エンターテイナーじゃなくて、怪盗の方だ」



 そう言うと、キャロルは目を見開いて――ニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。



「――――ほう、このボクに盗んで欲しいモノがあるってことかい? 詳しく」



 雰囲気が切り替わる。おちゃらけたエンターテイナーは鳴りを潜め、何処か鋭利で怜悧な空気を纏うキャロル。


 そんな彼女に、俺はそっと手を伸ばしながら、『依頼』を口にした。





「――――――…………俺を、この教会から盗んで欲しい。リインディア、受けてくれるか?」




「……んー、そうだナー」



 キャロルは少し考えるそぶりを見せた後……そっと、俺の手を取った。



「分かったヨ。その依頼、この天才美少女怪盗、キャロル・リインディアが万事遂行してみせよう!! ……て、ことでー」



 キャロルは膝まくらをやめ、ベッドから降りる。


 彼女は俺の手を引いてベッドの淵に座るように誘導すると、手を握ったまま、その場に跪いた。


 恭しく、まるで物語に出てくる騎士のようなポージング。それがやけに様になっており、不覚にもカッコいいとか思ってしまう。悔しい。


 

「――――『教会の天使様』殿。貴方はボクの狙う秘宝となりました。つきましては――」



 やけに芝居がかった口調でそう言ったキャロルが、すっと顔を上げ、精悍な表情を――見せず、悪戯っぽくウインクを一つ。



「ねぇ、ボクに攫われてみない? 囚われの天使様?」


「…………よろこんで。で、いいか? 怪盗様?」


「「――――――ぷっ」」



 それに乗って、ちょっと気障っぽく言って――俺とキャロルは、ほぼ同時に噴き出したのであった。 

明日は朝に更新できるように頑張ろう……。

てことで、読んでくれてありがとうございまーす!

次回は……戦闘、あるかな? あるかも。


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